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空を見る二人

 あれからマリアと別れて状況を調べた僕は、村にジョシュアが帰って来ていた事を知った。やはり鳩がもたらす吉報をひたすら待っている状態で、入荷の知らせが入ればすぐに出向くつもりだそうだ。つまりジョシュアが町を出るのが見えたら僕がバリオンに先回りして、ゴダインにも先回りして、ポヌフールにも先回りして、タルエスタにも先回りすればいいだけである。


 そうしてジョシュアがノウィンにいるのをちょくちょく確認している内に時間は過ぎていった。結論を言えば鳩は来ずに日付が変わり、〆切である三日目の今日を迎える事になったのである。


「来ねえな……」


 ジョシュアは村をうろつきながら空を見上げていた。既に村中に事情が知れ渡っており、村民達もそんな彼を祈るような顔で眺めている。


 このままもう何事も無く全てが終わってほしい。またもう一度ジョシュアや、村民達の心を折るような真似はしたくなかった。


「お前さんも鳩が来るかが気になるか。遺恨はあれど、ここに関しては気持ちは同じらしいな」


 後ろからガンドムが話し掛けてきた。上手に解釈しなければ全くの見当違いであるその言葉に、胸の中の血がまた少し濁ってくる。


「まったく、この村もついとらんよなあ。13本もの在庫が売り切れたと聞いた時は何事かと思ったわい」


「そうだな……」


 全ての原因が僕である以上、普通に話をしているだけの事が全て僕の卑怯さに対しての言及になる。ステラの代わりにノウィンを助けようとここに来た僕がノウィンの邪魔ばかりしている、その事実が僕の前にどんどん突き付けられていく。


 いや落ち着け。ジョシュアも言っていた通り、仇討ちは村の発展とは無関係だ。これで良いんだ。僕がするべき行動はこれで合っている、だから大丈夫なんだ。


「ま、気を張っていても結果は変わらん。食事でもとりながら待っとるんだな」


 上の空な僕に対してよっぽどの気負いを感じたのか、ガンドムは一言だけ残して去っていった。確かに僕は食事休憩のために診療所の外に出ている。このままマリア達を待たせ続ける訳にもいかないので、とりあえず食事処へと足を向けた。



 それから僕は診療の合間にもちょくちょく外に出て、ジョシュアを観察し続けた。

いつ村から姿を消すのかとドキドキしていたが、あいつは見かける度ただ空を眺めているだけだった。なんだかんだ、ワイアームの牙なんてそう落ちているものではない。僕達はそんな一縷の可能性のもとに空を見続けているのである。


 そうして、あともう一つ待てば夕暮れ時に差し掛かりそうな時刻。ついにその時は訪れた。


「タイムリミットだな……流石にこの時間じゃ無理だ」


 ジョシュアが静かにそう宣言する。一番近いバリオンに行って帰ってくるだけの時間がもう残されていないという事だった。村人たちが一様に天を仰ぎ声を上げる。


「そんな顔すんな。元々村の復興を考えたら余計な金を使うのは得策じゃなかったんだ。今は村興しの事を考えよう」


 ジョシュアの言葉に僕の胸は少しだけ軽くなった。だがそのすぐ次の瞬間にはポヌフールで垣間見た彼の心の内を思い出し、より一層気持ちが沈み込む。彼の言葉は村民と自分を励ますためのものであり、僕のための言葉ではない。僕は彼らのどんな言葉に対してもただ恥じ入るのみが正解なのだ。


「いやいやいや、どうも皆さんお揃いで! どうやらジャストタイミングのようですね、どうもどうも!」


 そこにその場の空気に似つかわしくない、高そうな制服を着た男がテンション高めに現れた。冒険者ギルド本部から派遣されたスミフ氏である。両脇に男女一人ずつの部下を連れており、男の方が例のでかい調査用魔道具をもっている。


「いやはや、村が賑やかだと思えばやはりポヌフールから帰って来たんですねジョシュアさん。さあ期限の三日目ですが、牙は手に入りましたか?」


 余裕しゃくしゃくにジョシュアに成果を尋ねるスミフ氏。


 え? この人たった今ジョシュアが帰ってきたと思って宿から出てきたのか? いやまあ、あのでかい牙を抱えてポヌフールから帰ってくるとすれば確かにこのくらいの時間になりそうではあるが……。


「ダメだった。諦めて本部に帰りな」


「それは良かった! これで調査を進められ……えええええええ!?」


 信じられないといった面持ちで驚きをあらわにするスミフ氏。ジョシュアが牙を持ってくるのを信じて疑わなかったのか、ちょっと面白いくらいに動揺している。


「嘘でしょあなた! だって一昨日ポヌフールに在庫がたくさんあるって話で出ていったじゃないですか!」


「うるせーな、俺だって意味がわからねーよ。どっかの冒険者が一人で買い占めやがったんだ」


「一人で!? なんなんですかそいつは一体! 酷い! 許せない!」


 ギルド職員としての物腰を半分かなぐり捨てて、無関係な冒険者にまで八つ当たりの態度を見せているスミフ氏。もちろんその冒険者は僕だから実は八つ当たりでもないのだが、それでも客観的に見ればあんまりな言い草だろう。


「てかてめーもギルド本部に頼んで牙の手配とかできねーのかよ、最初から思ってたがよお」


「いや無理ですよ……本部は魔道具課に出し渋るので……」


「じゃあせめて期限伸ばせよ十日くらいよお」


「それも無理です、私も帰ってすぐに他の仕事がありますから。速く来た分しか待てませんので……」


 数手のやり取りの後に、軽くため息をつくジョシュア。何をどう言った所で覆らない、万策尽きた現実が目の前に鎮座していた。


「ま、仮に十日あったとしてもワイアームの牙なんてそうそう見つかりゃしねー。諦めて帰りな」


「そうですね……諦めます……」


 肩を落としてぼそぼそと喋るスミフ氏。かわいそうなくらい元気を無くした表情で調査用魔道具の表面を撫でる。


「諦めて……ワイアームの牙抜きで魔道具を起動する事にしますかあ……」


 変わらぬぼそぼそとした声音でその一言を呟く。まるで撫でるその魔道具に話し掛けるみたいな調子で。


「「「は???????」」」


 その意味する所がちょうど頭に染み渡ったタイミングで、ジョシュアも僕も村民達も、異口同音に疑問符を吐き出した。ワイアームの牙抜きで……魔道具を起動(・・・・・・)


 僕はあまりに意表を突くその発言にポカンと口を開けていたが、やがてまたその染み渡った言葉がじわじわと頭から心臓へと下りていき、服の下に汗がにじんできた。

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