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馬車で来た

 モニエルに家の管理を任せた僕は馬車に揺られながらノウィンを目指していた。


 ごとごとと緩やかに切り替わっていく景色を御者と二匹の馬越しに眺め見る。以前一度通ったはずの道も行きと帰りでは別の顔を見せる。


 そうだ僕は帰るのだ。今この時、冒険者ライトはようやく二年越しに故郷に帰るのである。


 馬車なんかに乗らずとも僕の力があれば山を越えて一瞬で村までたどり着ける。それをわざわざ一般的な方法で村を目指すのは、日数的な矛盾を無くすためだ。


 昨日バリオンにいた僕が今日ノウィンにいるのはどう考えてもおかしい。僕がいつまでバリオンにいたかなんてそうそう話題にならないだろうが、ギルドでソフィアさんと会っている以上は山を越えればその矛盾がばれる恐れがある。そしてその矛盾の意味する所を突き詰めれば、僕が人の域を超えた存在であることは明るみになるだろう。だから僕はこうして一般の乗客に交じり、お金を払って律儀に馬車に乗っているのである。


「やっぱいいや下ります」


「え? いやお客さ……え?」


 なんか退屈だったのでやっぱり下りた。乗り心地が悪いし同乗している人が多くて狭いし臭かった。馬車の旅ってもっと楽しかった覚えがあったのに久しぶりに乗ってみたら思ってたのと全然違った。


 あの頃は目の前に冒険者という夢が広がっていたからな。今は僕の前には何もない。ただ眼前に広がる真っ黒をかき分けて他の人の未来だけは守ろうと義務感でやってきただけだ。そんな旅が楽しいはずがないし、あとやっぱり御者の馬の扱いも下手だったと思う。


 馬車が僕を置いて走り去るのを見届けて適当に手を振る。誰かが手を振り返してきたのをみて、早く見えなくなれよと胸中で思う。いくら遠くの豆粒だからっていきなり浮き上がれば何事かと思うだろう。


「『レビテーション』!」


 山のふもとまで歩き通し、その場で風魔法を使い浮き上がる。極力山の斜面に沿って飛ぶ事で遠目から目撃されることを回避する。


「グぎゃぎゃぎゃー--!」


 人間の外見と知性の欠片もない生態が特徴的なモンスター、ハーピーの群れが襲い掛かってくる。これがあるから、普通の魔法使いは無茶な単騎飛行などしない。弱いハーピーだって空中での消耗の果てには死が見える事だってあるのだ。ましてやこれがグリフォンだったら? 前衛職に守られていない魔法使いがどうなるかなど考えただけでも恐ろしい。


「『マジックミサイル』」


 五指の先から次々と放たれる魔法の光弾がハーピーの体を貫き、撃ち落としていく。グリフォンを瞬殺した僕がハーピーなんて恐れるべくもない。迫ってくる個体に適当に対処しながらするすると山を登っていく。


「見えた。ノウィンだ」


 ノウィンと口に出すだけで胃の中のものまで吐きそうになったが、ここはぐっとこらえる。これから村の中に入った後で何回も吐く事になるんだから、ここで弾数を消費していては身が持たない。とにかく代名詞を多用して直接的な表現を使わないように気を遣うんだ。


「あの日から……ステラがいなくなって……この村……よし!」


 許されるラインを再確認して山の反対側へと下りていく。まずは森に紛れながら村に近付く。最悪誰かに見つかっても、ダンジョンの侵食具合を確認したかったという理由で通るだろう。




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