表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/134

二人の道

 夕暮れ時、ノウィンの中ほどを横切る道を二人の冒険者が歩いている。まだ仕事をしている大人も多いが、子供達が家まで走って帰っていった後の村は少し静かな空気に包まれていた。


「ライトさんはもう帰ってたんですね。今日の休憩時間に会えるとは思ってませんでした」


 あれから授業が終わり、僕はマリアと診療所へと歩いていた。戻る場所が同じである以上、自然と二人一緒に帰る事となる。


「ん? うん……」


 もう帰ったんですねという口ぶりが、なんだか僕の村外遠征を言い当てられているような気持ちにさせられる。別に村内の用事だって行ったり帰ったりするのだから特別な含みは無いのだろうが。


「一緒に休憩に出る時以外は、村でも全然姿を見かけないですもんね。もしかしてダンジョンにでも潜ってるんですか?」


 何気ない調子でこちらに尋ねるマリアに、返答に詰まらされる。透き通るような長い髪が夕日に照らされ、手を伸ばせば触れられる距離の彼女に神秘的な雰囲気をまとわせていた。


「ま、まあ色々だよ。それにしてもマリアが子供たちの先生をやっていたなんてな」


 自分の用事をごまかしつつ、話の流れをマリア自身の方へと向ける。思えばこの村に来た時からこんな事をしてばかりだ。彼女の方は僕が注意を向けるとちゃんとそれに応えてくれるのに。


「ええ、休憩時間に何かやる事が無いかなって考えてたら思いついたんですよね。それでリーダーや村長に聞いてみたら是非にって言われたもので」


「なるほど」


 経緯に納得する。村の後に続く何かを考えた場合村民への教育は重要であるし、提案を受けた村長達はもろ手を挙げて歓迎した事だろう。その立場にいない僕でさえ、村の子供達が教育を受けている場面にはほっとする気持ちがあった。


 ただ同時に、大勢の子供に分け隔てなく自分の知識を分け与えているマリアを見ると、なんだか少しもやもやしたような変な気持ちにもさせられた。思えばパーティを組んでいた時は主にマリアの話を聞いていたのは僕だった。彼女が何気なく話す雑多な知識に一番多く質問を返していたのは僕だし、彼女もそれに応えて色々な事を教えてくれた。例えば先ほどの子供達が同じように彼女のもとを訪ね質問すれば、彼女は僕にしたのと同じように自分の知識を分け与えるのだろうか。


「どうしましたか?」


 笑顔で無防備にこちらの顔を覗き込むマリアに、一瞬心臓が跳ねる。今考えていた事をそっくりそのまま見通されてしまったのではないかと、そんな訳も無いのに変に焦って挙動不審になってしまう。


「い、いや、良い活動だなと思って。文字もそうだけど、それに合わせて色々な事を教えてあげてるだろ」


「そうでしょ! 知る楽しさを経験できないなんてかわいそうですもんね! これからどんどん色んな事を教えて、村中の子供を物知り博士にしてあげます!」


 もう明日以降の授業にやる気を見せているマリア。僕の心の奥の事など気付いてもいないその様子に、思わず笑いがこぼれてしまう。


「マリアは先生が向いてるんじゃないか? これからもずっとノウィンで教えてくれたらいいのに」


 マリアが教えてくれるならノウィンの子供たちにとってもこれ以上ない待遇だろうと、冗談半分にそんな事を言ってみる。


「ええ~? ライトさん、それはあれじゃないですか~(笑)」


「あれとは?」


 にやにやしながら言うマリアに、僕は言葉の真意がわからず聞き返す。


「だから~。ず……ずっと、一緒に村にいてほしいって事じゃないですかあ」


 ふざけ半分で言っていたはずが途中で照れて尻すぼみになるマリア。……いやだからそういうのは照れるくらいなら言うなよ! なんかドギマギした空気になって結局こっちまで恥ずかしいんだよ!


「えっとまあ……そうだ、マリアは世界地図って売ってるの見た事あるか?」


 変な空気になったのを払拭するため、マリアにも世界地図に心当たりがないか聞いてみる。話題が彼女向きだった事もあってか、すぐに反応が返ってきた。


「あー、世界地図はちょっと……実家にならあるんですけどねえ」


「そっか。まあ普通の場所には無いよなあ」


 彼女の興味の広さからして、店で地図などを見かけたらその事を覚えているだろう。マリアが見ていないというのなら、やはりそうそうお目に掛かれるものではないらしい。


「それっぽいのならあったんだけどなあ。でも信憑性が怪しいし、都市の名前も書いて無いんだ」


 そう言い、町で買った観賞用の地図を広げる。するとマリアも興味を惹かれたのかそれを覗き込む。


「あー、これはちょっといい加減な地図ですねえ」


「やっぱり?」


 薄々予想していた事をこの場に言い渡され、少しガッカリとした気持ちになる。


「例えばここ、ドルナシャ大陸の形がかっこよく誇張されすぎです。この半島はこんなに角ばってないですし、あとガムラ大陸のこの山脈もなんか一本多いですね。ここには聖域都市ロドゥワがあるんだから、こんな上書きするような位置にあるはずありません。そもそもこの地図全体に言える事なんですけど、河の流れが全部無視されていて……」


 広げた地図を指さしながらあれやこれやとダメ出しするマリア。なるほど観賞用に元の地図を誇張したものだという事がよくわかる。しかしそれを横で聞いていた僕はふとある事に気が付いたのである。


「もしかしてマリア、世界地図を全部暗記してるんじゃないか?」


「え? ああはい。細かい地形はともかく基本の内容は把握してるかと」


 何という事もなさそうにそう返すマリア。


 という事は誇張されてはいるものの世界地図を元にした地図がここにあり……そしてその元の世界地図に関して正確な知識を持っている人間がまたここに一人いるという事で……? つまり……?


「うおおおお! 行けるぞこれ!」


「え? あ、あの?」


 思わずマリアの両手を取り快哉を叫ぶ。マリアは突然の事にまた顔の朱色が戻っていたが、僕は大発見に興奮していたのでそれに気付かない。いや本当は彼女の恥じらう様子とか絹のようになめらかな手の感触とかには普通に気付いていたが、それに意識を向けるとまた僕も照れ出してしまう気がしたので、とにかく大発見にかこつけて彼女の手をずっと握りしめてブンブンと振り続けていた。

下の☆☆☆☆☆を押すと作品を評価できます。

多く評価された作品はランキングに載り広まります。

よろしければ評価をおねがいいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓コミックス2巻発売中!(クリックでamazonへ)
html>


コミックス1巻はここをクリック
※Amazonのアソシエイトとして、ガッkoyaは適格販売により収入を得ています。



↓クリックで漫画版が読めます!
html>
ニコニコ静画で漫画公開中!


↓告知動画も作ってみました
youtube:その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 そのサ その9 その10
ニコニコ動画:その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 そのサ その8 その9 その10

※今後も増える予定です
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