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33/43

33.俺は呪いに掛かっている。釘を打つと斜めに、ネジを回すとネジ山が潰れる。テントの杭を刺そうとすると地面がぬかるんでいる。そんな呪いだ。

 俺は暴れる巨大擬態カエルモンスターから距離を取ると、特製手作発光塗料爆弾取り出す。


 もう一発目ん玉にお見舞いしてやるぜ。視界を奪えば後々有利なはずだ。


 食らいやがれ!


 振りかぶって――――――――投げる。


 命中………………脚に。暴れて狙いが難しい。


 クソ! もういっか………!?


 さっきまで床を転げ回っていた、巨大擬態カエルモンスターが馬鹿デカイ口を俺に向けて開けている。


 なん………ヤバッ!?


 直感が警笛を鳴らす。


 俺はそれに従い咄嗟に右に飛んだ。殆ど無意識だ。


 バチン!!


 だが全身に響く破裂音と左腕に走った痛みや熱が一歩遅かった事を伝える。


 左側の視界の隅で、左腕から茶色の何かが弾け飛んだのが見えた。


 俺は右肘から床に倒れ、転がりながら商品棚に身を隠す。


「っあう………う、腕。俺の………あ」


 爆発でもしたかの様な衝撃と視界に映った弾けた何かから、てっきり左腕が無くなったか、肉が飛び散ったんじゃねえかと思ったが、ちゃんと左腕があった。赤くなっているが骨も見えない。


 手の平を閉じたり開いたりすると痛みこそあるが、大丈夫。まだ戦える。


 ただ、左右前腕に装着していた小手が左腕だけ無くなっていた。


 瑠璃が夜なべしてつくってくれた秘密装備その1である小手。ゴムホースやら、厚手の革の靴や、衝撃吸収ジェルのゴム底やその他を解体して重ね縫って造ってくれたものだ。助かったぜ、瑠璃。


 ちなみその2、その3、その4は膝当て肘当て、そして脛当てだ。


 さっき肘から倒れたけど、お陰でダメージはゼロだ。嘘だ。ちょっとだけ痛い。………けど痛くない。



「はっはっはっは!」


 近づいてくる巨大擬態カエルモンスターの声に商品棚から離れて構える。


 巨大擬態カエルモンスターの突進により、メキリと音を立てて傾く商品棚。


 床に打ち込まれたボルトが浮き上がっている。



 改めて見ると、ホントとんでもない化け物だぜ。デカイってのはただそれだけで、コッチを震え上がらせる。


 大体なんだよ、その目玉、なんで5個もあるんだよ。それに背中のその半透明な丸い沢山のぷにぷに、それもしかしてあれか? 卵的な何かかよ。俺はそういうの苦手なんだよ。蓮コラとか!!


 薪割り斧を構えて、突っ込むと見せかけ、右に方向転換。その勢いを利用して、巨大擬態カエルモンスターの左前脚に斧を振るが、巨大に似合わない動きで躱される。


 動きも早い。


 逆に、丸太のよう脚を横薙ぎに振るう。


 後退して距離を取ると今度は口を大きく開ける。


 口の中で3本の舌のような物が蠢いて………。


 横っ飛びして、鞭の様に床を叩いたそれを避ける。


 殆ど見えなかったぜ。離れて戦うのは分が悪すぎるな。


 近づいた分だけ距離を取られる。それだけじゃない、脚に生えている、長い尻尾の様な指で起用に壁や天井に捕まって立体的に移動しやがる。ふざけんなよ、重力仕事しろ。




 あっぶっね~。


 三角飛びから更に天井を蹴って、突っ込んできた巨体を躱す。床は凹みヒビ割れていやがる。


 動きが読みにくい。姿が消せるだけじゃねえ。やっぱりカエルモンスターとは格が違う。


 擬態対策は練ってきたが、ここまで身体能力が高いとはな。足跡で見分けようと休憩場所にまいておいた消火器の粉が意味ないぜ。


「はあ、はあ、はあ」


 最初こそ距離を詰める様していたのに、立場が逆転してやが……る……ぜ。


 振り下ろされる前脚と噛みつきを躱す。隙を見て斧を振るう。躱される。


 遠距離の舌もヤバイが、奴の機動力が予想以上だ。


 どうする?


