まさか追放されてチート能力が覚醒するなんて!
「てめえは追放だライト!」
酒場について料理が運ばれてくるなり、有無を言わせぬ剣幕でこちらに人差し指をつきつけるジョシュア(20歳・男)。パーティリーダーからの突然の宣告、僕は焦ってテーブルを立ち上がる。
「な、何でだよ! 僕のユニークスキル『イージスの盾』はどんな攻撃も通さない最強の盾じゃないか!」
「そうだな。確かに硬い」
彼は率直にこちらの主張を認めて頷く。
「だが、硬いだけで取り回しは悪いし……何よりその盾はお前にしか見えねえ。パーティの連携を考えればむしろ邪魔!」
「なんだと!」
あんまりな物言いに思わず歯を噛みしめる。確かに小回りは効かないが、それでもみんな僕の盾を評価していたはずだ。僕は同意を求めるような気持ちで視線をずらし、パーティの魔法使いアナスタシア(15歳・女)の方を見た。
「ごめんねライトー! だって私のファイアボールがライトの盾に当たって大爆発しちゃう事が多かったからさー! 悪く思わないでね、えへへ!」
それはお前が気を付けなかったからだろうが! 僕の行動を把握して慎重に魔法を使えよ!
……いや落ち着け、これはアナスタシアがまだ若いから責任の所在を把握できていないだけだな。同じ魔法使いでも大人の視点ならまた判断が違うはず! そうだろ、博識お姉さん枠のマリア!(25歳・女!)
「まあまあライトさん。そんな『アナスタシアが気を付けなかったせいだろ』みたいな顔をしたところで、人の注意力には限界がありますし~。ダンジョンという死線を歩く私達にとって、事故の可能性を上げるような存在はやっぱり無い方が良いというかぁ~」
なだめるような態度で追放の正当性を補強すんじゃねえよ! そりゃ盾が否定されたら、他は剣も魔法もあんまりだけどさ!
……もう駄目だ、最後に残ったのはやはり彼しかいない。戦士のガンドム(おっさん)! もはやこの世で頼れるのはオッサンだけだ! 頼むぞオッサン!
「がっはっは、寂しくなるのうライトよぉ! 今までありがとうなあ、元気でやれよお!」
こいつに至っては言い訳すらしないのかよ! ていうか、全体的にもうちょっと何か無いのか!? こいつら引き止めたり惜しんだりする意思が無さすぎるだろ! 一体僕の事どう思ってたんだよ!
「じゃ、いくぞお前ら」
「はーい」
「えっ、あっ」
席を立ち、すたすたと歩き去っていくジョシュア達。あまりにスムーズな追放劇に焦って僕も立ち上がる。
「待ってくれ僕は役に立つよ! 今日だってドレイクの捨て身のブレスをスキルで防いだじゃないか! お前も見ただろジョシュアぁ!」
遠ざかるジョシュアの足がピタっと止まる。僕は自分の訴えが彼に届いたのかとほっと息を吐いた。けれど振り向いた彼の顔に親密さは無く、そこに浮かんでいたのは異様な威圧感だ。
「なあライト。俺とお前は既に仲間でもなんでもねえんだ」
「な、何だと……?」
彼の剣幕に気圧されるように後ずさる。その分を詰めるように歩を進めるジョシュア。
「何故ならてめえがそのドレイクのブレスで狙われてた時に俺は……」
早くなる動悸。やめろその先を僕は聞きたくない。そんな事は二度と聞きたく━━
「これで死んでくれればって思っちまったんだからよおおおおおお!」
「うわああああああああああ!!」
崩れ落ちていく足元。真っ黒い大穴に投げ出され叫ぶしかない僕。指先突きつけるジョシュアの姿が遠く遠く、喉の壊れるような叫びだけが耳元に響き、そして
「……ハッ!?」
目が覚める。テーブルにつっぷした姿勢、目の前には大量の書類の束。見慣れた冒険者ギルドのカウンターの内側、せわしなく職員達が動いている。
「……また、あの時の夢かあ」
身体を起こし、ため息をつく。冒険者パーティ『太陽の絆』から追放されて一ヵ月、いまだあの日の屈辱は薄れてはくれないらしい。平和な屋内の天井にぼんやりと視線を傾け、今もダンジョンにいるであろうかつての仲間の姿を思い浮かべる。
「夢かあ、じゃないんですよライトさん」
物思いにふけろうとする僕の横からぬっとフィリアさんが顔を出し、思わず声が出そうになった。冒険者ギルドの受付などをしている年上のお姉さん……ぼくの先輩だ。
