§プロローグ§
人の恨みなどロクなもんじゃない。
その恨みによって殺された俺もきっとロクな人間じゃないのだろう。
ーーー
疑似戦闘体験ゲーム、ワールド・ウォー・ラプソディ。
今世界中で流行している戦争をモチーフにした対戦ゲームだ。
俺こと、信楽 夕輝は、そのゲームの大会の決勝に来ていた。
珍しく会場が日本だったから参加したが、まさか決勝戦まで残れるとは…
最後の調整も終わり、ボーっとしているとスマホが電話の通知を知らせる。
そこには、妹である有明の文字が。
有明は、3つ年の離れた妹で現在、高校2年生だ。何の電話だろうと思いながら、通話ボタンを押す。
「もしもし」
『あ、夕輝?そろそろ決勝戦でしょ?勝ったら100億円だっけ?』
「残念だが、100万だ。遊んで暮らせるほどじゃない」
『そっかー。』
間延びした返事に思わず笑みが零れる。どうせ今ソファーにでも寝転んでるんだろう。
用がないなら切るぞ、といえば有明が口を開いた
『帰ったら、おいしい焼肉屋連れっていて~』
「おいおい。勝たないと100万は来ないぞ」
『知ってるよ。でも夕輝は負けないでしょ?』
だって夕輝強いもん、なんて。今まで迷惑かけてきたしいいかと思う。
俺は幼い時から病弱で頑張って鍛えたが少しマシになった程度だ、有明は反対に健康体だった。
だから体調を崩し有明が遊びたくても遊んでやれないことが殆どだった。
「頑張ってはみるな」
『焼肉、楽しみにしてるね』
というと通話が途切れた。その時扉からノックが聞こえ顔を上げれば、スタッフがアブソル選手準備お願いします。という声が聞こえ俺は椅子から立ち上がる。
痛い選手名にしちゃったなーなんて思いながら俺は決勝戦の舞台へ向かった。
始まった決勝で敵国のプレイヤーはいたって普通の戦略だ。
捻りもない面白みもなければ、行動もいたってマニュアル道理だ。
何なら準決勝にやった奴の方が面白みがあった。まったくもってつまらん
『さすが暫定一位のササメ選手!圧倒的な強さで追い詰めていく!!このままアブソル選手に引導を渡してしまうのか!?』
「…中々面白いことをいう実況だな」
少なくともこの戦争は引導を渡されない。さて、そろそろ見せてやるか。
全世界でどの戦況をひっくり返す戦術。今までと違う指揮を出せば、全軍が一気に津波のように動き出す。
前進するたびに勝利を重ね、相手の軍を包囲しては殲滅していく。
最初こそ善戦はしていたが、負けるたびに指揮が落ちるから相手も相当焦っているに違いない。
「な…!?なんだ!このスピード!!この兵士の数は!?あり得ない、こ。こんなのチートだ!!」
「今まで相手にしてたじゃないか」
「は?」
「何を勘違いしてるのかは知らんけど、殲滅したか確認してないだろ」
そうずっと逃がしてきたのだ、泳がせて泳がせて何千の兵を犠牲にして、何十万の兵を生かす。そうこれは戦争だ、勝った方が強い。
誰が何と言おうとも。それを作ったのは誰かなんて知らないけどな。
「さぁ、チェックメイトだ。」
用心せず人の懐に入ったお前が悪いんのだ。
俺は待ったを聞かずに領土を焦土化した。
ーーー
あっけなく終わった決勝戦、何度思い返しても準決勝の方が楽しかったな。
とウイルス激弱の俺は、マスクをキッチリつける。
優勝賞品の100万円を貰い、帰路に帰ろうとしたが、会場の前に決勝戦で戦った男と鉄パイプを持ったヤンキーが数名立っていた。
「おい、いいのか?コイツボコしたら100万山分けって」
「ああ、金に興味はなくてね。欲しいのはコイツが持ってる世界一の名誉だからな。」
やれやれ、最近多いよな自分の思い道理にならないと喚き散らす馬鹿。
どこの世界も金持ちか、武力を持ったやつが力だと勘違いしてやがる。
武力も金も所詮は道具だ。
「あほらし」
「何だとコラァァァ!!」
大ぶりの鉄パイプを避け、隙だらけの手を手刀で鉄パイプを落とし、それを拾う。
これでも剣道の段持ちだ。ただのゲーマーだと思うなよ。
ポカンとしていたほかのヤンキーも感化されたのかブンブン鉄パイプを振り回すが、一撃一撃躱しては落とす。躱しては落とすを繰り返すと、ヤンキーたちは地面に沈んでいた。
「お前ら、ヤンキー向いてないよ。もっと面白いこと探したらどうだ?」
急に動いたし、頭がくらくらする。
この弱すぎる身体じゃどこに行くのも辛い。何が出来ようと結局健康な体あってこそだ。
早く帰って、薬飲まないと…とくらくらする頭を押さえた。
だから気づかなかった、アクセルの音が近づいてきてることに、顔を上げた時には猛スピードの車。
「…」
恨まれたのが悪かったのか?結構気に入ってたんだけどなこの人生。
衝撃と轟音。痛みより体が切り離されるような衝撃と浮遊感。
視界は回って、強烈な痛み。目に映る世界は赤に染まっている。
ああ、最後に
「有明と…」
焼肉食いに行きたかったな…
痛みと寒さを感じながら俺は瞼を閉じた。
何やら騒がしい、それもそうか血まみれの人が倒れてるのだから。
騒ぐ前に助けてほしい、あー…だから
「うるさいっつーの!!」
起き上がれば身体の痛みはなく、不思議に思ったが一瞬で吹き飛んだ。
人間のような見た目だがその背には羽が生えている。
「ゆ、有翼族!?」