§1話§ 戦意生存
それは美しい青年だった。純白の翼に白髪の短髪、黄金に輝く瞳の奥に確かな感情が揺れるが、さっきの俺の声にビビってはいるものの、ギリっと弦を引きなおす。
早速、ピンチなのだがどうしたらいいだろうと。無抵抗で降伏のポーズを取るが通じてない模様、本格的に困ったぞ。
どうするべきか考えていると、後ろの扉が開いた。
そこに来たのはもう一人のガタイのいい黒髪に黄金の瞳の有翼人でこの状況を見るなり弓を取り上げ、構えてた男を殴った。
「何をしているこのバカ息子!!」
どうやら親子だったらしい。殴られた頬を抑えてキッと睨み返す。
完全に蚊帳の外の俺は黙ってみているしかなかった。
「…親父はいつもそうだ…!人間は母さんを攫っていただろうが!」
「何回も言っているだろう!!すべての人間を恨むのではなく関係している人間だけを恨め!!それが出来ないならお前は、その人間たちと一緒だ!」
とヒートアップしていき、しまいには息子の方が出ていった。
いたたまれない空気に黙っていると、親父さんが頭を下げた。
「見苦しいところをお見せしました…」
「いや…お気になさらず」
元をいえば俺の所為だろうし…
ふと視線を逸らした先に写真が壁に掛けられていた写真に目が行った。
そこには小さな子供と赤ん坊。そしてそれを幸せそうに笑いながら囲む夫婦の姿があった。
「家族写真ですか」
「ええ…ずいぶん昔のものですがね…」
懐かしそうに見つめる。
そういえばここはどこなんだろう。日本でないのは間違えないんだが有翼人が世界中のどこ探してもいるとは思えない。
となるとここは…
「…差し詰め異世界ってとこか」
異世界ならこうなっていても彼らみたいなこの世にいないはずの者たちがいてもおかしくはない。
なら、エルフとかそういう存在がいるかもしれないのか興味が全くないわけじゃないが。異世界というならどうにかして元の世界に帰らねばならない。
とりあえず、この世界について聞こうと口を開けた時、ガシャン…!とガラスが割れるような音と悲鳴が聞こえる。
「っここで少しお待ちください!」
バタンっと扉を閉めて行ったがそんなこと言われておとなしくしていられるわけがない。
そっと扉を開くとそこには5人の軍服を着た男がニヤニヤしながら先程の赤ん坊だった子だろう年は16歳前後ぐらいだろうか、黒髪のつややかなロングに碧瞳が涙で濡れ無理やり羽根を掴まれ近くでは先程の青年はボロボロにされていて、ピクリとも動かない。
親父さんも謝っているのに頭を踏みつけ楽しんでいるのだ。
こんなことが許されるというのか?
こんなことをして誰も注意しないというのか?
奥歯が軋んで音を立てる。グッと握りしめた拳では白くなり、グチっと嫌な音が鳴った。
どうにかしないと、なんて視線の先には先程俺に向けられていた弓だ。矢は丁度5本。
気が付けば俺は弓を手に取っていた。
弦に矢筈をひっかけて振り絞る。人をこれから殺めるというのに全く罪悪感が沸かない。
いや違うな。怒りが罪悪感なんてものを消してるんだ。
一撃で仕留める。慈悲なんてかけない。
狙うは、装飾品のない首、俺は弦から指を放した。
「っが…!!」
「な、反旗を翻すというのか!?」
慌てる男たちを横目に俺は外さず当てていく。5本すべて使い終わったそこには誰も立っていなかった。
初心者向けの矢で助かったなと思いつつ、部屋から出ると影が覆いかぶさった。
咄嗟に顔を守るように腕を組むと、骨の軋む音。
鈍く骨全体を軋ませる痛みが両腕に走る。
そこには部屋からの死角で見えなかった男が虚ろな目でブツブツと呟きながら暖炉用の木材を持って、もう一度殴ろうとするが、今度は避ける。
ぶらん…と垂れ下がる左手にはもう力が入らない。
「っこの野郎!!」
思いっきり隙だらけな腹を蹴とばすがよろよろと起き上がり一種のトランス状態にいるようだ。少女は震え親父さんは痛めたのか動けなさそうだ。
俺が何とかするしかない。
その時、声が聞こえた
「ど…して…」
先程の青年が声を発しているようだ。
どうして、何に対してだか何となくわかる。
「俺はここの家族に関係ねぇよ。でもな、俺でも見てて嫌だと思ったんだ」
「…!」
「どうしても守りたいなら戦うしかねぇんだ。俺は出来るとこまでやる。」
そう、死んで転生しても変わらない。
俺の根本にある闘争心は変わらない、奪われる前に殺せ。奪われたなら奪ったそいつを殺せ。
俺達には権利がある。
「戦え!!」
自分を鼓舞するようにでかい声を出し男が振り上げた木材を避け、顔面に向かって思いっきり頭突きした。
男は鼻血を噴き出して、倒れた。
「立てるか?」
「…ああ」
俺は手を伸ばすと、手は使わず俺の肩に手を置いて座る。
手を怪我したのを気にしてくれたみたいだ。
「…なぁ、守るなら戦うしかないんだよな」
「まあ、今がどんな状態か分からないけどな」
「…だったら、俺にお前の戦い方を教えてくれ!」
「へ?」
「頼む!!」
頭を下げられ、頼まれ困惑していると、ぐらぐら頭が揺れてる気がする。
あ、違う。これホントにダメな奴だ。
フッと力が抜ける。
ざわつく周りの音BGMのように聞きながら、俺は意識を手放した。
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ピチョン…という水音で目を覚ます。
黒い髪のくせっけに赤いグリグリの目の青年が俺を見下ろしていた。
起き上がろうにも、まるで金縛りにあったみたいに、ピクリとも動けない。
すると青年は俺の耳元で囁く。
「初めまして革命者よ。僕は:lぽ」p;っていうんだ」
「聞こえなかった?うーんじゃあ田中でいいよ。」
「そんなことより僕から君にプレゼントだ」
刹那、腕が燃えるように熱くなった。
あまりの暑さに悶えていると、田中(?)はクスクスと笑いながら再び耳元で囁く。
「これからも、僕を楽しませてね」
そこで意識が途絶えた。
§ 止まった時間 一話 §
真っ白な部屋にいつも兄はいる。
ガラガラっと開けた白で埋め尽くされた部屋に兄は静かに寝ている。その横の椅子に座り病的に白い兄の頬を撫でる。
今回、世界チャンピオンになったのを恨まれて車に轢かれちゃったんだって。兄なら避けられたでしょ?
「なんで起きてくれないの?」
まだ温かい。この熱だけが兄が生きていることを教えてくれる
「焼肉…行くんでしょ?」
窓の外は快晴なはずなのに、兄の部屋は酷く雨漏りがする。




