白ずきんちゃんが赤ずきんちゃんになるまで
むかーしむかし、その昔………
ある所に白ずきんという名の少女がおりました。
白ずきんちゃんは、両親の言う事をよく聞くとても良い子でした。
ある日、彼女は両親と共におばあちゃんの家へ行くこととなります。
「白ずきん、おばあちゃんの所へ行くわよ。支度をしなさい」
「はーい!」
白ずきんちゃんは、少し嬉しそうに返事をします。白ずきんちゃんはおばあちゃんが大好きだったからです。
お気に入りの白い頭巾を被ってさあ、お出かけです。
「あら、あそこに間抜けな狼が2匹いるわ」
「丁度良いわ、おばあちゃんへの手土産にあの狼を上げましょう。貴方、やっておしまい!」
「ああ、」
父親は猟銃を狼へ向けました。
「バンッ!」
銃は目標を少しずれて、狼の子供に当たってしまいました。
子供を殺された狼は戸惑い、しかしすぐにその瑠璃色の瞳を復讐の色へと変えて走り出します。
我が子の仇を穿つ為、死を厭わぬ特攻をかけたのです。
「はっ!間抜け狼がこっちに向かってくるわ。馬鹿ね、こっちには銃があるというのに……」
しかし、神様は見ているというのか……それともただの気まぐれか、ここでハプニングが起きます。
猟銃が詰まってしまったのです。
「ちょっ、あんた早く撃ちなさいよ」
「クッソ!玉が詰まりやがった!」
「ふざけないでよ!なんで手入れしとかなかったの!」
「五月蝿いなぁ、元はと言えばお前が………」
必死に銃を直そうとする父の喉元に狼が噛みつきます。
「ガァァァ!!だ…だずけ……」
「イヤァァァァァァ!!!!!」
狼に噛み付いた首から大量の血が吹き出ます。
父は必死に抵抗をしますが、意味はなく、やがて動かなくなってしまいました。
動かなくなった父と、此方を見つめる狼を見て、母と子は逃げ出します。ようやく、自分達も命の危険にあると気付いたのです。
2人はバラバラの方向に逃げました。
狼が追いかけたのは母親の方でした。
逃げるはいいものの、所詮人の足では狼の俊足から逃れられず、すぐに捕まってしまいます。
「オマエタチ……ヨクモ、ワタシノコヲ……」
「ゆ、許してください………!そうだ、おばあちゃんを捧げます。あの老ぼれは美味しくはないでしょうが、たんまりと金を持っていますから……その金で人間を買えば良いのです!」
「……オバアチャンノイエハドコニアル?」
「ここから南へ3キロほど……」
「ソウカ」
「では許して……?」
「ソンナハズカナイダロウ」
父と同じように、喉元を食われて母はそのまま殺されてしまいました。
「イヤァァァァ!!!!!」
その悲鳴を聞いた白ずきんちゃんは、両親の死を悟ります。
「そん……な…」
白ずきんちゃんは頭巾を握ると、呟きます……
「私は……どうすれば……!そうだ!おばあちゃんの家に……それしか無い!」
こうして、白ずきんちゃんはおばあちゃんの家へと向かいます。
一方その頃、狼もおばあちゃんの家へと向かっていました。
2人は向かいます……
片方は子を殺された恨みを胸に秘めて
片方は親を殺された恐怖を胸に秘めて……
白ずきんちゃんが家に辿り着きます。
血だらけになったおばあちゃんの家を見て、なんと白ずきんちゃんは髪に百合を着け、裸で家に入って行ったのです。
中にはおばあちゃんがいました。
いつもと同じように、優しそうな目をしておばあちゃんは出迎えてくれました。
「あら、白ずきんちゃん、お母さんとお父さんは一緒じゃ無いの?」
「……ええ」
「それにしても、どうして裸なの?」
「……森で…狼に襲われて」
「あら、それは大変。服を貸してあげるわ。そこのクローゼットのなかにあるわよ」
「うん」
おばあちゃんに言われた通りに服を探す白ずきんちゃん。
背を向けた白ずきんちゃんを、おばあちゃんは背後から掴みます。
「ふふふ馬鹿ね。本当にお馬鹿さんだわ。家に帰っていれば、助かったかもしれないのに……」
「グッ…おばあちゃん、何を………」
「クックックッ、コウイウコトダ!」
途端、おばあちゃんは狼に変身しました。
「オレガオマエのオバアチャンニバケテイタトイウワケダ。ザンネンダッタナ」
「ま、まさかこんな事になるとは……」
狼は、裸で小柄な白ずきんちゃんを丸呑みしました。
「ガッハッハッ……コレデ憎キカゾクドモヲホウムルコトガデキタゾ……」
「シカシ……シロズキンのヤツ、ナゼ裸ダッタノダ?アンナニムボウビデ、………ハッ!マサカ……」
「ようやく気付いたようね」
お腹の中から声が聞こえます。誰であろう、白ずきんちゃんの声です。
「き、キサマ……イキテイタカ」
「ええ、お陰様でね。貴方が丸呑みしてくれたお陰だわ。裸だったのは丸呑みされる為にあえてよ。武器を持っていないと思わせて……貴方から警戒されなくなることによってね!」
「クッ……ダガ、俺ノ胃袋ハチョットヤソットノ衝撃ジャビクトモシナイゾ。破ケルモノナラ破クガイイ」
「ふふふ、貴方の胃袋を?…関係無いわね…。貴方知ってる?百合には毒があるって」
「ナ、ナニィ!」
次の瞬間、狼は泡を吹いて倒れました。
すると、中から白ずきんちゃんが出てきます。
「…倒せた。両親と、おばあちゃんの仇を……」
しかし、どこか嬉しそうではありません。
当たり前です。家族を失ったのですから。
「オマエノ…カチダ」
狼が黄昏た白ずきんちゃんに話しかけます。
「あら、まだ生きていたの……しぶといわね」
「……ジキニシヌサ」
「私、貴方のこと嫌いじゃなかったわよ?…好きでも無いけどね」
「オレモダ。……シロズキン、イヤ……ソノズキンハモウアカイロダナ」
「あら、本当ね……」
そう、白ずきんちゃんの頭巾は返り血と狼の体液で真っ赤に染まっていたのです。
「なら、私はこれから赤ずきんと名乗るわ」
こうして赤ずきんちゃんが生まれたのであった。
その頭巾は、孫へと受け継がれ……
また、新たなる話を作るのかもしれない。