「ギルド職員に転職して一ヵ月、いつになったらまともに仕事ができるようになるんですか? ライト(16歳・男)さん」
「あ、いや、あはは」
口元のよだれを慌ててぬぐいながら、愛想笑いをする。そう、今は勤務中。夢にうなされる事なんて普通はできるはずがない。
「だ、だって仕方がないじゃないですか。僕、元々は孤児ですよ! 文字を習ったのだってこの仕事についてからですよ!」
「安心してください、文字に関してはあなたはよーく覚えてますよ。仕事中も上の空でぶつぶつと前職についてぼやいている事を言ってるんです、私は」
とげとげしい物言いがぐさぐさと心に刺さる。この一か月間、過去を振り切れずにいつまでも夢を見続けていた僕の体たらく……改めて他の人から付きつけられると、情けなさに涙が出そうになってくる。
「だけど、ねえ、おかしいと思いませんかフィリアさん! 僕はほんとに追放されるほど使えないんですかね!? 剣も魔法もユニークスキルもあるんですよ!」
「いや知りませんけど……いいじゃないですか、酔っぱらったDランク冒険者よりは強いんだから」
「僕は元々Bランクパーティ所属なんですよ!」
そう、僕の腕っぷしもここでは色々と役立ってはいる。だけど僕が元いたパーティ『太陽の絆』では……。
「あいつら、ほんとに僕を戦力外って思ってたんでしょうか……。ねえ、最強の盾とかめちゃ凄いはずでしょ……カッチリした模様とかすごくかっこいいんですよ……」
「はいはいかっこいいですよ、見えないけど。……あ、いらっしゃいませ、ダンジョン討伐依頼ご苦労様でした~!」
僕に対して雑対応なフィリアさんが、やってきた冒険者にはとてもにこやかな笑顔で対応する。なんとも妬ましい光景だ。たとえEランクでも今の僕には眩しく見える違う世界の人間だった。
「そもそもジョシュアがあんなしょうもない追放劇をするからこんな事になったんだろうが!」
町の往来を歩きながら、やはりぶつくさと前職への文句を垂れ流していく。
「あいつが僕の弱点をわざわざ人の集まる酒場で明るみにしやがったから……どこのパーティにも加入を断られて!」
ライトの見えない盾はパーティ連携にとって最悪……そんな噂の立った人物が新たなパーティに加入できるはずもない。見かねたフィリアさんがギルド職員に誘ってくれた事で、なんとか今は細々と働けているのである。
「家買って金欠だったんだよなあ……流石に無職ではいられないし……」
高ランク冒険者は金持ちだ。だから家とか買ってしまいがち。二年前までへんぴな村の孤児院で暮らしていた僕の金銭感覚は羽振りの良い冒険者生活に見事に狂わされていた。
「ああもう、むしゃくしゃする! モンスターでもぶっ飛ばしてやりたい気分だ! オークだろうがトロールだろうがかかってこいよオラ!」
歩きながら宙に向かって拳を何度も振り上げる。周りを歩く町民も引き気味であるが、僕の方が強いから大丈夫である。オラオラ文句があるならかかってこいよ! かかってこい! かかって━━
突如、頭上に轟音が鳴り響き、地面が大きく震える。人々の悲鳴と共に、足元にごついがれきがボロボロと降りそそいだ。
「は?」
突然の出来事に僕は上を見上げる。崩れた高い屋根の上に乗った巨大な鳥。
「暴れグリフォンだあああああ! 逃げろ皆ああああああああ!」
人々が半狂乱で走り出す。大通り、裏路地、家の中、蜘蛛の子を散らすように方々に逃げ、あれほど歩いていた人間の姿は残らず消えていく。
ギロリとグリフォンがこちらを見る。ヤバイ。先程まで「かかってこい」とか言ってた心の慣性で、僕は十数秒くらい逃げるのをためらってしまった。魔物は人間を襲う。ここにいるのは僕だけ。つまり……
「うわああああああああああ!」
遅れを取り戻すように必死に逃げる僕。そして巨鳥はそんな僕をあからさまに追いかけてくる。ぴったり同じ速度で空を飛び、狩るタイミングを探っている。
……ダンジョンから離れて行動するはぐれモンスター個体! しかもAランクのグリフォンだ! Aランクパーティじゃなきゃ倒せない!
