絶望の無理のあり過ぎる言い訳
「ライトさん、本当にどうしちゃったんですか! 四回ですよ! 四回もヒールしてましたよ今!」
「いや数はいいだろ別に……」
相変わらずテンションの高いマリアに対してこちらは努めてローテンションで返す。初の治療は終わったが、本番はむしろここからだ。
「いや数が一番おかしいんですよ~! だってそこそこの怪我を治すヒールを4回ですよ? メモリで言えば40ですよ? 三週間でそこまで聖魔法使えるようになったのならライトさん結構才能あるはずなのに、今までその才能を見逃してたなんてありえないじゃないですか~!」
「ぐっ……」
理詰めで僕のおかしさについて追及してくるマリアに、やはりとことんぶん殴りたくなる女だと改めて思う。こいつが知識と知性を併せ持ったパーティ1の切れ者であるという事実は忘れがちだ。
「じ、実はえーと、ほんとは回復魔法使えたんだけど、炎魔法の方がかっこいいから使えない事にしてたんだよ。一人になってから使えるものはなんでも使ってやろうと思って改めて訓練したんだ」
「ええ~~!?」
ありえないものを見るといった目でこちらの顔を凝視してくるマリア。いや僕だってあり得ない事を言っているとは思っているよ! あり得ないけどまだしもあり得る線がこれしか無かったんだから仕方ないじゃないか! てかお前が他の線を全部潰したんだよ!
「もったいなーい! なんですかそれ、ライトさん! そんなだから追放されるんですよほんとにもー! あーあもったいない! もったいないなー! ほんと男の子ってバカですねーもう! ほんとバカ! 無能ー!」
ボロクソ言ってくるマリアにこぶしを握り締めて歯を食いしばる。ほんとは追放された時の僕は回復魔法なんて使えなかったし取り得といえば微妙な盾スキルだけだったんだぞ! なのに真実も知らずに僕の事を無能呼ばわりしやがって!
「まあ早目にカミングアウトしてたとしても、回復役は私だけで十分だったから結局追放されてたかもしれないですけどねー……。にしてもバカだなー。ライトさんバカだなー、ほんとにな~」
よっぽど呆れ返っているのか、マリアはまだ不満げにぶつくさ言ってくる。他人からどんな目で見られるか気になって眠れない僕にとってこの状況は非常に度し難い。もうなんでもいいから適当に話を打ち切ってしまおう。
「それにしても……危なっかしいな彼ら。診療所で怪我を治すなんて」
話題を強引にさっき治療を受けに来た冒険者パーティへと巻き戻す。抜け目が無くても基本的に話好きであるマリアはきっとすぐに反応してくれる事だろう。
「そうですよね~! 怪我なんて現地で即治すのが基本ですもんね冒険者だったら! 怪我を負って帰ってきてる時点で半分冒険失敗してますからねもう!」
彼女もさっきの冒険者パーティには思う所があったのか、饒舌に彼らの問題点を指摘する。僕はそこまで辛辣に言うつもりは無かったが、せっかくなので乗ってしまおう。
「そうそう、冒険者として未熟だよな。彼らのパーティにヒーラーはいないのか?」
「いえヒーラーはいるみたいなんですけど、どうも聖魔法の才能がいまいちみたいなんですよね~」
なるほど、形だけ役割分担を整えていざ冒険に出てみたらバランスの悪さが見えてきたパターンか。確かにこういうのは実際にやってみないとわからない所があるからな。中衛の魔法戦士っていう中途半端なポジションそういえばいらないよなとか。
「まあ回復魔法が足りない分、軽めのダンジョンばかり攻略しているようですが……それでもあんまりよくないですよね、ああいうのは」
「うーん」
最初はマリアと同じ意見を持っていたはずの僕だが、彼女が先のパーティを否定し続ける内になんだか複雑な感情を抱いてしまっていた。一般的な冒険者論としては正論なのだが、今のノウィンの事を思うと多少無理にでもダンジョンを攻略してくれる彼らはむしろありがたいとも言える。彼らは確かに危険な事をしているが、その危険は本来ノウィンの村民に降りかかるはずの危険なのだ。
「……ああでも、あんまりお客さんの批評みたいな事をしていてもいけないですね。とにかく怪我をしてきたら私とライトさんが治してあげればいいんですよ」
僕の顔を見て思う事に気付いたのか、マリアも適当に話をまとめる。確かに怪我をしても僕が治せばいい。何か問題が起こった時になんとかするために僕はノウィンに来たのだから。
「すいませーん、ヒールお願いしまーす」
ちょうど話が終わったタイミングで、青い札を持った二人の冒険者が部屋に入ってきた。どちらも杖を持ったローブ姿。外傷は確認できず元気そうだ。
「今度は一般的な目的のお客さんみたいですね~」
マリアの言う通り、バリオンでも回復サービスの利用者としてよく見かけた魔法使いのお客さんだ。実際ここに来た目的もきっと僕達の思う通りなのだろう。
そう、外傷の治療ではなく……消耗した魔力を回復するための来訪。
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