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まさかの迷子

「うおおおおおおおおお! 迷ったああああ!」


 意外! 牙を買うための金が手に入りながらここに来て予想外のアクシデント! 迷子だ! 自分が世界のどこにいるのかわからなくなってしまった!


「あの山、行きの時に見た山じゃないのか!? 駄目だ、暗くて全然わからん!」


 もはや夕日すら大地の向こうに消え始めており、万事休すである。僕の9999もある光魔法なら山ごと照らせない事もないが、それは夜を昼にするのとほぼ同義である。流石に周囲への影響が無視できない。


「こうなったらもう町に入って現在地を確認するしかない! あの町に入るぞ!」


 夜の山は暗いが、町は明かりが灯るので逆に見つけやすい。ここまでなんとなくの感覚だけで進んできたが、一度状況を確認する必要があるだろう。


 明かりの乏しいのと人気の少ないのとをいい事に、雑に町の中に降りて周囲を確認する。道を歩く一人の男が見えたので、勢い込んで声を掛けた。


「あのすいません! ここはどこの町でしょうか!」


「ああ? なんだおめー?」


 しまった、町の名前を教えてくれる人じゃなかった! だが声を掛けた以上は無理やりにでも教えてもらうしかない。僕は頭をSランクモードに切り替えた。


「悪いが急いでいるのだ、町の名前を教えてくれ! ほら、この白金貨を一枚やろう!」


「お、銀貨くれんのかよラッキー! ここはゴダインの町さ!」


 白金貨っつってんだろ! ……て、ゴダイン(・・・・)の町だって?


 目的地のポヌフールを通り越してるじゃん!!!


 というかポヌフールはバリオンを挟んで反対側だから、つまりなんだかんだで僕は正しい道を選べていた事になる。


「夜の闇に変に不安になっていただけだったか……うむむ、ふがいない。ここだって今日一回来ているというのに……」


「なああんた、もっと銀貨ねーの? 俺金欠でさ~」


 だから白金貨だっつってんだろ! 銀との区別も付かないのかノーセンス男め!


 解決された懐事情に気付いていない男を無視して、僕は再び上空へと飛びあがった。ここがゴダインである事を意識して空から見渡せば、人里の灯りの位置関係でポヌフールがすぐに解る。


「こうなればあとは一瞬だ! うおお突撃!」


 風の流れそのものとなり、僕の体が上空を猛スピードで移動する。遠くにあった町の明かりがすぐに眼下のものへと変わり、気付けばポヌフールの上空だ。その見下ろす町の中で一際でかい建物が冒険者ギルドである。


「人目があるだろうけど構うか! どうせ夜だ!」


 風の浮力を和らげ、地面へと降下する。あらゆる正式な道筋を省いて入り口前にダイレクトに着地すると、ちょうど出てくる途中だった冒険者が目をパチクリさせる。僕はそれに構わず中へと入り、急いで受付の下へと向かった。


「どうも受付さん! ワイアームの牙、在庫あるでしょうか!」


「え、そんなに急いでどうしたんですかスバライトさん? ワイアームの牙ならさっき確認した通りに13本ですけど」


 ああそうだそうだ、ポヌフールのギルドには既にスバライトとして確認に入っているし、Sランククエストまでクリアしてるんだった。もう色んな町に行きすぎて僕の人物像がどうなっているのかがごちゃごちゃになっている。


「うむ、そうだったそうだった! それでな、実はその牙を全て買いたいのだ! ほら金ならここにある!」


「ええ~!?」


 袋いっぱいの白金貨を見せて宣言すると受付はやはり驚いていた。先刻規格外の働きを見せたSランク冒険者が、今度はワイアームの牙を13本全て買い取るという。驚くなという方が無理だろう。


「わ、わかりましたただちに持ってきます! 代金は白金貨だと65枚です!」


「ありがとう! ちなみに魔法で運ぶから輸送に関しては心配しなくていいぞ!」


 やった! これでワイアームの牙はもう僕の物だ! 受付に指示を受けた職員が奥に走っていくのを見て、ようやく全てにおいて心の底からほっとする。あとはもう牙が来るのを待っているだけだ。


「お待たせしました、ワイアームの牙です!」


「キターーーー!」


 ついに手に入れた! これがワイアームの牙か!


 いやさっき山ほど積まれているのを見てるから別に何の目新しさも無いのだが、それでもここまで数々の苦難を乗り越えてついに目的を達成できた事に関しては素直に感動に値するだろう。


「色々ありがとう! ではさらばだ!」


 台車で運ばれてきた牙を風で浮かし、受付を後にする。入り口付近の客が慌てて横にはけ、その空いた隙間を僕と寝かせた牙が一つずつ慎重に通り抜けていく。全ての牙が入り口を通過すると、固まった体を伸ばすように13本の牙を周囲に直立して浮かせる事ができた。


「あとは戻るだけだ! いやあ疲れたなあ!」


 まあ肉体的には別にいつでもヒール(回復)できるのだが、それも心にまでは届かない。お腹も空いたしさっさと孤児院にでも帰るのが良いだろう。


 少し考えなければならないのが牙をどうするかだが、まあそれも隠すだけならさほど問題にならない。土魔法で地中深くに埋めてしまえば誰にも見つからないだろう。


「ではお別れだポヌフールの町よ! いつかまた会う事もあるだろう! さらば!」


 そう言い、風で浮き上がろうと全身から魔力を放出した矢先。


「待ってくれ!」


「ん?」


 さあ浮くぞという所で突然背後から声を掛けられた。なんなら無視して飛び上がっても良かったのだが、目的達成に気の緩んだ僕は反射的に振り返ってその男の事を確認してしまう。


「あんた、そのでかいのはワイアームの牙じゃねえか!? 頼む、俺に一本売ってくれ! 明後日までに故郷のノウィン(・・・・・・・)に持って帰らなきゃならねえんだ!」


 う、うわああああああああああああ!!


 まさかの遭遇だった。そこにいたのはもちろんジョシュアである。今日スミフ氏に素材を要求されたばかりのジョシュアがなんとその日のうちにワイアームの牙のあるポヌフールまで辿り着いていたのだ。そしてあろう事か、今まさにそれを買い占めた僕に遭遇してしまい……。


 偶然というにはあまりに出来過ぎた出会いに、飛んで逃げられるはずの僕はただただその場に固まってしまっていた。

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