「だ、誰か助けてえ! 誰か冒険者さん呼んでえ!」
必死に助けを求めるも、周りには誰もいない。たまたま近くに高ランク冒険者などいるはずもない。
え、僕が討伐しないのかって? する訳ないだろ! ギルド職員だぞ! 連携がクソとか言われて追い出された冒険者だぞ!
「くそ! 逃げながら一撃防いでさっさとずらかるしかない!」
僕のイージスの盾は小回りはきかないが、こういう狙いすました一撃には効果的だ。予想外のガードに混乱している内に姿をくらましてやる!
そうやって僕は後ろのモンスターばかり警戒しながら、何の気なしに前方に迫りくる障害物を飛び越えようとしていた。そう、なんか変に邪魔な……うずくまった人のような形の……。
「うお!?」
「きゃあ!」
思わず急ブレーキをかける。子供と母親らしき女性が身を寄せ合って目をつむっていた。子供がすりむいた膝から血を流している……ああなるほど、子供がこけたから親が抱き起こそうとしてた所か。
「て、いやいや君たち早く逃げて逃げて! 逃げ……!」
翼が大きくはためき、巨体が急降下で地面へと迫る。足を止めた格好の獲物。鋭く向けられるグリフォンのかぎ爪。
「イージスの盾!」
圧倒的な質量の衝突。爪と盾のぶつかる硬質な音が空気をつらぬき、耳が痛くなる。半透明の盾越しに見える恐ろしい趾!
「と、とりあえず逃げろ! 僕が抑えておくから!」
「は、はい!」
親子は我に返り、走って逃げて行った。……あああ、やってしまった! なんか助けないといけないんじゃないかって思わずこの場をまかされてしまった! いやマジでどうすんだこれ! 親子が逃げ切るまで僕が食い止めなきゃいけないんだが!?
グリフォンは見えない壁をいぶかしみつつも、がしがしとかぎ爪を盾に押し付ける。……おい、上の方から爪がはみ出してるって! やばいって!
「くそ! 何とかしないと、何とかしないと!」
そう言うが、焦れば焦るほどに思考がまとまらない。半透明の盾越しに恐ろしい鳥とにらみ合う極度の緊張の中、盾の模様がやたら目に入ってイライラしてくる。くそ、なんだこの模様! このやたらきっちりと列をなした妙な……
名前:ライト 年齢:16歳
力:76 丈夫さ:45 速さ:61
火魔法:63 水魔法:7
雷魔法:1 風魔法:3
……
そう、このやたら目にうるさい模様がさ……正方形で半透明の盾に書かれた模様……ていうか……
……
雷魔法:1 風魔法:3
氷魔法:0 土魔法:1
木魔法:0 光魔法:2
力の魔法:0 ……
いや文字じゃん!!
おい文字だぞこれ! この模様、文字だぞ!
