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診療所で思い出す

 昼食休憩が終わった後、僕は診療所のヒール室で本を開いていた。だが開いていると言っても読んで字のごとくただ開いているだけだ。その目は文字を追う事も無い。


「ライトさん今日は本読まないんですか~? 私とお話したいですか~?」


 マリアが笑顔で僕の肩を揉んでくる。僕が何の反応も示さないと悟ってからはちょっかいを掛ける事自体を目的に、この手の雑なスキンシップを仕掛けるようになっていた。


 上半身の血行が良くなるのを感じながら、僕は先のやり取りを思い出す。






「困りましたねえ……私にも後につかえた仕事があるので、調査に当てられる時間は今日を含めて三日間が限度です。素材が無いのなら何もせずにただ帰るだけとなってしまいますが」


「なんだと!?」


 ギルド本部職員スミフ氏の爆弾発言に、ジョシュアが驚く。それに合わせてポカンとしていた村民達もまたざわつき始める。


「てことは三日でその素材を集めなきゃいけないって事か?」

「ここまで来て犯人がわからないのはあんまりだと思うけどねえ」

「なんとかならないのかな……」


 先ほどの威勢の良さから一転、あくまで村という枠組みの一員でしかない彼らはどうすればいいものかとしきりにお互いの顔を見やる。その反応を受けてノウィンギルド長がちらりとジョシュアの顔をうかがうと、彼は面倒そうに舌打ちした。


「いいぜ、やってやろうじゃねえか。三日でその素材を集めりゃいいんだな?」


 ジョシュアの一言に、村人たちの気持ちは再び指向性を手に入れて沸き立った。


「頑張ってくれジョシュアあ!」

「私らだって悔しいんだ、ステラを殺されて!」

「お、俺少しくらいならお金出せるぜ!」

「みんなで冒険者達をバックアップしよう!」


 今までどこにもぶつけられなかった村人たちの悔しさ、やるせなさ、様々な感情がここにきて可視化し始めた。今彼らの心は闘志に満ち、燃えている。僕があの時逃げさえしなければ、本来村人たちの反応はこうだったはずなのだ。


「ふふふ、どうやらお話はまとまったようですね。期待していますよ」


 スミフ氏は村の様子を見て満足そうに笑みを浮かべる。だがジョシュアはそれに笑顔を返したりはしない。


「なに他人事のように言ってやがる。この件はどちらかと言えばてめーらにとって重要なはずだ」


 ジョシュアは少しも浮き立つ様子無く、厳しい顔を崩さない。


「用意できなかった素材は当然金で買う事になる。その時金を工面すんのはギルド本部だよな? でなきゃノウィンは乗らねー」


 村の行く末も視野に入れなければならない立場として、彼はハッキリとそう宣言した。それに対してスミフ氏もまた当然のように笑顔を崩さない。


「もちろん私共が何も出さないという事はありません。後ほどノウィンギルドから本部へと掛かった費用を提出してもらいますので、その内の六割は経費として落としてみせましょう」


「全部じゃねーのかよ……」


 嫌そうに言うジョシュアだが、それ以上は何も言わなかった。益が無いなら本当に突っぱねればいいだけだ。だがそうはできないし、相手もそれを解っている。経費が落ちるかも実際怪しいが、道は一つだろう。


 やはりノウィンの住民にとってステラの存在は大きかった。今まであやふやだった仇という概念をちらつかせられれば、住民たちはそれに乗ってしまう。そしておそらくジョシュア自身も心の底では同じ気持ちだったのだろう。

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