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27.閑話 高谷浩一 前編

前27話『偽善者』は加筆修正して再投稿予定です。

詳しくは活動報告にも御座います。


その前に閑話として今回の話を投稿します。


主人公以外の視点はとりあえず三人称で行きたいと思います。



壁に寄り掛かると、高谷浩一の意思に関係なく、その体は崩れる様に床に座り込んだ。


「立たなければ」とは思うが、脳からのその命令を足が受け付ける事は無い。


 感覚は麻痺し、既に自分の体なのかどうかも分からない状態であった。


 致死量に近い失血。


 この場所までたどり着くことができたのは、ステータスの恩恵か、それとも執念のなせる技か。


 だが目的地まではまだ少し遠く、その距離は今の浩一にとって無限にも等しいもの。




 この世界でどれ程の役に立つのかは分からないATMと壊れた自動ドア。床には靴跡のついた封筒とチラシが散らばっている。


 灯りは無く、薄暗い中で、聞こえるのは浩一の荒い呼吸の音のみ。




 不思議な気持ちであった。


 先程までの死への恐怖は薄まり、今にも途切れてしまいそうな意識の片隅には息子である騎士ナイトと浩一を助けてくれた人の顔が思い起こされる。


 ただただ悔しくて、申し訳ない気持ちに、顔が歪む。泣き叫び、周りに当たり散らしたいが、それも叶わない。


 だがそれもあと僅かで終わる。


 血を辿ってやってくる、異世界からの来訪者によって。



 それでも浩一は胸に抱えたカバンだけは離さないと誓い力を込める。


 しょうもない意地だと浩一は思う。託されたカバンを届ける事すら出来ない情けない男。どうしようもない父親だと。



 そしてついに壊れた自動ドアの向こう側に異世界からの来訪者である化け物が一瞬姿を見せた。


 終わりが来たのだ。


「………?」


 だがすぐに化け物は通り過ぎ、次の瞬間には血だるまになり転がっていた。


 男がいる。


 壊れた自動ドアの向こう。


 斧を片手で振るい、憎き化け物を屠る宮崎海斗の姿。


 高谷浩一にとってそれは、最後の希望であり、そして暗く重い絶望でもあった。










 アホみたいに晴れているな、車から降りた高谷浩一は空を見上げた。雨よりかはめんどくさく無くていい。



 タバコを咥えようと胸ポケットに手を伸ばすが、後部座席から降りてきた、息子の騎士(ナイト)の顔を見て諦める。


「じゃあ、行こか」


「うん」


 浩一の横を早歩きで騎士がついていく。横に並んではすぐに間が空く。


 続く会話も無い。


 浩一にとっては正直どう接していいのかわからない相手だった。




 騎士は浩一の両親と暮らしている。


 嫁とはデキ婚だった。子供をつくる予定もなかったし、生まれてすぐに嫁が事故で亡くなるなんて思いもよらなかった。何もかもが突然だった。


 お前一人じゃ育てるのは無理だと浩一の両親に引き取られたが、実際無理だろと浩一自身も考えていたのだ。特に異存も無く、そのまま騎士は祖父母に育てられた。


 だがこうして数ヶ月に一度会うことにはなっている。


 けれど、会っても何を話していいのかは分からない。


 時折じっと観察する様に浩一を見つめる騎士が苦手だ。


 帽子の下から覗く、母親に似た薄い髪の色が胸を騒つかせる。


「「あ…………」」


 二人の意を決した言葉はタイミング悪く重なる。


「えっと………何………………」


 問い掛け直した浩一の声は次の瞬間、金属の破砕音で遮られた。


 騎士なその場に頭を抱えてしゃがみこみ、浩一は辺りを見回し固まってしまう。


「はあ? なんだあれ?」


 車が並ぶ広い駐車場。


 車より背の高い生き物が彼方此方を闊歩している。



 クラクションの音が響いている。


 何処の動物園からでも動物が逃げ出したのかと唖然とする。


 その現実離れした光景をただ眺めていた浩一は、隣で聞こえた騎士の悲鳴に我に返って振り向く。


 影が浩一と騎士を覆っていた。


 見た事も無い生き物が、今にも振り上げた太い手を下ろさんとしている。


 咄嗟に浩一は騎士を抱えるが、足が思うように動かない。


「あっ………」


 駄目だ。


 だが、絶望に包まれた声が溢れる前に、訪れたのは――――――――。



 激しい衝撃音。

 

 目の前の化け物は横に吹っ飛び、代わりに目の前にはバックで突っ込んできた、軽トラが一台。


「おい、あんたら! 大丈夫か!」


 化け物を吹き飛ばした軽トラからは真っ黒に日焼けした老人、青山国光が飛び出してきた。


「助かりました」


 騎士を抱えるて礼を言う浩一に、にかっと人の良さそうな笑みを向けた青山は短く刈り上げた白髪の頭を掻く。


「けど、車は詰まっとって動かんし、どうしたらええんか」


「そうですね。一体これは、…………何処かに?避難しないと」


 しゃがんで車の影に隠れて話しをする青山と浩一。辺りは悲鳴や車のフロントガラスにが割れる音、化け物の叫び声がそこかしこで響いている。


「ん? ………どうした?」


 浩一の服を引っ張る騎士が指差す。


 青山と浩一は指差す方向に目を向ける。


 そこにはホームセンターの壁にの小さな小窓から顔を出して手招きする、1人の男性店員がいた。






 男性店員の助けを借りて、何とか店内に逃げ込んだ浩一と騎士と青山であったが、既に店内でも所々で悲鳴が聞こえている。


「こっちです」


 男性店員の北河路と簡単な自己紹介と情報交換をした青山と浩一は、安全な場所に避難しましょうと北河路の提案に頷く。


 途中、騎士と浩一が巨大なノミの化け物に襲われたが、青山が商品棚と床の隙間から覗いていた手斧を見つけて撃退し、近くにあったピッチフォークや鎌を手についていく。



 到着したのは店員用の控え室。


 本来は別の場所に行く予定であったが、巨大な化け物が徘徊しており、断念した。


「ここも、鍵はかかりますし、停電でも水は使えますし、災害用の備品や僅かですが食料も備蓄しています」


 北河路は汗を拭いながら説明する。


「取り敢えず、救助が来るまで、ここで立てこもりましょう」


 浩一と青山は頷き、騎士は興味深げに辺りを見回している。



 だが浩一には駐車場で見た光景があの場所だけでは無いのでは、という不安が喉まで出かかったが飲み込んだのであった。


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