7.スーパーやデパートで奇麗なトイレって結構ポイント高いよね。和式だと凹んでしまう今日この頃
ということは、今ポイントを振り分けられるのは『楽園規模拡張レベル1』と『楽園収納量拡大レベル1』『出口確認機能』の3つだな。
俺は『楽園規模拡張レベル1』をタップして、機能解放を了承する。
残ポイントが13から12に減少する。
楽園時間延長解放の時と同じ不思議な感覚に包まれた。
「うお!」
おお、すげえ!
壁と天井が、ぐっぐぐと広がっていく。
最終的に倍近く広くなった。
更にメッセージで『楽園規模拡張レベル2』と『楽園規模拡大レベル1』が追加されている。
拡張と拡大ってどう違うんだ? まあ、これも今の俺のレベルが足りないようで選べないみたいだな。
次は『楽園収納量拡大レベル1』だ。
うーん。
これも何となく名前で想像がつくよな。
しかも、すぐに必要そうな内容かと言われると微妙な気がする。
だけど、これ解放すれば次どんな機能がくるかわかるしなあ。どうしよう。
悩んだ結果、とりあえず選択することにした。
『はい』を選び、タブレットを確認する。
=== === === === === === === === === === ===
楽園収納量拡大レベル1が解放されました
楽園内の収納最大量が15kgから30kgへと増加しました
貴方のレベル×1kgの量を楽園移動時に持ち運べるようになりました
=== === === === === === === === === === ===
なるほどな。収納量だけじゃなくて楽園に持ち運べる量にも影響するのか。
タブレットには『楽園収納量拡大レベル2』と『簡易収納強化レベル1』が追加されている。
簡易収納? どういったものだろうか?詳細を確かめる機能が欲しいところだ。ついてないのかな能力の説明機能。
……試したけど無かったわ。仕方がない次だ。
そして最後は『出入口確認機能』だな。
必要なポイントが3ポイントと他に比べて高い。
残りのポイントは11。解放すれば8ポイントか。
どうしようかな~。
…………よし!決めた!!
渋っていても仕方ない。モンスターにレベルにスキル? ゲームみたいな仕様だが、掛かっているのは俺の命だ。リセットは効かない。
『はい』をタップし、『出入口確認機能』を解放する。
=== === === === === === === === === === ===
出入口確認機能を解放しました
出入口確認機能を使用する際には右端に表示されていますアイコンをタップして下さい
=== === === === === === === === === === ===
………ホントだ。
いつのまにか画面右端にカメラのマークをしたアイコンがある。気づかなかった。
カメラのアイコンをタップする。
タブレットの画面が切り替わる。
映ったのは、トイレの映像だ。何かいけない事をしている気分になる。
画面には様々な角度からトイレの中、というか楽園の出入口を映しているのだろう。
これがあれば、楽園から出た途端にモンスターと鉢合わせ、といったリスクを減らせる良い機能だ。
そしてタブレットには次の機能として『ナビ強化解放』が表示される。
これも、名前だけじゃ想像つかない。
正直わからないことだらけだし、手探りでやってるからなあ。
色々検証したいこともあるし…。
腹も減ったな……。
……それに…………色々あり…………。
「……………………おはよう」
俺は目の前の便器に朝の挨拶をして、体を起こす。
固いタイルの床の寝心地は最悪だったようで、体のあちこちが痛い。
いつの間にか寝てしまった。
せっかく『出入口確認機能』を解放したのに意味が無い。もっと危機意識持たないとな。
スマホを見ると6時18分。
結構寝たみたいだな。ある意味自分の神経の図太さに驚きだよ。
時間的にはまた楽園のスキルを使用できるんだろうが、その前に――――
腹も減った。
だが、喉が渇いてしかたがない。
トイレの洗面台。
……水出ないよね。
停電してるしさ。
近づいてみて洗面台のレバーを上げる。
ジャー。
レバーを下げる。水は止まった。
レバーを上げる。水が出てくる。
レバーを下げる。水は止まった。
……………………え?水出るの?出ないと思ってたのに、マジで?
とりあえず――――
腹が重い。
これでもか、というくらいに水を飲んだ。
空腹も少し紛れた気がする。
それにしても、電気止まっても水出るんだな。本当に助かった。
けどいつまで水が出るのかもわからないしな。何かに汲んでおきたい。
トイレの外からは、人の悲鳴のかわりにモンスターの唸り声が時折聞こえてくる。
まだ救助も来てはいないんじゃないか。というか、くるのだろうか疑問だ。
水分を補給して人心地ついて頭も多少回り始める。
当初は救助を待とうと考えていたが、元気に動ける今のうちに食料を含めて物資を集めておいたほうがいい気がしてきた。
攻撃力が12らしいバールを握りしめる。
よし、やるか!!!
物資調達に出発だ。
トイレを出て金属棚のバリケードの前で立ち止まる。
ここももう少し強化しておきたいな。
ある意味モンスターのお陰でできた商品棚のバリケードは、いい具合に折り重なっているし、その奥には水も出て、鍵もかけられる丈夫なとびら付きのトイレもある。拠点としては今のところ、申し分ない。
挟まっていたモンスターは電子レンジを何度も投げつけて倒した。やはりタールのような黒い液体になり、最後は小さな石ころになったので拾っておいた。
ここからは、弱肉強食。一歩間違えれば簡単に死ぬ。助けることのできなかった青年の顔が頭を過る。
ほんの数メートル離れていただけの差。今ここにいるのが青年でもおかしくはなかった。
俺は気合いを入れ直して、バリケードの棚の隙間を潜った。
薄暗い店内。
初めてくる超大型ホームセンター。
立ち並ぶ巨大な商品棚。
床に散らばった商品で足場も悪い。
どこに潜んでいるのかわからないモンスター。
まるで目の前に広がる販売フロアが魔境にでも見えてくる。
いや、ゲーム風に言えば迷宮か。
そんな愚にもつかない妄想引っさげて、バール片手に苦笑いを浮かながら俺は足を踏み出した。