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久しぶりにギルド行く

 広場に出ると、ゆるやかな風が吹き抜ける。


 前に外に出た時のような緊張感は消えていた。理解している、誰もノウィンの話などしないだろうという事を。誰も死んでいないのと変わらない日常が続いている事を。


 別に天変地異が起こってほしい訳ではない。阿鼻叫喚の人々が見たい訳ではない。ただこんな風に穏やかに町を歩けてはほしくなかった。



 ギルドの看板が見えてくると、騒がしい冒険者達の声が聞こえる。酒場ほどではないが相変わらず知らない誰かの自慢話には事欠かない場所だ。


 扉を開けて中の様子を見ると、ドンピシャでモニエルが受付で報告をしていた。事務的に必要事項を確認しているだけではあるが、その顔はにこやかだ。


 やはり彼女には冒険者稼業が楽しいのだろう。いや、もっと言うなら地上での生活がか。彼女の笑顔は少し前まで僕の中にあって今は永遠に失われたものを思わせる。その眩しさは僕の心に容易く影を作りだすものだった。


「外に全然出てこないと思ったら女性の後つけですか?」


 突然後ろから声を掛けられてドキリとする。声の主を振り返ると、そこにはギルド受付のフィリアさんがいた。


「あ、どうも……」


「久しぶりですねライトさん。最近は全く町に出ていなかったようですが」


 その声色はあまり柔らかいものではなかった。彼女は僕の肩越しにちらりと受付の方を見た。


「凄いですね、モニエルさん。おそらく実力で言えばBランクパーティの上位の冒険者に相当します」


 なんだか含みを感じる調子でモニエルに言及するフィリアさん。よくわからないが、素直に「へーそうなんだ」と返すのは違いそうな雰囲気だ。


「ライトさんはここを辞める時、『ギルドにとっても良い話』だと言っていましたが……それはあなたが()()になる代わりにギルドに優秀な冒険者が入ることを指していたんですか?」


「え、いや……」


 遠い昔の発言を持ち出されて思わずどもる。そういえばそんな事を言っていた事もあったような無かったような。


「モニエルさんがライトさんの家で暮らしているのは知っています。前歴無しで何処からともなくやってきた凄腕の冒険者なんてどうしても目立ちますからね。……お綺麗ですし」


 もしかして僕は今責められているのだろうか。後ろめたい所がある人間みたいにどもってしまったばかりに、その後の追及にも上手く返せないままだ。


「書店の借金を返せたのも彼女のおかげなんですよね?」


 確認のように一つ言葉を区切るフィリアさん。


「ねえライトさん……あなたもしかして、お金のために体を売ったりなんてしていませんよね?」


「は!?」


 あまりに唐突に向けられた疑いに声が裏返る。何故そうなるんだ!? いやでもそう見えるのか!? 確かに!


「ライトさん、確かに金銭的に苦しい時期というのはあるものですが……言ってくだされば少しのお金くらいは貸しましたよ私も。まだ選択肢があるのにそういうの軽率に決めちゃうの……あの、なんていうかよくないと思います私」


「い、いや、違く……」


 流石に話題が話題だけに先ほどまで刺々しかったフィリアさんも少し歯切れが悪い。いやそうじゃない、その話題そのものがもう間違っている。確かに客観的に見ればモニエルが僕に尽くす理由なんて邪推の先にしか見えてこないだろうが、それにしたってこれは……。


()()()()()()()、フィリアさん」


 背後から唐突に差し込まれた声に今度はフィリアさんの肩がビクリと跳ねる。その振り返った先にいたのはもちろん渦中の人物、モニエルであった。


「私は体なんて買ってません。変な詮索はやめてください」


 そう言い目を細めるモニエルに、フィリアさんもバツが悪そうに愛想笑いをする。いやお前さも心外だと言わんばかりに出てきたけど、召喚したばかりの時に普通に僕に迫ってきてただろお前。お前それ覚えてるからなお前。


「す、すいません。……けど、だったらあなたはライトさんとはどのような御関係なのですか?」


 釘を刺されてなおモニエルに疑いの眼差しを向けるフィリアさん。ここで答えないのもまた疑いを引きずることになりそうだ。


「……それは、まあ、本人に聞いていただけると」


 お前も本人じゃないのかとつっこみたくはなったが、彼女の立場からすれば僕に回答を委ねるのは至極当然の判断である。


「ええとではライトさん、彼女との御関係は?」


「親戚です」


「そ、そうですか」


 思いつく限り一番雑な言い訳で押し切り、全てを終結させる僕。モニエルが眉間を抑えているのが見えるが、多分僕の弁論術に感心しているのだろう。


 フィリアさんは明らかに納得いってなさそうな顔だが、それでもこれ以上は何も聞いてこない。孤児の僕に親戚なんているのかと聞き返したくもなるだろうが、実際もしかしたらいるかもしれないのだから深く追及はできないだろう。


「ところで……ライトさん、外に出たんですね」


 モニエルが僕の外出に今更触れてくる。さも重大な事に気付いたみたいな顔だ。


「用事があったからね」


「ああ、用事があったからでしたか……」


 少し納得したような、寂しそうな顔で言う。何の用事かについて気にしないあたり、書店への借金の事も既に知っていたのだろうか。


「用事が終わればまたモニエルさんに全てを任せて引きこもるのですか?」


 フィリアさんが今度は矛先を僕自身の行動に変えて言及してくる。


「ライトさんの気持ちもわかります。ずっと引き籠っていつか元気になるなら何も言いません。でもそうではないのではないですか?」


「いや……えっと……」


 僕は元気になるために家にいるのではない。ただふさわしくないから外に出ないだけだ。だから彼女にそう問われても僕は何も言葉を返すことができない。


「モニエルさんはこれでいいと思ってるんですか? あなたが金を稼いでライトさんはずっと家にいる。確かにライトさんも今は大変でしょうが、それにしたって……」


「私だってライトさんには外に出てほしいんですよっ! でも本人が……!」


 思わずといった調子で大きな声を出すモニエル。驚いて黙るフィリアさんに、逆にモニエルもバツが悪そうに語気が弱くなる。


「私は……ライトさんを駄目にするためにいる訳じゃ……」


 モニエルは歯痒そうに目を逸らした。


「まあ、とにかく僕たちはこれで失礼します。用事はすみましたから」


 そういって僕は強引に話を打ち切った。彼女は魔力をもらう代わりに頼みを聞くだけの関係なので、僕の生活にまで責任を負わせられるのは気の毒だ。本来彼女には僕を立ち直らせる自由だってないのだから。


 踵を返して出口へ向かうと、モニエルも後をついてくる。フィリアさんはまだ何か言いたげな様子だったが、それが言葉になって飛んでくる前に僕たちは外へと出ていったのであった。

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