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腐敗世界の感覚者たち  作者: 魔石の硬さ
白金色の小狐編
7/8



 結局、その日は敵は現れず、翌日の朝も平穏だった。

 最近、様々なことが目まぐるしく変わるせいで、ゆっくりと休めたのは久しぶりな気がする。


 もっとも、いつ敵がやって来てもいいように完全に気を抜くわけにはいかなかったが。




 そうやって部屋でゆっくりとしていた時だ。部屋の魔法陣が突如割れた。


「来たか。チナ、銃を出して」

「はいなのです」


 チナから銃、ホルスターを受け取り身に着ける。


「ハガネ、大した敵じゃない。僕が出るから引き続き警戒しててくれ」

 仁和が立ち上がり、そう言い出した。


「仁和、俺は全ての嘘が嫌いなわけじゃない。優しい嘘や人を笑わせようとする嘘があることも知っている。俺が一番嫌いな嘘は人を騙そうとする嘘だ」

 俺は仁和の目を見つめ、続ける。

「そして二番目に嫌いなのは何かを隠そうとする嘘だ」

「……僕が君に協力を仰いだのは、敵を誘き寄せるためだ。もう君はその役割を十分に果たしている。武器だって、護身用に渡しただけだ」


 あぁ、そうだろう。俺はまだ数日しかいないが、この男が優しい人間であることは知っている。極力、俺のことを巻き込みたくないのだろう。だが、俺はもう決めている。

「俺は自分の意志で協力するといった。自分の目的のためにお前の手を取ったんだ、仁和。……それにな」

 


