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翌朝

 窓から差し込んだ朝日で目が覚める。まどろみの中からぱっと抜け出した意識の中で、しかし何をするでもなくぼーっとその光を見つめている。


 ずっとよく眠れなかったこれまでの日々と比べて、驚くほどハッキリとした目覚めだった。体を起こすと朝の空腹を実感でき、食を楽しみたいという素直な欲求が自然と生じてくる。



「おはようライト!」


「おはよう」


 食堂に辿り着くと、真っ先にアナスタシアが挨拶をしてくる。席についてスープをすすり、起床後のすきっ腹を満たしていく。


 昨日のあれは一体なんだったんだ?


 断罪の日は昨日だった。その断罪の日を経て、何故かいまだ変わらぬ村民ライトとしての日常が続いている。


 僕がステラを殺して、僕が人殺しで、僕が村の仇で。なのに昨日の調査では別のものが映し出された。


 あれは何だ?


 あんな女、あの日見た覚えがない。あんな女、いなかったはずだろう。一体どこに隠れていた(・・・・・)って言うのか。この事件の犯人は僕で人間なんだからまるで暗殺しようってみたいに隠れる必要なんて無いのに。いやでもこの女は僕じゃないな。人間でもなくて……。



「ライトさん、なんだか今日は静かですね~」


 マリアの一言で現実に返される。客が来ないヒール室で、物思いにふけっていたようだ。


「まあ……暇だからな」


「気が張り詰めていたのが緩んだんですかね~。たまにはそんな風にぼーっとしてるのも良いかと思いますよ~」


 そう言い、彼女は僕の両肩に手を置いて上半身を密着させるようにもたれかかってくる。だが僕がなにげなくそちらを振り向くと、「あっ……」と短く声を発し、すぐにぱっと離れてしまう。


 今まで普通にしていた事なのに急に照れなくてもいいじゃないかとも思うが、まあこれに関しては何も言えない。彼女の勇気を出した告白に対して保留みたいな返事を返してしまったのは他ならぬ僕自身である。


「少し散歩に行ってくるよ」


「ああ待ってください! 一緒にいたくない訳じゃなくてぇ~!」


「いやちょっと考え事したいだけ」


 既に昼を食べて休憩も終わったはずの僕だが、特に用も無いのに診療所から抜け出す事にした。ヒーラー1人がちょくちょく席を外すくらいでは深刻な影響は出ないという事に、昨日のごたごたを通して気付いていた。


 村に出ると、昨日と変わらぬ様子で営みを続ける村人たちの姿が見える。少し気力に満ちている気もする。上手く言えないが、目が輝いている。


「おやライト君、今日もこの時間に散歩かい! ずっと部屋の中だし、たまには良いかもねえ!」


 町を歩いていたら台車を押すおばさんに声を掛けられた。家事の合間に素材運びのバイトをしているおばさんである。ギルドにはいまだ職員が足りず、この手の人員で誤魔化しながら運用されているのだ。


「どうもおばさん。精が出ますね」


「そりゃそうさ! あたしたちが村のために頑張らないとね! ジョシュアばかりに任せちゃいられないよ!」


「そう……ですよね」


 それから二言三言交わした後、おばさんはギルドの倉庫へと歩いて行った。そばで見ていた村人達も「よし!」と一つ気合を入れて、自らの仕事場に駆け込んでいく。今日のノウィンは活気に溢れていた。村の仇を討つための活気だ。



「僕がステラを殺した……僕が……」


 誰にも聞こえないように一言だけ口に出すと、その言葉は酷く滑稽に響いた。


 ステラを殺したのは冒険者ライト。その事実を知っているのは僕一人。僕だけしか知らない、世界でただ一人僕だけがそう思っている。


 そうだ、僕しか知らないから僕だけがそう思っているんだ。昨日は僕以外の人間もその事実に気付く日だった。なのに誰も気付かなかったのがおかしい。事実を知る人間はこれからもう増えるのみのはずなのに、何故いまだに僕一人しか僕がステラを殺したと思っていないのか。犯人が生きてノウィンにいれば自然とそこが怪しくなるはずなのに、なのに僕は一向に怪しくならない。魔道具が僕を見ようともしない。


「なんでだ……なんで……」


 僕は今まで必死に僕が犯人じゃないみたいに振舞ってきた。どう考えても怪しくてボロが出ていて、それでも僕が犯人だからなんとか隠さなきゃならないと思って、自らの滑稽さに震えながらも必死にそう振舞ってきたんだ。


 だが僕だけじゃなく世界全体がまるで僕が犯人じゃないみたいに振舞っているのはどういう事だ。僕が手を入れていない所でまで僕が犯人じゃないみたいな顔をしているのは何なんだ。昨日僕はそこで全て終わる気でいたのに、世界はそんな僕の気持ちも知らずに、いとも簡単にその覚悟を素通りしていった。まるで変なものでも見たような顔ですっと無視していったんだ。


 なんでだ。僕とお前だけは僕が犯人である事を知っていたはずじゃなかったのか。まるでお前は僕が犯人だとは思っていないかのようだ。僕がお前から逃げてお前が追いかけてくる、今までそんな世界観の中で生きてきた僕に対してまるでお前は寝耳に水のように見てくるじゃないか。


「そんな……まるで……僕が人殺しじゃなくて、ただの……村人みたいに……」


 ただの村人……。

 何もしていない……ただの勇者の幼馴染……。


 ただ、その時……そこにいただけ(・・・・・・・)の……。





「思ったよりも小さな村だなぁ! あいつがこんなとこを襲撃したってのかあ~?」


 突然村の出口の方から聞こえてきた大声に思考を中断された。顔を上げてそちらの方に顔を向ける。


 そこには顔も見えない全身鎧を着た大柄の人物と、青白い肌で濃い黒ガラスの眼鏡を掛けた小柄の男がいた。大柄の方はその右手に馬鹿でかい大剣を持っていた。

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