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28.閑話 高谷浩一 後編

 救助が来ることはなかった。


 そんな重たい空気を和ませたのは意外にも騎士だった。


 子供のいない青山にとっては、まるで孫が出来たようで嬉しかった。


 既に2人の子供が成人している、北河路にとっても懐かしい光景を見ているようだった。


 そして意外にも――――


「でな、父さんが子供の頃にはな」


「うん」


 慣れないと浩一が思っていた騎士との仲が少し縮まった。これまでのこと。母親のこと。何が好きで何が嫌いか。当たり前の事を始めて話す機会、時間があった。そして北河路と青山がお節介を焼いてくれた。



 それまで何も無かった訳ではない。


 青山が突然深刻な顔で告げた『目の前に力とか体力とか何か変な文字が見える』と言い出したり、休憩室の外に様子を見に行って一匹の化け物と出会い、何とか青山を中心に三人で撃退すると、今度は浩一と北河路にも、視界の端にステータスウィンドが現れて騒ぎになった。

それってドラ〇エみたいだね。と言った息子の言葉にまさかともなった。


 駐車場はあの状況だったので外は危険だろう。ホームセンター内の更に安全と思われる場所への移動も試みたが、化け物の多さに断念している。


 それでも彼等には希望があった。


 いつの間にか、浩一、青山、北河路の視界端で意識すれば好きに表示されるステータスウィンド。化け物を倒せばいつの間にかレベルは上がっており、更にスキル欄に3人揃って発生した『隠密』のスキル。


 気配やらを遮断できるらしい。


 これを使えば、化け物にバレずに移動できるかもしれなかった。


 だが、騎士が浩一に差し出した小さな袋を差し出したその日に全てが狂い始めた。

 


「お父さん。これ」


「お、おう」


 お父さんと呼ばれたのがいつ以来だろうか。


 なんだか照れ臭い。


 浩一は差し出された小さな紙袋を受け取った。


「開けてもいいのか?」


 頷く騎士。


 袋を開けて中に入っていたものを取りだす。


 肩たたき券と書かれた紙にお誕生日おめでとうと書かれたカード。


 後ろでニヤニヤと笑う青山と北河路。


「そうか。誕生日だったんだな。すっかり忘れてたよ」


 くしゃりと騎士の頭を撫でる。


「ありがとな」


「うん!」


 だがその日の夜、ドアが破られて一匹の化け物の侵入を許してしまう。


 

 そして運悪く、ドアの近くにいた北河路は化け物の突進を喰らい、突き進んだ化け物は騎士の足に、牙が突き立ったのであった。


 北河路は脇腹を軽く痛めただけで、普通に動く分には問題ない。



 青山が簡単に応急処置を行ったが、浅い呼吸を繰り返し、玉のような汗を額に浮かべて、グッタリとした騎士の様子は素人目にも尋常じゃないと思わせる。



「せ、せめて、熱だけでも下げないと体力がもたないのでは無いでしょうか」


 浩一が騎士の汗を拭く横で、北河路と青山が頭を悩ませるが、医学の知識も無い2人にはどうしようもない。


 衛生環境は最悪だし、栄養状態もいいとは言えない。


「すみません。北河路さんに青山さん」


 意を決した様子な浩一に2人は顔を見合わせる。


「ドラッグストアコーナーに行ってきます。何か、何か薬を!」



 必死な形相の浩一に青山と北河路は頷きあった。



 ドアを直して、商品でバリケードを作った3人。


 話し合って、どんな薬が必要そうかの案を出し合った。


 ドラッグストアコーナーに行くのは青山と浩一。脇腹を痛めた北河路は、控え室で騎士の様子をみる事に決めて行動を開始した。



「気をつけてないといけないのは大きなやつですね」


「浅黒い小さな奴は、動きも鈍いし、大きな奴は動きも速いからなあ」



 ピッチフォークを構えてた2人は隠密のスキルを使用しながら移動を行う。



 だが、彼等は知らない。


 化け物達の本当の恐ろしさを。







「それを持って騎士くんのところに!!」


 青山が叫んで、ピッチフォークを振り回す。


 何時もの人の良い顔は苦悶の表情に歪んでいる。


 青山の声を背に、浩一は足に噛み付いている化け物にピッチフォークを振り下ろした。


 甘かった。全てが。まさかあの小さな化け物が回りに同化する力があるなんて。これまでは無かった。


 それでも薬はいくつか手に入った。


「青山さんも早く。もどりま?」


 足元の化け物にトドメを刺して振り返えるが――――――――先程まで一人で二匹の化け物を相手にしていたはずの青山の姿がない。


 あるのは床に立つ膝から下の足が二つ。


 そして何も無い筈の空間から吐き出されたピッチフォークが一本音を立てて床に落ちた。


「あ、あえ、青山さん?」


 二つの足がパタリと倒れた。


「う、うわあああああ」


 カバンを抱えて、走り出そうとして背中に激しい痛みを感じた。


 痛い!


 痛い!


 熱い!!


 熱い!!


 けれど、浩一はカバンだけは離す事なく、その場から逃走した。









 フェイスマスクを脱いで素顔を見せた宮崎は、最初こそ、慌てた様子を見せたが、すぐに足の傷だけでは無く、背中の状態にも気がついた。そして既に浩一がどうしようもない状態である事も。


 だがら、浩一が最後に言いたいことがあるのか、最後の時見ず知らずのでも誰か隣にいた方がいいんじゃないかとただ静かに横に座り、耳を傾けた。


 もしかしたら恨み辛みや呪いの言葉かもしれないが、もしそうだとしても仕方がないだろう。




 だが、浩一は迷っていた。赤の他人だったのに、騎士のために一緒に薬を取りに行ってくれた青山。本当に騎士を可愛がってくれて心配してくれていた。


 また、赤の他人を巻き込んでいいのだろうか。


 何か代価はないだろうか。こんな状況で差出せるものなんてほとんどない。


 人の良い青山の笑顔が頭をよぎる。縋って本当にいいのか?


 悩みながら、取り出そうとしたサイフと共に指に触れたのは騎士がくれた肩たたき券。



 ああ………。


 やっとお父さんって呼ばれたのにな。



 見ず知らずの方よ。どうか頼らせては貰えないだろうか。


 恥知らずにも、縋らせて欲しい。


 だから言葉を振り絞る。


「カードの………」


久しぶりの三人称視点。


書くの難しいです。


『偽善者』に続きます。

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