「戦わなきゃいけない。そう勘が訴えている」


 仁和は深くため息をつくと言った。

「わかった。なら共に戦おう。行くよ」


***



 旅館から出ると、仁和が送り出していた()が完全に潰れていた。そしてちょうど今、()()のも切り刻まれたところだった。

「やはり探知に引っかかっていたか。相変わらず良い仕事をするな、仁和」

 赤い十文字槍を担いだ男が仁和に話しかける。そのとなりには、()()()をした女性が立っている。

「知り合いか?」

真田さなだらい。何度か一緒に仕事をしたことがある傭兵だ。あの槍は小狐丸と同じように何らかの力を持っているはずだが……どんな力かは見たことがないからわからない」

 なら仁和の戦い方などはバレている可能性が高いな。


「チナ、『学習』であの槍の力はわかるか」

 俺が小声で聞くと、チナが答える。

「小狐丸として何合か打ち合えばわかるです」

 できれば使いたくないが……


「僕は今も杜の梟(スィルヴァルビス)なんだけど?」

「知っているよ、仁和。だがそっちの『第六感』は違うのだろう? 保護下に入る前に叩いておきたいようだよ、我が雇い主は」

 その間も例の目をした女性は「あー」と呻きながら、ふらふらと揺れ動いている。


「私はそこの女と()()()()同じタイミングで、()()()()同じ標的を攻撃する」

 傭兵がそういうと、女性は突如何かを唱えた。


「悪魔の召喚……ずいぶんと力が入っているね」

「悪魔ってなんだ」

 俺が問うと、仁和は手短に説明する。

「魔法使いよりも君のような『神の感覚者』に性質は似ているが、強力な力を持った存在だ。契約者の呼びかけに応じ、契約者に力を貸すこともある」


 人の形をした、だが明らかな()()を召喚した女性は、仁和に襲い掛かろうと走り出した。


 すると、突如悪魔は寒気のする雄たけびを上げると、その女性に襲い掛かり、一瞬で殺めた。

「召喚者を殺しただと!?」

 仁和が驚きの声を上げる。

「エイドス格のベレトか!? ハガネ、距離を取って!!」

「チッ、知ってたか!」

 傭兵が叫び、槍を構える。


「どんな奴だ!!」

「『孤立』の悪魔だ。目に映った者に攻撃を与え、()()()()()()()()。その性質上、複数人で戦おうとすると異常な強さを発揮する。離れて戦って!!」

 仁和はそう言うと、詠唱を始めた。悪魔の相手をするようだ。

「させないよ」

 傭兵は既に、回り込んでいて、距離を取れそうにない。



「くそ……」

「ご主人様!!」

 使いたくない。だが、使うべきだと『勘』が訴えている。


「……来い、小狐丸!」

「――了解。マスター」

 チナと同じ、だが比べ物にならないくらい無機質で無感情な声を上げる刀が、俺の右手には握られている。


「行くぞ、少年」


 十文字槍を構え、突っ込んでくる男に対し、俺は左に握られた拳銃の引き金を引いた。



***




「危ない危ない。仁和とそっくりなことをするね、君は」

 ウィザードイーグルの光線は、傭兵の左手に阻まれてしまった。FP48の方を撃つべきだったかもしれない。

 だがあちらは一度撃ったら再装填が必要だ。対してこのウィザードイーグルはあと7発撃てる。


「それは興味深いですね。仁和も同じことを?」

「若いときはそうだったらしいよ。彼と握手したことがあるかい?あるなら、左手だったろう? 仁和は右利きなのに」

 確かに、言われてみれば箸は右手で握っていた。

「彼の右手にはルーンが仕込まれていてね、発動するとクロスボウに成るんだ。しかも自動で矢を放つ」

 

 俺はもう一発撃つ。が、やはり左手……正確には()()()()()()()()()()()()阻まれてしまう。


「握手をするタイミングで何人か暗殺しているはずだよ。それが有名になったからね、以来、仁和は左手で握手をする……話している最中に撃たないでくれよ」

「随分と悠長なんですね。俺を殺すのでは?」

「私はちゃんと仕事をしているよ。言われた以上の仕事はお金にならないからね」


 俺を殺すことが目的ではない? ……いや、それはわからない。あまり気にするべきではないだろう。


 俺は右手に握った小狐丸に目をやる。むろん、あの槍を学習するべきなのはわかっている。だが、あの槍の刃に当てるのは危険だと『勘』が言っている。


 だが早く距離を取らなければ仁和が苦しいだろう。



 俺は小さく息を吐き、小狐丸を上へ放り投げた。


「何!?」

 傭兵の目線が一瞬上にいく。その隙に俺は右手に握ったFP48を撃つ。

「クソッ」

 真田は槍の刃を銃弾に叩きつけると、まるでガラスの割れるような音をさせながら銃弾が()()()()()()()()()


 彼はすぐさま槍を置くと何かを取り出そうとする。


「させるか」


 ウィザードイーグルを撃つ。男は左手を前に突き出しす。物はまだ取り出せていないようだ。


 小狐丸は既に落下しており、地面に突き刺さっていた。ウィザードイーグルを放り捨て、走りながらFP48に弾を装填する。これで仁和からはかなり距離を取れたはずだ。


 真田は何かを槍に当てると、再び構える。

「『川渡し』」

 そうつぶやく声が聞こえた。


 俺は再びFP48を構え、()()()()()()()撃つ。

 真田の動きが一瞬止まる。また消そうとしたのだろう。だが、先ほど撃ったのは照明弾だ。それも()()()()()()()()()


 そしてその一瞬で十分。俺は小狐丸を抜き、傭兵の槍……それも刃ではなく胴金に叩きつける。


「やるじゃないか。これは割に合わない仕事だったかな」

「そりゃどうも」

 刀を振ったことはないが、俺は勘に逆らわずに振り続ける。



 初めは互角だったが、やはり小狐丸では刃に触れないようにしているせいか、だんだんと押され始める。

 勘のおかげでフェイントには全く引っかからないが、それを理解した真田は純粋な実力で斬り結んでくる。ただでさえ俺は素人なのに、刀と槍のリーチ差もきつい。


「マスター。あの槍の効果がわかりました。」

 小狐丸の声が聞こえる。

「言ってくれ」

「神槍『真田朱槍』、固有術式は『川渡し』です。六文銭を奉納し、それを叩きつけることで『殺す』ようです」

「なるほど」


 どのくらい術式が使えるかわからないが有限。だとすると斬り結ぶよりも拳銃で消耗戦に持ち込むべきか。


 俺は小狐丸を構えたまま、距離を取ろうと後ろへ下がる。だが、まだこの距離では装填の隙をつかれるだろう。


 もっと距離を取ろうとすると、そこで真田が口を開く。

「消耗戦は勘弁だ。僕の仕事はここまででいい」


「……逃がすとでも?」

「いいのかい? このままだと仁和は確実に死ぬよ」



 ……あぁ、その通りだと『勘』が告げる。


 俺は小狐丸を下ろし、先ほど投げ捨てていたウィザードイーグルを拾う。

 再び顔を上げると、すでに真田はいなかった。



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