今まで全然気づかなかった。
やたら美麗にきっちりと並べられた線の組み合わせ……読み書きを習った今ならわかる。
この盾、文字が書いてある!!
え、何で何で? 何で盾に文字が? これ盾だよな?
ていうか、文字が書いてあるから何?
強さって、素早さって、魔法って、どういう事???
こんなの何の役に立つって……おい、何の役に……
……
木魔法:0 光魔法:2
力の魔法:0
聖魔法:1 魔の魔法:0
能力値アップの通知:0
プライバシーモード(不可視):1
……
ギリギリとグリフォンの爪が押し付けられる。上部からクチバシがせり出している。
あとほんの少しでグリフォンが透明な盾を回り込んでしまいそうなのに、なのに僕の目はそれよりも目の前の盾に釘付けになっていた。
そんな事考えている暇がないのに、
僕は、僕の頭は、
目の前の、目の前の盾の事ばかり考えて
……
聖魔法:1 魔の魔法:0
能力値アップの通知:0
プライバシーモード(不可視):1
ウィンドウすり抜け:0
ウィンドウ分割:0
※項目の値を変更したい場合はご自身で書き換えてください。
えっ?
※項目の値を変更したい場合はご自身で書き換えてください。
何言ってんだ??? 何言ってんだこいつ???
最下段の文言が目に焼き付いて離れない。
変更したい場合ってなんだよ。
そもそも項目って何だよ。
それは何を表わした項目なんだよ。
馬鹿馬鹿しい。意味がわからない。考えがまとまらない。
なのに気付けば僕は胸ポケットのペンを取り出していた。
1秒でも早く逃げるべきグリフォンのかぎ爪に……透明の正方形に顔を近付けていた。
ついに巨鳥が身を乗り出す。透明な盾を越えて、僕の頭上に影を差して。恐ろしいクチバシが僕にせまり、そして━━
名前:ライト 年齢:16歳
力:5000 丈夫さ:5000 速さ:61
火魔法:63 水魔法:7
雷魔法:1 風魔法:3
氷魔法:0 土魔法:1
木魔法:0 光魔法:2
……
衝撃が身体を貫いた。僕の頭上から叩きつけられたクチバシ。それを物ともせずに反射的に振り上げた右腕。
骨がひしゃげ砕けるような音と共に、突然グリフォンの姿が消えた。
高く青い空。
そこに豆粒のように見える黒い点……垂直に殴り飛ばされて跳ね上がったグリフォンの体。
「はあ?」
間抜けな声が出た。だって普通、あんな巨大で強い魔物があんな空高く跳ね飛ばされたりはしない。右腕の手応えもまるで現実感が無い……動かなくなったグリフォンが徐々に地面へと落ちてくるまでそう思っていた。
轟音と共に地面が激しく突き上がる。振り向くと、だらりと舌を出してボロボロの巨大な鳥が横たわっていた。動かない。明らかに何かもっと強い存在に蹂躙された後の姿。舞い上がる赤茶色の羽根はどこか祝福のように見えた。
「う、おお……うおお……」
声が震える。身体の芯から得体のしれない興奮が湧き上がってくる。力だ。とんでもない力。しかも、この力は……僕の。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
誰もいない町に叫ぶ。かつて憧れて手に入らなかった力。一人でAランクパーティの実力を軽々と超えるような、そんな力が……。
「はい、グリフォンの羽二つで金貨50枚ね! 状態が良いからおまけしといたよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
人でごった返す店の中でも叫ぶ。50枚の金貨。元いたBランクパーティだって一日にこんなに稼げはしない。だが僕は稼げる。50枚だって500枚だって思いのままなのだ。
「す、凄い……何だってできるぞ! 何だってできるじゃないかこんなの! わははははは!」
いつまでも高笑いがおさまらない。店員達が迷惑そうにしても止められない。だってほんとに凄いんだ。こんなの最高の気分なんだから。
僕は……この世界での成功が約束された無敵の冒険者なんだ!!
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