26.ATM待ちの列に並んで自動ドアが反応する位置になってしまった時、きゅっと身体を縮こませてみるが効果が無い。
さて、そんじゃあ、昨日の続きと行きますか。
一晩明けて、気持ち新たに俺は探索へと向かう。
体調は驚くほどに万全だ。
楽園温泉の効果なのだろう。身体だけではなく、頭もスッキリしている気がするぜ。風呂にはリフレッシュ効果もあるって言うしなあ。溜まっていたストレスが綺麗さっぱり流されていったのかもしれない。
瑠璃も防水加工なのかスイスイと温泉を泳いでいたもんな。一緒に入るか聞いたの冗談だったんだけど、まあいいや。何となく気持ちよさそうだったし。
昨日引き返した地点まで、特にモンスターとの戦闘も無く到着した。
ここからは初めて足を踏み入れる未知のフロアだな。
慎重に進もう。
ちなみ探索のやり方と方針は簡単だ。
どこにどんな商品があるかを確認し、防災セットに入っていたメモ帳にペンで記入していく。
モンスターが出れば戦闘。
本当に嫌な予感がしたら退却する。
あと、出来れば一階に降りて、どこでもいいから外の様子を確認したい。
楽園に基地と足場も固まってきたからな。情報集めて、更に今後の活動方針を決めていきたいところだな。
あとは瑠璃にお土産として、何かしら役に立ちそうな情報媒体が欲しい。どんなものがいいのだろうか。本当に世話になっているからな。
暗闇の中、歩いてすぐに異変を感じ取る。
ビリビリと肌が騒つく感覚。
空気が徐々に重たくなっていく。
近くにモンスターがいる様子はまだ無いが………………………なんと言うか、モンスターの縄張りとかテリトリーみたいな場所に入ったとでもいうような感覚。上手く説明できん。
だけどゴブリンというかハイゴブリンに襲われる前にも近い感覚があった気がする。
レベルが上がって、その辺もより鋭敏になったのかもしれないな。
よし!! 気を引き締めていくぞ。
「はっ、はっ、はっ」
床に血だるまになりながら倒れるカエルモンスターを横目に、ダラダラ涎を垂らしている、もう一匹と俺は向き合う。
一瞬の間、長い舌が大きな揺れてカエルモンスターは後方に跳びのき距離を開ける。
俺はそのまま追いかけて斧を振り回す!!
――――と見せかけて、後ろの何もなさそうな空間に斧を打ち込んで、大きな傷を晒して姿を現した擬態カエルモンスターに更にもう一発! 斧でトドメを刺す。
しまった。力入れ過ぎた!!
そのまま、深く刺さってしまった斧を手放して、ナイフを最後の一匹に向けて投擲。
右の目玉に当たるも上手く刺さらずに、ナイフは地面に落ちるが、僅かにカエルモンスターの意識がそれた隙に俺はバールで真ん中の目玉を潰して、引きずり倒す。地面でバタつくモンスターに鉈を振り下ろした。
ナイフと三つの魔石を拾いながら、周囲に気を配るが、……………………うん、増援は無いようだな。
こいつら仲間を呼ぶ様な素振り見せなかったからなあ。
それにしても、ここはカエルモンスター達の縄張りなのもしれん。
昨日は5匹やり合ったし、今日は既に1時間くらい前に2匹、んで今3匹。
もしかしたらハイゴブリンみたいなボスっぽい強いカエルモンスターいるかもしれねえな。
相変わらずレベルが上がったからか、力も強くなったし動き良くなった気はするけど、あのハイゴブリンは、今でもまともにやっても勝てる気はしないんだよなあ。
しかもまだステータスで上がった力に振り回されている感じだ。頭と身体が上手く重なっていない。
あ~、あれだ。年取って久しぶりにスポーツすると頭で出来ると思った動きが、実際の身体の動きとてんでバラバラな感覚の逆バージョンだな。
俺はポケットに魔石をねじ込み、チャックを閉めた。
そんじゃ、探索再開だな。
し ばらく足を進めると、少し先ずっと続いていた右手の壁が途切れている。
おそらく銀行やらのATMコーナーみたいだ………っと!!
俺の耳が前方から駆けてくる足音を捉える。
またかよ。本格的にモンスター共の縄張りなんじゃねえか?
……数は多そうだぜ。
暗闇から姿を見せてきたのは相変わらずのカエルモンスターが――――5匹か。
大丈夫か? 多分何処から擬態カエルモンスターもくるだろうしよ。要注意だぜ。
斧を構えて、迎え撃つ。
「っあ!!」
何故か一瞬ATMコーナー付近で動きの鈍ったカエルモンスター達とすれ違い様に斧を叩き込む。
床は簡易転送でいくつか凹ましてある。
斧を叩きこまれた一匹は別の一匹を巻き込んで倒れ、二匹は床に足取られバランスを崩して床に激突している。
無事な一匹は再び向きを変え、俺に突っ込んでくる。
横に躱して斧で脚を払う。鈍い手ごたえとゴギリと骨が砕ける音。
クッソ! こいつらムダに舌が長いから涎が飛んできやがる。気持ち悪いぜ。
斧で顔面に一撃。目玉を潰して、他の床に激突し態勢を崩しているカエルモンスター達にも素早く斧を振り下ろしていく。
まともに動けるカエルモンスターはあと一匹!
最後の一匹に斧を振り下ろす瞬間に頭を掠める疑問。
――――――――擬態カエルモンスターはいないのか?
これまで必ずカエルモンスターとセットだった擬態カエルモンスターは――――――――
「あ……危ない!! 棚の上………です!!」
どこからか響いた声に俺は反応して上を見る。
商品棚の一番上から、歪んだ景色の塊が俺のめがけて降ってきやがる。
こんちくしょー!!
斧を手放し咄嗟に後ろに飛んで、着地後すぐにバールと鉈を取り出す。歪んだ空間が床に降りた瞬間、駆けて、鉈で払いながらバールを打ち込んだ。
ジュクジュクと溶けていくカエルモンスター達の最後を確認して息を整える。
あ、危なかった。誰かは分からんがあの声がなかったら、まともに一撃喰らっていたかもしれん。
こ、声がしたのはATMのある壊れた自動ドアの向こうからだよな。
どうしよう。き、緊張するぜ。
何て話しかければいいんだ? 人と話すのなんて何日ぶりだ? いやいやまずはきちんとお礼を言わんとな。命の恩人だ。
でもこんな斧持った格好で大丈夫か? 怪しくないか?
俺は恐る恐るATMコーナーの中を覗く。
人影だ。床に座っている。
「あ、あの~、すみません。先ほどは助かりました」
ヤバい。声が上ずった。恥ずかしい。
「い……いえ、…………加勢できずに……すみません」
「いえいえ、そんな事はありません――――って、足、怪我されてませんか!?」
こんなトンデモない状況になって初めて話したのは、足を怪我した様子の俺より少し若いであろう成人男性であった。
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