4.ライトがセンサーで反応するトイレだと座って頑張っている最中にライト消えて驚く
ちらっ。
トイレの中に化け物が居ないかを確認する。
かなり暗いが……うん、大丈夫そうだ。
なんとか一息つけそうだな。
「……疲れた」
俺は壁を背に、ズルズルとトイレの地べたに座り込んだ。
汚いとか言ってる余裕もない。
灯りも無く、真っ暗闇の中で俺の呼吸音だけが響いている。
…………夢じゃあないんだよな。
停電して突然化け物が現れて人を襲いやがった。当然俺も襲われた。
だが、あんな化け物をほとんど運だとしても二匹もやっつけることができたなんてな。殆ど運が良かっただけだけど……。
俺は、どこにでもいる中年太りした只の独り身のオッサンだぜ?はは、ちょっと笑ってしまう。つい2年くらい前までは、結構なオタクだったからなあ。まるでゲームや漫画の世界に迷い込んだみたいだな。
さて、これからどうしようか悩むところだ。
ポケットからスマホを取り出す。暗闇にボウッと光りが灯った。
時間は14時20分
そして圏外の文字。
ネットも見れないな。
外と連絡はとれねえのか~。
マジきついぞ。
服は化け物の血と俺の汗でドッロドロだし。足は攣りかけてる。ボロボロだ。
どうにかしてホームセンターの外に逃げ出せばいいのだろが…………
けど、どうにも嫌な予感が頭から離れないんだよなあ。そもそも、あの化け物どもはどっから出てきたんだ?
停電と同時に現れた気もする。
う~ん。
レジの出入り口であのデカブツは外から入ってきていたよな?
人も外から店内に逃げ込んできてたし……。
もしかしたら、ホームセンターの外も大変な状況なんじゃないか?
そういえば、入り口のところで、外はダメだとか不味いとか叫んでいた人がいた気がする。
「…………」
よし! 決めた。ギリギリまでここで救助を待とう。
警察、いや自衛隊とか来てくれるのをしばらく待つ! 食糧とか不安だけどな。
正直、ここから店内を抜けて外に出る自信もないしね! まともに化け物とかち合えば、ぶっ殺されるのがオチだ。
何せ、今手元にあるのこの小さいバールだけだし。
ベルトから引き抜きペシペシと手のひらを軽く叩く。
カンッ。
いけね。落としちまった。
手が滑って床に落としたバール。
拾おうとして手を伸ばすが――――
どさっ。
「あれ?」
視界がおかしいぞ。
床にが目の前にある。
身体の感覚がない。
まぶたが急に重くなる。
いった……いな……。
突然の変調に混乱する暇もなく、俺の記憶はそこで途絶えた。
暖かく、ゆるゆるとした感覚。
まぶたの向こうに明るい光を感じる。
「ッ!?」
こ、ここはどこだ?
目が覚めた俺は身体を起こすとバールを握りしめ、辺りを見回した。
今度は何が起きたんだ?
いつのまにか意識が飛んでいた。
ただ疲れて眠ったわけじゃねえだろう。突然体に力が入らなくなって……気を失ったのか、はたまた別に原因があるのか。よく覚えていない。
ああ、ホントにトンデモだな! 頭がパンクしそうだよ。もう……。
なんせ――――
「ここは、どこなんだ?」
俺はさっきまでいた筈のトイレではない、全く知らない場所で座っているのだから。
とりあえずこの見知らぬ場所を仮にトンデモ部屋と名付けよう。
まず、狭い。
俺が家で使っているシングルベッド2台分くらいの広さしかない。
さっきまでいたはずの障害者用トイレより狭い。
見渡すと床と壁と天井がある。と言うかそれ以外何もない。
出入り口らしき箇所や窓すら見当たらない。
閉所恐怖症なら発狂モノだな、こりゃ。
そして、不思議なことに電灯などもないが明るい。壁や床が直接発光している。流石トンデモ部屋だ。
一瞬病院かとも思ったが、床に寝かすとか扱いぞんざいすぎるしな。
もしくは、壁の向こうがマジックミラー的な感じになってて、監視監禁されてるとか?軍かなんかの施設で実は救助されたけど、化け物からもらったウイルスが~みたいなベタな感じとか。
それとも、じつは頭がおかしくなって、これまでのは、ただの妄想で精神病院かなにかに隔離されてるとか。
………………なにそれ怖いよ。
自分で想像して凹んでしまう。やめよう。
それにしてもこの部屋、本当に何にもないな。軽く壁を叩いてみるが、固くもなく、僅かに弾力もあるようだ。冷たくもないし熱くもない。
あ~。もう俺の頭と心のキャパシティオーバーするぞー。
誰か説明お願いします!
カンッ
「ひい!?」
突然小さな音がして、俺は部屋の角に移動してバールを構えた。
自分でも驚く超反応。
今度は何が……。
部屋の真ん中、床の上に黒くて四角い物体が落ちている。
なんだアレ。
あんなの無かったよな?
「…………」
しばらく警戒しながら、ジッと眺めるが黒い何かは動く様子もない。
そっと近づいてバールでチョンと小突いてみる。
押した分だけ床を滑る。
生き物ではなさそうだ。
バール越しに伝わるのは固い手ごたえだけだ。
ゆっくり近づいて黒い物体を確認する。
どこか見覚えある形状だ。
というか、俺は持っていないが、よく食べ放題のお店とかで最近見かける……。
「…………ア〇パッド?」
光沢のある液晶。
なぜかタブレットPCが落ちていた。