表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/43

3.見たことはあるけど名前は知らない農具って結構あるよね

目の前に俺の頭を丸呑みできる程の大きさをした牙だらけの口が迫っている。


手にしたバールを振るうこともできなかった。


スローモーション映像のように化け物が突っ込んで――――。


「ビギャー!」


 くることは無く、俺の脇をかすめて、床に身体を大きくくねらせながら激突させた。


 な、なんだ? 何が起きたかわからない。


 だがチャンスだ!



「あっ!」


 武器になるものがないかと思ったが……あった!


 あれはシャベルか?


 いや違うぞ。


 でっかいフォークだ。名前は知らんが、藁とか干し草を持ち上げる農具だ!!尖った先端が頼もしい。


 この化け物があ! 床でのたまっている化け物にでっかいフォークを振り下ろしてやった。




 ザマァ見やがれ、こんちくしょうが!


 身体からいくつかの農具を生やした化け物が気持ちの悪い体液を流しながら死んでいる。


 どうやら俺が転んだ場所は農作業関連のコーナーのようだ。


 化け物に俺が投げたのは農薬だった。



 やった。……やってやったぞ。


 …………た、助かったよ~。


 一つ目の化け物だけじゃなく、ミミズの化け物もぶっ倒してやった。


 武器さえあればもしかしたらやれるのかもしれない。


 農薬とかも効くようだしな。



 俺は五本爪ピッチフォークとシールが貼られた、ミミズの化け物を倒すのに役立った、農具を握りしめる。


 化け物どもめ!ぶっ倒してやる!


 うそです。もう無理です。


「うお!?」


 目の前で突然ミミズの化け物が、泡立ちながら溶けていく。


 タールのような粘性のある液体へと変化し、質量を減らせしながら、ジュクジュクと音を立てて、最後には、小さな石ころになった。


 本当に意味が分からないよ。

 

 恐る恐る近づいて、スマホのライトで照らしてみる。黄色の綺麗な石だ。大きさは500円玉くらい。


 ほ、宝石か何か? ……値打ちものだろか。ライトに照らされ光を反射する鮮やかな黄色の石だ。


 とりあえず、かさ張る物でもないのでポケットにしまう。


「はあ~」


 さて、次はどうしようか?


 外に逃げるべきか? 


カツン。


カツン。


 ……何の音だ?


カツン。


カツン。


カツン。


「は?」


 柱が目の前にあった。


 こんなモノ、さっきまでなかったよな?


 ん?


 柱が上に向かって動いていく。


 目で追っていくと、途中で止まる。鋭利な先端が俺に向けられているぞ。


「うおおお!」


 俺はその場からダイブするように飛び退いた。床に身体をしこたま打ち付けるが、それどころじゃない。



 見上げるほどでかい。


 柱のような脚を持ちサソリの様な胴体を持つ、レジ周辺で人々を殺しまくっていた化物じゃねえか。


 さっきまで俺がいた場所には、化け物の脚が振り下ろされていた。


 背筋に冷たい汗が流れる。


 だが俺にはコイツがある!


 鋭利な先端が頼もしい、5本爪ピッチフォークだ。



 足を広げて、膝を曲げる。腰を落として、ピッチフォークを構える。


「はっ!」


 気合い一閃、俺は化け物の硬そうな表面をした脚に向けて、ピッチフォークの突きを繰り出した。


がす!


 烈火の気合いを込めた、鋭利な先端は、脚の殻のような表面を、僅かに傷つけて掠める。


 クソ硬ってえええ!


 無理だと判断して、ピッチフォークを投げ出して、そのまま俺は逃げ出した。


 戦うにしても限度があるよ。さすがに!


 とにかく逃げるぞ。


 だが――


 やばい。やばい。ヤバイ!


 息が苦しい。


 ふくらはぎがピクピクしている。


 太ももは乳酸で重たい。脇腹が痛い。


 普段の不摂生と運動不足が祟っていやがる。


 後ろからは、脚長サソリの化け物が激しい音を立てて、追いかけてきている。


 商品棚を蹴散らしている様子。



 もう無理。マジで無理!!


 何かないの!! 泣きそうだ!!


 はあ、はあ、はあ、はあ!


 あっ! 2階に続く階段だ!


 もしかしたら、あの巨大な体と脚だ。段差とか苦手かも!!


 階段を駆け上がる。


 どうだ!?





…………だ、駄目だ。普通に登ってきやがるよ。


 逃げる途中、悲鳴や怒号が飛び交うが、化け物は俺はをロックオンしたようで、執拗に追いかけてくる。



 どこか、どこか、どこか逃げこめるところは………!


 薄暗い店内で辛うじて視界に入った表示。


 あったぞ!!


 うおおおおお!!


 俺は残る力を振り絞って、そこに飛び込んで、後ろを振り返る。


 良し!


 俺が逃げ込んだのはごく普通の通路だ。


 入口には『お手洗い⇒』のマーク。


 そう、通路の折れた先にあるのはトイレだ。


 だが縦にも横にも馬鹿デカイ脚長サソリの化け物は、トイレに繋がる通路には入って来れないようで、悔しそうに、脚で床を叩いている。


 バカめ!届きません~! はい残念!!


 と俺が心の中で馬鹿にしたのが通じたのか、化け物は器用に脚で、商品棚を掬うと……


 うわー!?


 ぶん投げてきやがった!


 激しい音を立てて2個、3個と、通路に棚が折り重なり、棚に飾られていた、四角い鉄の塊のような何か、多分電子レンジか何かが散らばっている。


 び、びびったぜ。


 しばらくして、棚を通路に放り込むのを諦めた化け物が離れていった。

 

 な、なんとかなったのか?



 よろよろと俺は一番奥にある通路の一番奥にある車椅子マークのトイレ前に移動した。


 鍵は上下二箇所あるし、ドアも鉄製で強度がありそうだ。


 通路の折れた箇所には、化け物が投げ入れた商品棚が上手い具合にバリケードのようになっている。


 ここなら、しばらくは安全に身を隠せるかもしれない。


 とにかく休みたい。気分も悪い。ボロボロの身体を引きずりとりあえず俺は疲れ果てた身体で多目的用トイレに転がり込んだのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