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 世界のあらゆる町に冒険者ライトによる尋ね人依頼が出された。

 僕は「ふっふっふ完璧だ」などと言いながらいくつもの町の掲示板を眺め回った。


 町というのは不思議なもんで、そこで耳を澄まして聞こえてくるのはその内側の事ばかりではない。周辺の小さな村々、近くにある山や湖、なんならたまには物凄く遠くの大陸の情報まで手に入ったりもする。とにかく町で情報を募るという事は、その周辺何十kmを足を使って探すようなものと言って全く差し支えないのである。


「くっくっく……」


 思い出し笑いが止まらない。僕の描いた似顔絵であらゆる町が彩られた光景。世界がどんどんドロシーを認識していく手応え。最初にドロシーを見つけた人間としての感慨深さ、そして世界にドロシーを導く第一人者になれた誇らしさ。


「ふっふっふ……ふっふっふっふっふ!」


 僕はこれまで失敗続きだった。だけどこれからは成功しか待っていない。世界がドロシーに目を付けた以上、ドロシーが見つからないなんて事はあり得ない。僕がその仕組みにいち早く気付いたからこそ、世界は正常を取り戻す事ができるのだ。


「上機嫌だなライト。今日は何処に行ってきたんだ」


 笑みをこぼし続けていると、横のプラチナが話し掛けてくる。台地に設置された木の長椅子に腰掛け、こちらをじっと見つめる魔物。僕はそれにちらりと視線を返し、また得意げに笑う。


「ふふん、行ってきたのは町の掲示板だ! それも世界中のな!」


「掲示板?」


 言われた所で檻の中の魔物はピンと来ていないようだ。椅子の座面を撫でながら、首を傾げそうな顔をしている。


「もうすぐドロシーが見つかるって事だ! 僕は世界中の冒険者ギルドに尋ね人の依頼を出した! そしてその呼びかけがついに掲示板に貼り出されたんだ!」


 合点が行ったようで「なるほど」と呟く。


「最近やたら広範を飛んでいると思ったらそんな事をしていたんだな」


 そう言い、プラチナはそばの石棚に置いてある干し魚や果物に目をやる。来るたびに椅子だの棚だのを作っていたので台地の上には無駄に木や石の家具が散乱しているのだ。


「でも掲示板で呼びかけるといっても難しそうだな。あれこれ書いた所で人目が引けるのか?」


「それはこんな風に絵を……そうだな、一応お前にも聞いておくか。この絵のような女を見た事はないか」


 僕は持っていた貼り紙を目の前に広げ、ドロシーの絵をプラチナに見せた。


「絵? 何が?」


「何がってなんだよ」


 妙な反応を返すプラチナに、僕も意味がわからず聞き返す。


「あれ? これ絵か? あ、これが絵なのか。なるほど……」


「どういうこと?」


 貼り紙を手に取り、ぶつぶつと咀嚼するように呟くプラチナ。顔を近付けて難しい顔でドロシーの絵を見ている。


「ああそうか、普通は職人が描くような絵しか世に出回らなくて……そうか、つまり素人が描いた下手な絵っていうものもあるのか。なるほど、絵は下手な場合もある……素人が描くと下手……。なるほど、これが下手な絵か……へえ……」


「張り倒すぞ」


 あんまりな言い草に凄んで見せるが、プラチナは意に介さず尚もぶつぶつと目の前の新感覚を咀嚼している。最近少し食料が遅れたくらいでは不安そうな態度を見せなくなっていた。


「まあ見た事ないんじゃないか。私が顔を思い浮かべられるのは君くらいだろうが」


 絵を折りたたんで棚に置くプラチナに、「まあそうだろうな」と返す。こうして一人一人に聞くのなんて貼り紙じゃない。不特定多数に情報を募るからこその尋ね人依頼なのだ。だから問題なのは心当たりが無い事ではなく、僕の絵が下手と言われた事である。


「なんかもっと上手い絵があったはず……」


 ベンチから立ち上がり、また適当に机を生やしてその上に袋の中身をぶちまける。いくつかの町でサンプルの貼り紙をもらっているので、今渡したのより上手い絵もあるはずだ。色んな食料品が机からはみ出して転がるが、横の魔物が風でキャッチしているので問題無い。


「ん?」


 しつこく揺らしていると、食料ではない一冊の本が出てきた。大衆向けの雑学集みたいな本だ。


「ああそうだ、食べ物と一緒に買ったんだった」


 たしかどっかの町の市場で安く売ってたからなんとなく買ったやつだ。こういうどうでもいい内容の本は眠れない夜に読むとちょうどいいだろう。しかし自分の物になった後で改めて見ると大して興味もそそられないし、そもそも本を読みたいという気にもならない。


 ちらりと魔物の方に目をやると、風で浮かせた食料を大きめの木籠にしまっている姿が見える。あいつは人間の書物に載っているような理論も知っていたな。わざわざそんな事を調べるような奴はきっと本が好きだろう。


「置いとくぞ」


 別段相手に聞こえなくても気にしない程度の心持ちでそう告げ、そばの石棚の上に置いておいた。いらなきゃ枕にでも使えばいいだろう。僕がその瞬間に必要だった道具しかこの地には無いので、当然枕も無い。


 それから机の上の香る袋に珍しい茶葉を買っていた事も思い出したので、またいつかのようにポットとカップを用意した。立ち上る湯気に誘われるように戻って来る魔物を目の端に、僕はこれからの未来を想像してほくそ笑む。もうすぐだ。もうすぐこの戦いの勝利は僕のこの手に舞い込んでくるだろう。

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