表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/134

遭遇、予想外

 僕は酒場を目指してノウィンを歩いていた。ただ歩くだけでもマリアやアナスタシアがいないかと気が気ではなく、視線はキョロキョロと辺りを見渡している。この時間帯には二人はいないだろうという事はわかっているが、確認した次の瞬間にはまた視線が同じルートをさまよっている。


「……何だ?」


 何度も首を巡らせた所でマリアやアナスタシアの姿が見える事は無かった。だがその一方でなにか普段とは違う違和感を覚える。


 なんとなく村民の態度(・・・・・)がいつもと違う。視界に入る人々が僕の事をよく見るが、距離を詰めてきはしない。すれ違い様の「久しぶり」と言う声がなんとなくよそよそしい気がする。


 僕は多分三日寝ていた。ならばその三日で何かが起こっている。少なくとも村民の僕の見る目を変えてしまうような何かが。



 ……もしかしてもう全てがばれているんじゃ?


 マリアはほぼ真相に辿り着いていた。どういう流れにせよそれが他の人間にも知れ渡ってしまったとすれば、その推理を補完する人間が現れてもおかしくはない。ライトがステラを殺した。ライトは殺人者。すれ違った村の皆がそう思っていたとすれば……。


 いや違う、違う。そんな訳が無いじゃないか。

 額から一つ汗が滴ったところで、かぶりを振る。


 もしも僕が殺人者だとばれているならこんな生ぬるい空気で済むはずがない。怒りに燃えた村人たちはもっと直接的で激しい感情をこちらに向けているだろうし、なんなら一言くらいの罵声が飛んできても不思議ではないはずだ。だからこの空気はそれ以外の何か……あるいはただの勘違いだろう。


 単純に僕が三日寝ていたという事が村で噂になっていただけかもしれない。久しぶりに顔を見せた僕の事を珍しそうに観察していただけなのかも。挨拶だけで誰もそこに触れてこない事についてはやはり謎だが、そう考えて無理矢理納得するしかない気がする。


 結局酒場で目一杯の蒸かし芋を買ってから外に出ていく間も、その空気は僕の周りに付きまとい続けていた。僕自身の神経が過敏になっているだけなのだろうか。振り払うように袋から芋を掴み、空腹感のままに齧った。


「あらあ!? ライト君じゃないの! 起きてきたのねえ!」


 気を緩めて咀嚼し始めた途端に差し込まれたその声に、心臓が止まりそうになる。すりつぶした芋を喉に詰まらせかけながらも、なんとか動揺を抑えて声の方を向く。


「あららら! ごめんなさいねえ、詰まらせなかった? でも良かったわ、ずっと寝てるって聞いて心配しちゃってたもの」


 横に大きな体躯から発せられる、朗らかによく弾む声。そこにいたのは最近診療所の同僚となったローザおばさんであった。


「もう体は良いのかしら? うんうん、ちゃんと歩けるみたいだし問題無さそうねえ」


「それは……まあ……」


 僕の肩をぽんぽんと叩きながら体調の正常を突き付けるローザおばさん。三日の空白を仮病と診断されているような気がして、なんだか心がもやもやする。


「ねえライト君、そろそろ診療所に顔を出せないかしら? 先生も来てほしいって言ってたわよお」


「え、いやそれは……その……」


 マリアと顔を合わせづらくてもうずっと診療所の仕事は無断欠席している。それの何が解決した訳でもないのに、そろそろもクソもあったものではない。


「うん、その年頃だと色々あって悩むのはわかるわよお。でもお願いよう、ライト君にも手伝ってほしいのよう」


「……悪いですが、そんな気分にはなれません」


 そんな風に『色々あって』の中に混ぜ込んで誤魔化せるほどの小さい悩みであればどれほど良かったか。僕だって年相応のレベルで悩んでいたかった。


「もう僕の事は当てにしないでください。僕は何かの役に立てるような人間じゃないんです」


「そんな事言わないでよお。診療所でヒーラーをやってくれる人も少なくてねえ……お願いよお、村を助けると思って」


 僕が断るのも気にせず話を続けるローザさんにイライラしてくる。こんなことをしている間にマリアと鉢合わせるかもしれないのに。


「もうずっと人手が足りてないのよお……だって、マリアちゃんも村を出て行っちゃ(・・・・・・・・)った(・・)でしょう?」


 あまりに当たり前のように言われ、最初はただ何を言っているのかと思った。何をふざけているのかと。だがそう言う彼女に特にふざける理由も無い事、そしてマリアがそれをしない理由(・・・・・・・・)も無い事に気付き、僕の心からはわずかな苛立ちも微かな疑問も吹き飛んでいた。


「今、なんて……?」


 出てきた言葉はそれだけだった。今朝の村の中でただ一人の間抜けだった男がそれに似つかわしく口を開いていた。

下の☆☆☆☆☆を押すと作品を評価できます。

多く評価された作品はランキングに載り広まります。

よろしければ評価をおねがいいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓コミックス2巻発売中!(クリックでamazonへ)
html>


コミックス1巻はここをクリック
※Amazonのアソシエイトとして、ガッkoyaは適格販売により収入を得ています。



↓クリックで漫画版が読めます!
html>
ニコニコ静画で漫画公開中!


↓告知動画も作ってみました
youtube:その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 そのサ その9 その10
ニコニコ動画:その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 そのサ その8 その9 その10

※今後も増える予定です
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