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世界冒険者

「すいません、この町の名前ってなんでしたっけ?」


「ここはヨシナックの町だよ」


「そっちかあ~」


 町民から答えを聞き、惜しかったとばかりに額を叩く。実際は初めのヨの字も思い出せず字面もデタラメだったが、そんな事は僕以外にはわからないから問題は無い。あとは更にど忘れした周囲の町の名と位置関係も思い出せれば完璧だ。



 あれ以来、僕は診療所の休憩時間に方々の町で高ランク依頼を解決する事を繰り返していた。魔物を討ち滅ぼす者としてまずやらなければいけない事を考えた場合、それはやはり僕にしか討伐できない魔物を討伐する事だと思ったのだ。


 そしてその際は素のライトではなく、素晴らしきSランク冒険者スバライトの姿で活動している。これには色々理由があるが、顔と名が売れて動きづらくなるのを防ぐというのもその一つだ。


 そしてもう一つはノウィンの住民に僕の実力がばれないようにするためである。


 色々考えたのだが、僕の力でノウィンを助けるにしても、その活動は水面下でひっそりとやるのが望ましいように思う。何故なら僕は何でもできる。特に労働力という点では、それこそ村の人間全てを集めた以上の事を一人でやってのける事ができるだろう。


 要するに今のタイミングで僕の実力が知れ渡ってしまえば、村民達の活気に水を差しかねないという事だ。ダンジョンを排除するのも木材を供給するのも傷を癒すのも物を運ぶのも全てライト一人でできる。それなのに我々は汗水流して一体何をやっているのだろうか、と……実際に口には出さなくとも、ある種の虚しさを感じてしまうのは避けようがない。


 だから僕は真の実力を隠す事にしたのだ。ノウィンは僕一人の力ではなく村全体としての力で回るようにならなくてはいけない。僕が初めに考えていたような僕任せの形でなく、ステラやジョシュアが思い描いたようなオーソドックスな発展がノウィンの目指すべき姿なのだ。


 とにかく、そんなわけでこれから僕による全ての名声はスバライトの方へと向かわせていく。そしてその名声はやがてギルド本部にも知れ渡り、有事の際にはスバライトに声が掛かるという寸法だ。そう、魔物の姫がいつか人類に対して大規模な行動を起こした際に……。


「まあだけど、そっちの方はあくまでいつか(・・・)の話」


 目先の話で言えば世界の魔物被害を放っておけないというのが一番だろう。僕が高ランクの依頼を解決すれば、単純にそれだけいろんな人が助かる。だからまずはそこを目下の使命と見て方々で高ランク依頼を解決しているのだ。



 という訳で今も元気に空を飛び回りながら新たな町を探しているスバライトである。町に入ってギルドに確認し、ダンジョンに向かう。言葉にすればそれだけの単純な作業である。単純な作業ではあるのだが……。


「何処だ……何処がまだ行ってない町なんだ……」


 空から確認した町の周囲の地形を頭の中で360度回転させながら、それでも一向に答えが出ない。今日だけでもう三回は「え、さっき来ましたよね?」という顔をされているのに、これ以上ボケた人間だと思われる訳にはいかない。本部の評価のためにはギルドで良いかっこする必要があるし、なにより僕の心情的にキツいのが問題である。


「あああもう! 既に行った町は虹色に光るとかしてくれえ!」


 煮えに煮えた頭の変な部分が活発になり、常軌を逸した発言まで出始める始末。結局町に降りてそこらの人に町名を確認する以外に道は無く、めでたく最初に当たった人から「え、さっき来ましたよね?」という顔をされる事となったのであった。

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