 奥の手を出すか?


 くっ!


 噛みつきと見せかけた、舌の攻撃を避ける。早いが何とか避けれない事もない。


 致命打は無いが、一撃の威力は巨大擬態カエルモンスターに軍配は上がるだろう。


 斧を振るうが、奴の弱点であろう真ん中の目玉には届かない。




「な!?」


 いきなり擬態して透明になりやがった。


 だが、蛍光塗料で位置は分かる。大丈夫だ。左右は棚に囲まれている。奴の動きは制限されるはず。


 今なら一撃入れられるか?


「ん?」


 駆ける俺に、動かない巨大擬態カエルモンスター。隠れているつもりか。


 いや! 違う!! しまった!!!


 斧を盾に後ろに飛ぶ。左右は棚だ。誘われたのは俺だ。


 見えない何かが鞭の様に右肩を叩き、吹き飛ばされる。


 擬態しても舌は使えるのかよ!!


 痛いが、咄嗟に飛んだのが功を奏したのか、それとも奴も疲れているのか、腕は動く。威力は落ちている気がする。



 それにしても腹立つぜ。罠に嵌められた。だったらやり返すまでだ。


 そのまま、距離を大きく取って走る。


 流石に大きく距離が開くと舌も届かないのか、空中に浮かぶ青い蛍光塗料が追いかけてくる。


 よし、ついてこいや。後ろに前進しながらリュックサックに手を突っ込んでお目当ての物を取り出す。


 ドラッグストアコーナーを出て、向かいの開けた休憩場所に出る。辺り一面床は薄いピンクに染まっている。


 追いかけてくる蛍光塗料との距離が縮まる。


 用意するのに凄い苦労した粉の絨毯を駆けて………反転振り向く。


 動きは直線にならない様に注意しながら蛍光塗料に一気に近づく。


 虚を突かれたのか、舞う消火剤の中、足が止まった。


 今度はこっちの番だぜ!


 蛍光塗料には届かないがその付近目掛けて、思いっきりリュックサックから取り出した鋭利な鉄の杭を突き刺す。


 手答えあり。肉に深く食い込む感触。


 テント用の返がついた杭。それに留められているのは超高輝度のランタンだ。


 眩しいだろう。目の前が明るすぎて周りが見えなくなっただろうが。


 ほらよっと!


 消火剤に着いた足跡に向けてフルスイング。薪割り斧の一撃が、太い脚にめり込み、硬い骨を断つ鈍い音が斧を通じて伝わってくる。


 激しく頭を動かして、ランタンを振り落そうとしている様子の巨大擬態カエルモンスター。


 そんなことをしている場合かよ!!

 

 もう一発おかわりどうぞ!!

 

 別の脚に向けて斧を振るう。が、今度は手応え不十分。骨までは届いて無い。だが、見えない場所から血がぼたぼたと溢れている。


 ご馳走様が聞こえない………ぜ!!


 振りかぶっ…………うわっと!


 突然巨大擬態カエルモンスターの周りの消火剤が激しく舞った。


 何だ?


 擬態が取れて姿を現した。


 顔面を地面に打ち付けて、床が凹んでいる。


 顔を上げると、パリパリとひしゃげたランタンの残骸が落ちていく。


 杭は三分の一程が埋まっている。


 ギラリと5つの目が俺を捉え、伝わってくる怒気。


 だが俺も負けられない。


 奥の手を使う。


 動くのは同時。奴の舌攻撃からの噛みつきを避けて死角に移動。


 だが巨大擬態カエルモンスターも脚にダメージがあるとは思えない動きで俺が移動した方向に顔を向けて脚を振り上げ………………固まった。


 そりゃそうだろうよ。なにせ俺はそこに居ないんだからよ。



 タイミングバッチリ。


 温泉水を飲みながら、瑠璃の液晶の『出入口確認機能』で映像を見る。


 生き物が見ていると移動できない楽園。けれど一瞬でも見ていなければ移動できる楽園。


 回数制限、リスクありありだが、上手くいった。


 キョロキョロと辺りを見回して、激しく周囲の物を破壊していく。いいぜ、どんどん体力使ってくれよな。


 残骸ながらそんなとこに俺はいないぜ。


 栄養補助食品のゼリーを飲みながら、出るタイミングを計る。


 ………………今だ!




