42.子連れ熊
ほのぼの回です
「じゃあ、降ろしますね」
「はい。お願いします……………っ!」
俺は抱えた小羽ちゃんのお母さんこと、重黒木春陽さんの痛めた足を揺らさないように注意しながらソファーに降ろす。
う~ん。声には出さないが、春陽さん大分痛そうだ。
小羽ちゃんも心配そうにソファーで横になった春陽さんの様子を背伸びして覗き込んでいる。
さて、これからどうしようか悩む所だ。
取り敢えず寝具コーナーにある、これまで春陽さん達が隠れていたという作業場に移動したのだが………………春陽さんの足の具合は良くない。
もしかしたら骨折とかしているのかもしれないが、俺にはどう対処したらいいのか判断つかない。
作業場内を見渡すが役に立ちそうな物品も余りなさそうだしな。それに衛生的にもな。トイレも何もない場所みたいだし…………出来ればバリケードや薬なんかも豊富な弐号基地に移動したい所なんだが……春陽さん抱えて移動するのも厳しいだろうしな~。
春陽さんに負担なく移動してもらう方法。
ん?
その時、部屋の奥に佇む作業場には場違いな雰囲気のソレと目が合った。
「………………行けるんじゃね?」
「じゃあ、出発しますね」
「あっ、えっと、は、はい」
「しゅぱーつ!しんこー!」
通路に響く明るい声と共に、からからと回るタイヤ。
取り敢えず小羽ちゃん元気なのはいいけど、大声はやめて欲しいな。
俺は苦笑いしながら唇に人差し指を当てて「しー。オバケが気づいちゃうよ」と小羽ちゃんに話し掛ける。すると、小さな両の手の平で口を塞ぎ、クリクリとした目を更にまん丸なにし、右左のお下げ髪を振り回してキョロキョロ見る小羽ちゃんにほっこりする。
春陽さんも「すみません」と頭を下げているが、先程までの不安そうな感じは薄れた気がする。
という事で、再度出発だ。
カラカラカラカラ。
「もうだいじょうぶ?」
と口に手を当てたまま、真面目な顔で聞いてくる小羽ちゃんに「静かにね」と小声で返すと、大きく頷く。
カラカラカラカラ。
カラカラカラカラ。
「春陽さん。振動はだいじょうぶですか?」
「はい。大丈夫です。本当に有難う御座います」
頭を下げる春陽さんと真似する小羽ちゃん。
「いえ。困った時はお互い様ですよ。こんな状況です。私も一人で困ることも多かったので」
「そんな。私も小羽もただ助け頂くだけで……」
申し訳なさそうな春陽さん。真面目な人なんだろう。
「いえいえ、それに元気な小羽ちゃんがいるから、心強いかな」
「むふぅ〜」
嬉しそうに小さな鼻を膨らませる小羽ちゃん。
「………ありがとうございます」
少し柔らかな口調になった春陽さんに俺は無言で頷く。
カラカラカラカラ。
カラカラカラカラ。
寝具コーナーから弐号基地に向け周囲を警戒しながら進む。
よしよし、モンスターの気配は無いな。
一応、春陽さん達を連れて行く前に俺一人で三往復してモンスターがいないか確認はしている。
いざとなったら、二人を抱えて逃げる予定だが、避けたい所だな。
カラカラカラカラ。
カラカラカラカタ。
「あっ」
小さく呟く声。小羽ちゃんがある場合をじっと見ている。
釣られて俺も視線を向けて理解した。
壁にぽっかりと空いた暗い通路。見えないその先にあるのは多目的トイレ。
そう、俺と小羽ちゃんが出会った場所だ。
それにしてもよく小羽ちゃん覚えていたな。
「じえたいのおにいちゃん」
「ん?どうしたの」
小声で話し掛けてくる小羽ちゃん。
「あのね。こはねね……………………おしっこ」
「そう。おしっこね。……………え!」
「しー!おばけさん。きちゃうよ」
カラカラカラカラ。
カラカラカラカラ。
スッキリした様子の小羽ちゃん。どうやらあの場所を覚えていた訳じゃないみたいだ。
それにしても、戸惑ったぜ。小さい子供って洋式便座に座るのも一苦労なんだな。勉強になったぜ。
カラカラカラカラ。
カラカラカラカラカラカラ。
カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ。
「ついた!!」
と声を上げて、すぐに口を手で塞ぐ小羽ちゃん。
「………………ここが」
「………………はい。ここが、拠点のひとつ…………なんですが」
巨大擬態カエルモンスターとの激闘の末に勝ち取り、開花したバリケードの才能をフルに活かして作り上げた、弐号基地。
その弐号基地は、半壊している。
モンスターがいないか確認の為に最初に弐号基地に戻った時に俺が受けた衝撃。
バリケードは半分が崩れて店内はまるで大きな丸い岩でも転がったかの様な有様。
ま、まあしょうがない。
誰とは追求しまい。俺も大人だからな。
簡単に補修はしたが、何処か頼りなく見えてしまう俺の作ったバリケード。
いやいや。壊れるのが悪いのだ。早めに分かって良かったと思おう。
頑張れ俺。
「少し、足痛いかもしれませんけど、すみません。失礼します」
俺は、バリケードの一部を持ち上げてから、春陽さんを抱えてドラッグストアコーナーに入る。横にはぴったりと小羽ちゃんがくっついてくる。
俺は後ろを振り返る。
バリケードの先には、布団やクッションが敷き詰められた、クマのマークのついた買い物カートがにこやかな笑顔を向けていた。
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