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☆出資=意志

「院長! ジョシュアがノウィンのために金を出していたってどういう事だよ!」


 先ほど聞いた言葉をどうしても飲み込み切れなかった僕は、気付けば部屋に戻った院長に詰め寄っていた。運動を終えた彼女は肌着の下の汗をタオルで拭きながら意外そうにこちらを見ている。


「んん? なんだい、あんた知らなかったのかい?」


「知らないよ、全然! あいつがノウィンに出資していた? 何がどうしてそうなったんだよ!」


「えーと、それはだねえ……まず元を正せば、ジョシュアはこの孤児院にお金を寄付していただろう? それは知っているね?」


 あまりの衝撃に頭が真っ白になる。


 ジョシュアが? この孤児院……ノウィンの太陽に寄付を?


 昨日食べた肉の入ったシチューを思い出す。今も目に映る、全体的に穴などが塞がれて綺麗になった孤児院の外観。


「ここを出る時には何も言ってなかったけど、そもそもあの子が冒険者になった理由が孤児院の生活を改善するためらしいんだよね」


 孤児院の改善(・・・・・・)


 それはつまり孤児院のために何かしてやりたかったって事か?


 孤児院で文字の勉強(・・・・・)ができるようにとか、孤児達に劇場の娯楽文化を体験(・・・・・・・)させてあげたいとか、もちろん食事の質の向上(・・・・・・・)とか、そういう事をもう冒険者として成果を出す前からずっと考えてたって事なのか?


 僕が昨日初めて孤児院の皆にもっと何かしてやりたいなんて思っていた時にもうそのあらかたの事は既にジョシュアによって成されていて、ただ闇雲に冒険者としての時間を消費し続けていただけの人間なんかにはもう何の出る幕も残されてはいなかったってそういう事なのか?


「まあ、そんな訳で孤児院の生活の質が向上したのはあの子とアナスタシア(・・・・・・)のおかげって訳さ」


「ちょっと待て」


 明かされた事実を飲み込み切れない頭で、それでもその一言は見逃せない。


アナスタシア(・・・・・・)が……どうしたって?」


 聞き返す僕の顔を見て、院長は不思議そうにする。


「うん、だから……アナスタシアも寄付していたんだよ。二人で孤児院のために収入の何割かをいつも送ってくれていたんだ」


 もう何度頭をイマジナリー殴打されたかわからない。そりゃアナスタシアも孤児院の出だ。冒険者として成功した一部を孤児院に寄付するのに何ら不思議は無い。ジョシュアだってそうだ。


 じゃあなんでそこに()がいない?


 僕もこの孤児院から二人と一緒に旅立った仲間のはずだ。孤児院に寄付する理由としてはそれで十分だし、僕に声を掛ければもっと金に融通が利いたはずだ。


 なのに何故だ? なんで二人は僕に一言も声を掛けてこなかったんだ? なんでいつも僕だけ最後に知らされるんだ?


「あんたほんとに知らなかったのかい? 確かにライトだけ全然寄付しないなとは思ってたけど、まさか話も行ってなかったとは……うーん……」


 院長も困惑したように腕を組む。


「とにかく、ジョシュアが孤児院に寄付をしているのはノウィンでは有名な話だったんだよ。そこでステラからジョシュアに話が行ったって訳」


「ステラ?」


 想定していなかった名前があちらこちらから出てきて、もう何が何だかわからない。


「うん、ステラからジョシュアに()()()()()()への出資もお願いできないかって頼んだのさ」


 衝撃が走る。


 ノウィン改革……ステラの事を忘れてしまったように活気に満ちていた村人達。羽振りの良くなった奇妙な村の様子。


 だがその全ての変化が他ならぬステラ自身によるものだったというのか?


「ステラはいつか旅に出る計画をずっと練ってたんだよ」


「旅……? あっ」


 そうだ、手紙で言っていた。『村を出てライトとパーティを組む』と。


「あの子は自分の力で世界中のダンジョンを消せないかと考えていた。世界に真の平和をもたらすために」


 繋がった一本の線が僕を貫く。



 そうか……そうだったんだ。


 間抜けな僕はステラが村を出たくなる理由が何か村の中にあるのではないかと思っていた。


 だが逆だ。逆なんだ。


 ステラが安心して旅立てるようにじゃないか。彼女のために村一丸となって、彼女無しでも成り立つ村作りをみんな必死になって頑張っていたんじゃないか。


「一年前にあの子の父親……前町長が死んだ頃にあんたら三人に手紙が来ただろう。その時のジョシュアへの手紙には出資の打診が含まれていたんだ。それでそこからジョシュアがアナスタシアも誘ったんだろうけど……何であんたには言わなかったのかねえ」


 町長が一年前に死んだときの事は覚えている。元々片親だったから、彼女の身寄りは無くなった……村に留まる理由も少なくなった訳だ。


「じゃあステラとジョシュア、アナスタシアはそれからずっと手紙でその事を話し合ってたってことか……?」


「多分ね。ジョシュア達とは気のおけない仲だったし、頼みやすかっただろうね。あの子たちのパーティ……太陽の絆の出世具合と相談しながら旅立ちの機会を伺っていたらしい」


 ノウィンに生まれた三人での相談。世界を救うために。いや、ノウィンのために。


 僕が何も考えずに冒険者稼業に明け暮れていた頃、ジョシュア達はノウィンの事を考えていた。常にノウィンとの絆を維持していたのだ。


「それだけにほんと残念だねえ、正にこれからって時に……あんな()()()()()()不幸のせいで」


 院長の途方に暮れるような物言いを僕はただ黙って聞いていた。


 昨日、孤児院……ノウィンの太陽に帰ってきた時、僕の心は別の場所にあった。

 当然だ。僕だけが太陽の絆の外にいたのだから。


 場当たり的に何も考えずに生きていた僕。ある日気付いたらパーティから追放勧告を受けていた。そして追放されてなお、僕はステラに会いにいったのだ。

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[良い点] あー、うわぁ なんか何となくわかってしまったかも だとしたらなんて哀しい話なんだ [一言] ここまでのライトの不安定さも、情報の出し方もとても上手いです あとこの話に限らないけど各話のタイ…
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