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告白

 まばゆい快晴、日差しは森の中にまで降り注いでいる。数秒の沈黙、二倍三倍にも引き延ばされたような感覚。頬を汗が滴り落ちた。


「……えーと、あなたが殺した? なんですかそれ?」


 ぽかんとした態度のままにドロシーはこちらに問いかける。先程も聞いたような文言だが、より一層理解が及んでいないのか不審な態度は薄れている。


「言葉の通りだ。本当は僕がステラを殺したんだ。自分のやった事が怖くて黙ってたんだよ」


 眉根を寄せてこちらの顔をじっと見つめるドロシー。突如飛び出した予想外の発言に頭がフル回転しているのが見て取れる。


「……いや、それ嘘ですよね? だってギルドの発表と違うでしょ?」


「いや本当だ! 僕が殺した!」


「じゃあ何でギルドは魔物の仕業って言ってるんですか?」


「知らないよ! あいつら無能なんだ、だからだよ!」


 先程とは打って変わって何も考えるところの無い勢いだけの真実で攻める。真実を語る者は何の筋道が無くとも何処か常に正しい。事実、彼女も先までの態度とは違い僕の剣幕に押された様子だ。


「順を追って説明する! 僕はまず持っているユニークスキルの真の力に目覚めてめちゃくちゃ強くなったんだ! 体とか魔法とかがめちゃくちゃ強くなったんだ!」


 自分の身に起きた出来事を簡潔に振り返り話す。めちゃくちゃ理解しやすい事を言っているはずなのに、何故か目の前の彼女は若干混乱気味だ。


「そして舞い上がって故郷に帰ってステラに自慢していた! その時にうっかりめちゃくちゃ強い力でステラを殺してしまった! ほんのちょっと振り払っただけだったのに彼女は死んでしまったんだ!」


「そ、そんな間抜けな人がいるんですか……?」


「うるせー、なんか文句あんのかよ! これでもくらえ、ヒール!」


 若干引いた様子で聞き返す彼女に、やけくそ気味にSランク証明書(ヒール)を放つ。彼女はその溢れんばかりの癒しに目を見開いた。これほどの光を放つヒールは今までの人生においてお目に掛かった事が無いだろう。


「まだまだここからだ! レビテーション!」


 情報量の多さに飲み込まれたような顔をしているドロシーに、ここで手を緩めてはいけない。僕は風の魔法を操り、ドロシーと共に宙に浮かび上がった。


「う、うわあああ! 浮いてる!」


「レビテーションは風魔法の中でも特に達人にしか使えない技。しかも他人を同時に浮かせるとなると、ちょっとやそっとの研鑽では辿りつけない」


 つまりこの年の僕がその域に辿り着いている事自体が既に不自然の極み。明らかにユニークスキルの介入を受けたものだ。過ちをおかしても不思議ではない、分不相応な力。


「で、でもここまでだったら……単にあなたが見かけによらずめちゃくちゃ強い人って事も……」


「だったらこれはどうだ?」


 ほんのわずかな可能性について言及する彼女に対し、僕はこの身にさらなる証明の力を練り上げる。


「『石化の瞳』」


 森の一本の木に焦点を絞り、空気を濁らせる魔の視線を放つ。瑞々しく育った木は見る見るうちに灰色へと変化していき、数秒もしない内に石のオブジェへと変化した。その様を空中から見届けたドロシーは絶句する。


「これは本来魔物にしか使えない『魔』の魔法。僕の本来の魔の魔法の能力値は0だったが、それを9999に書き換える事によって使えるようになったのだ」


「で、でも……こんなの……こんな……」


「さっきのヒール、あの日も使ったんだ」


 風を解き二人を地面へと下ろし、言う。地を向く視界の端に彼女がこちらを見るのが映った。


「第一発見者の証言、倒れたステラの前でひざまずく人影が確認されている。それが僕だ。僕がヒールしていたんだ」


 あの日の光景がよみがえる。ここと同じ場所、別の時間。倒れている折れ曲がった首のステラ。


「何度も何度も……何度も何度も彼女にヒールをしていた。何度も何度も、何度も何度も……」


 だけどその度に絶望だけが返って来た。何度繰り返しても助けられない、ほんの一瞬でも彼女の目がこちらを向く事は無い。僕の力では何もできない、何も助ける事ができなかった……!


「君の力が必要なんだ! およそ何だってできる僕が、これだけはどうしても無理だった! お願いだ、僕にできる事なら何だってする! だからどうか! どうか君のユニークスキルでステラを救ってくれ!」


 感情のままに目の前の少女に訴える、全ての根源たるその願い。あまりに手の届かない遠く、もはやその瞬いた事さえ忘れてしまっていた小さな光。それが今ここに現れた唯一無二の希望に向けて何倍にもなって溢れ出していた。


 ドロシーはそんな僕を釘付けのように見つめ、半ば口を開けたままその言う事を聞いていた。見開いた目に大きく空いた瞳孔の黒。見聞きした全てを咀嚼するように深く大きく繰り返す呼吸。踵を返して森から出ようとしていた時とは明らかに違う、何を返すか考えているようなその沈黙。そして



 彼女は一瞬口をきゅっと結び、一言……声を発した。



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