表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/134

ステラ

「いやー、ほんの一年くらい前かな? そろそろ砕けるんじゃないかなって思って試したら砕けてさー! ライトも砕きたかったよねー! あ、でもちょっと大きい欠片くらいならまだ落ちてるよ。やっとく?」


 大岩を砕いた武勇伝を軽めの調子で語りつつ、ごつい小岩をスッと差し出す幼馴染のステラ。そういえば彼女も鍛錬の場によく顔を出していたが、その力はジョシュアに匹敵するくらい強かったな。まさか村に残った彼女が今でも自主的に鍛錬を続けていたなんて驚いたが。


 僕やジョシュアは孤児だったから冒険者を目指した。孤児が成り上がるために就く職業第一位。腕っぷしさえ強ければ頭角を現すことができる単純明快な夢を目指して僕たち孤児は村を出る。


 一方、ステラの生まれは孤児ではなかった。この村の孤児は孤児以外の子供を敵視する風潮があったため、最初は彼女も孤児仲間から遠巻きにされていた。だが僕は彼女の着ている服がいつもボロボロだったために大体孤児でいいだろうと思って普通に仲良く接していたのだ。


 まあ、その彼女が村長の娘であると聞いた時はさすがに驚きもしたものだが……。


「すごいよねほんと! 最初に孤児院周りを歩いた時はびっくりしたよ! だってメタメタに汚いかっこした子供がうろうろしてるんだもん! どうしたのって話しかけても無視されるし!」


 お前の格好も大概ボロボロだっただろと胸中でツッコミを入れる。とはいえ彼女のボロボロさは孤児のものとはやや性質が違っていた。単にそこら中をアクティブに走り回るから服がボロボロになるというだけの話なのだ。孤児というより野生児である。


「教えてくれたのはライトだけだったねー。孤児って知らなかったもん。それでお父さんになんとかしろって詰め寄ったんだけど、村にはお金が無いからってさ。世知辛いよね!」


 全くその通り、僕たち孤児はいつも飢えていた。孤児から彼女への当たりが強かったのはその辺の事情もあったのかもしれない。


「ま、だから()()なんとかしたんだけどねー」


 そう言い、懐かしそうに空を見るステラ。何の事もないように回想するその様に、やはり彼女という人間は()()()()だなと思った。



 ノウィンの村は僕の生まれた頃にはずっと魔物の対処に手を焼いていた。人間の生活環境は周囲のダンジョンを一掃する事によって初めて保たれる。そのダンジョンの排除人たる冒険者ギルドへの依頼料が村の税収だけではどうしても捻出できなかったのである。


 何もない村でも他の人里へと移動する足掛かりとなるため、本来なら近くにある栄えたバリオンの町などがもっと援助していてもいいはずであった。

 だがノウィンは立地が悪い。山脈の裏側にほぼ張り付くような位置に建てられた村は旅の中継地点とするにも旨味が少なかった。

 

 おそらく大昔の先祖達は森の恵みによって生活をしていたのだろう。だが世界にダンジョンが現れるようになってからはその森の恵みはモンスターのものとなった。ダンジョンから溢れたモンスターが餌の豊富な森にとどまり、そこを根城とする。たまに大規模な掃討が行われた時だけ人々がその恵みに預かれる程度だった。つまりノウィンは遅かれ早かれ滅びる運命を匂わせていた。


 そこをなんとかしてしまったのが目の前で回顧する彼女、ステラだ。彼女がユニークスキル……『モンスター破壊』でなんとかした。


 剣が使えるとか魔法が使えるとか料理ができるとか、一般的な技術(スキル)に対する言葉としてその人間だけが使える奇跡のような力をユニークスキルと呼ぶ。


 運動は体力を、魔法は魔力を消費するのが常だが、ユニークスキルはいくら使おうが何のリソースも消費しない場合が多い。彼女のモンスター破壊も例のごとくその手の能力であった。だから使いたい放題だ。『モンスター破壊』し放題。


 彼女のモンスター破壊はその名の通りモンスターを破壊し消し去ってしまう。少なくとも視界内に捉えているモンスターは一瞬で消せる。彼女が消そうと思った時点でもう相手側に逃れるすべは無い。


 そして更に神がかった事に彼女の能力は()()()()()も破壊できる。彼女が念じるだけでダンジョン内の全てのモンスターは絶命し、あとは一般的なボス討伐後のダンジョンよろしく一週間ほどで崩れて消え去る。


 つまりこれがあれば10歳に満たない少女でもダンジョンを一掃できるという事だ。そして実際に村の周りに蔓延る野放しだったすべてのダンジョンを彼女は数日かけて綺麗に消してしまった。もちろんある程度の危険はあっただろうが、彼女はなんだかんだで昔から強かった。


「知らなかったんだよねー、自分の能力がこんなに価値あるものだったなんて。物凄いアイデアだと思ったんだよ、村の周りのダンジョンを一掃してやろうって考え付いた時。でもやった後そりゃやるでしょって空気だったからあれー?ってなったね」


 相変わらずとぼけたことを言う女だと思いつつ笑みがこぼれる。この僕よりわずか1歳上……17歳の少女が人の歴史に残りかねないレベルのユニークスキルを持っているだなんて。


 歴史に残るというのは大げさな話ではない。彼女のモンスター破壊はかつてとある人物が持っていた『モンスター創造』というユニークスキルと対になるものだと言われているのだ。


 そう、はるか昔、この世界に魔物を生み落とした……『魔王』と呼ばれる人物。魔物にとっての創造主が使っていた世界滅亡級のユニークスキルと。

下の☆☆☆☆☆を押すと作品を評価できます。

多く評価された作品はランキングに載り広まります。

よろしければ評価をおねがいいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