 おりゃああ!!


 屈んだ態勢で楽園の外に転移した瞬間、俺は掬い上げる様に薪割り斧振り上げ、手応えそのままに走り抜ける。


 転移したのは巨大擬態カエルモンスターの腹の下。


 腹を真一文字に掻っ捌かれた奴は訳も分かっていないだろう。


 鳴く事も無く、俺の姿を確認すると、ぼたぼたと血やら内臓やらを撒き散らし、遂に巨大擬態カエルモンスターは俺に背を向け横倒しになった。


 やったか?


 いや魔石になら………………!!




 倒れた次の瞬間に、バンという音と共に背中のプニプニが俺に向かって飛んできた。


「クソ。何だ、これ?」


 プニプニは俺に当たると破裂して、ネバネバする液体が纏わりつく。


 ヤバイ。取れないぞ………………まじか!?


 そして、震える脚で立ち上がって俺に顔を向ける巨大擬態カエルモンスター。直ぐに膝をつく。


 ゆっくりと大きく広がった口の中で動く舌三本。


 クソ、動きが………この野郎!


 伸びてくる舌。


 最初とは違ってスピードも威力も無いが、動けない俺の体に纏わりつく。最後の悪あがきかよ!


 ずりずりと引き寄せられる。


 不味い! 舌をどうにかしないと。


 ネバネバのついた斧を捨てて、鉈を取り出して舌に振り下ろす。


 切れろ、切れろ!!


 一本、二本。


 引き寄せる力が弱まる。 ベトベトになった鉈を捨てて、ナイフを取り出す。



 よし。最後の1本!


 ブチンとゴムが千切れような音と共に、身体が解放される。反動で手にしたナイフが離れる。


 だが、目の前には巨大な口が広がっている。


 しまった。


 引き寄せられるように勢いは止まらない。



 ふざけんな。ここまできて、喰われ………てたまるかよ!!


 俺は視界の端でキラリと光ったそれにジャンプして掴まる。奴の頭に刺さった杭だ。体を引き上げる。


 振り落そうと激しく頭を振る。何処にそんな力があるんだ。素直にやられておけよ!


 杭が抜けそうだ。いかん!


 こ、困った時の――――


 俺はベルトに差し込まれた革の鞘のボタンを外す。


 ――――バールさんだ!


 バールを突き刺し、巨大擬態カエルモンスターが上に向かって頭を振るタイミングで、力の限りバールに身体引き寄せる。奴の頭に登って一撃くれてやるぜ。


 ポンっと空中に投げ出された。


「は?」


 勢い………つきすぎた!


 だが、真下には奴の目玉がある。


 薪割り斧は無い。鉈もナイフもバールもだ。だが!!


 俺はリュックサックの横に差し込まれた、鉄の棒を取り出だす。先端には刃物。瑠璃の秘密装備その5、短槍だぜ~~~~~!!。


 落下する勢いに任せつ俺は巨大擬態カエルモンスターの中央目玉に深く槍を突き刺した。






 壊れなかったベンチに座り、巨大擬態カエルモンスターが溶けていくのを眺める。


 そして思った。


 『やったか!』って考えてしまうもんなんだなあと。


 まあ、取り敢えず、ドラッグストアコーナーは解放しましたよ。高谷さん。




 ……………………やったぜ………こんにゃろう!!


お忙しい中ご来場有難う御座います。


作品が少しでも楽しんで頂き、普段の息抜きになれば幸いです。


ま、まあちょっとは面白くなくもないんだからね!とか蓮コラ系駄目なんだよ!

と思われましたらブックマーク・評価お待ちしております。


筆者も書きながら鳥肌を立てました。

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