21.蛇口をひねる。ホースから水が出ない。ホースの穴を覗いてみる。それは子供から少し大人になる為の通過儀礼。
基地の中身も防御も充実したし、今日からは基地周辺の探索範囲を広げていこうと思う。
さて、どちらに向かうべきか。
ちなみに、基地の正面は新生活応援フェアをやっていた様子だが、脚長サソリモンスターが商品棚を投げつけたお陰で、結構めちゃくちゃになっている。まあ、ここの商品には基地造りでかなりお世話になった。
で、通路から出て右手側に進むと、ハイゴブリン達が居たカー用品コーナーや『キャンプ・アウトドア用品コーナー』がある。
そして左手側は未だ手付かずな訳だ。
正直な~、左手側にはあんまり行きたくない。結構奥の方にはドラッグコーナーがあるんだけどな~。
良いイメージが無いんだよ。
脚長サソリモンスターが最後左手側に行ったからな。
う~ん。
かと言って放置するのもなあ。
とりあえず注意しながら左手側に行ってみようか。
斧を構えていつでも反応できるよう意識しながら商品棚を確認していく。
ビニールホースとかは今のところ使い道思いつかないな。
けど、いつ必要になるかわからないから、どんな商品があったかは憶えておこう。
おっ、針金入りのホースとか装備に使えたりしないかな?
陳列されている商品と周囲の安全を確認しながらゆっくりと進む。
しばらく進んでみたが、脚長サソリモンスターの姿は無いな。
良かった。
正直勝てる気がしないからな。
それにしても、やけに静かだ。
「………」
進む。
進む。
そして足が止まった。
あ~、これはあんまりいい予感がしないぞ。 歩く度に徐々に膨れ上がる違和感が半端ない。
さてどうしようか。
よし! これ以上進むのはやめておこう。
見た感じ、暗闇の続く何もない通路が広がっているだけなんだがなあ。
商品は所々に散らばっているし、床にはあまり考えたく無いしみの跡が広がっている。けれども、どこにもシミのもととなったハズの人の姿形は見当たらない。
あるのは床を引きずったあとだけだ。
「?」
暗闇の中で何か動いた気がする。
なんだ?
くそ! よくわからん。
引こう。
基地前の近くの木製鳴子と金物鳴子を試した商品棚の所まで戻った。
商品棚で作られた十字路。あと少しで基地だな。
あの不安な感覚は気のせいだったのか、それとも……
「!」
タタタタッタタタタ。
何かが駆けてくる足音。
速い!
ひとつ目モンスターか?
だが、以前よりも足音は小さい。
左手に木製鳴子、右手に金物鳴子、正面の近づいてくる音のほうを向いて、斧構える。
来る!!
商品棚の向こうから姿を現したのは――――
なんだありゃ!?
高さは1メートルくらいか?
フワフワとした毛がなびく四本の脚。
3匹のモンスター。
首のない大型犬のような体躯をしている。胴体から首は無くそのまま顔面につながっており、長い舌をブラブラと揺らし唾液を撒き散らしながら駆けてくる姿、それは異形そのもの。
出目金のように飛び出た目玉が三つ。顔面を真っ二つにする程に馬鹿でかい口からは、おろし金のように並ぶ鋭利な歯が見える。顔だけ見ればイボガエルにも見えるが、動きはしなやかで素早い。
くそったれ!! 初見さんいらっしゃいだ!!
一匹が先頭に、二匹がその後ろに並んで駆けてきやがった。
同時にくるのか?それとも時間差か?
突っ込んでくる動きに合わせて、カウンターを………?
三つ目カエルモンスター3匹が何故か一瞬スピードを緩めた。
なんだ?背にぞくりと悪寒が走る。
カラカラ。
すぐ左手の横にある、昨日検証してそのままにしてあった木製鳴子の音が耳に入った。
「うおおおおお!」
身を引きながら、革のケースから鉈を取り出し、鳴子の紐がある何も無い空間に振り下ろす。
考えてなどいない、咄嗟の行動だった。
無理な動きに身体の節々と筋肉が軋み悲鳴をあげる。
何もないかと思っていた空間の途中で、鉈に手ごたえを感じる。
俺の太もも辺り、すぐ近くでだ。
よくよく見れば一部の空間が、歪んでいるというか、ノッペリと雑な色彩だと理解できた。
そのまま、音のした左手の木製鳴子の歪んだ空間に向けて歯を食いしばってそのまま鉈を振り切る。そして同時に正面から飛びかかってきた、三つ目カエルモンスターの噛みつきを右手の金物鳴子の紐の方向に飛び込み前転の要領で躱す。
転がりすぐに立ち上がった。
金物鳴子の向こう側、三匹の三つ目カエルモンスターがこちらに方向転換している。
そして………落書きの様な歪んだ空間からぼたぼたと流れる液体。血か?
すぐにドサリと音を立て、床に倒れて姿を現したのは、三つ目カエルモンスターと似ているが、一回り小さく、色が濃いモンスター。
周囲に擬態するモンスターかよ。忍者みたいな奴だな!
あの三匹は擬態しないのか?
俺に噛みつきを躱された、三つ目カエルモンスターはデカイ口を開けて再び飛びかかってきそうな雰囲気だが………タネが分かれば、対応できる。
よく見ると違和感のある空間が俺の近くにもうひとつ。
そこに斧を打ち込んで、鉈で三匹を牽制する。
手ごたえあるが………、もう一度打ち込んで、姿を現したのは先程の擬態カエルモンスターだ。
………………他に周囲におかしなところは無いな。
斧を構えて、後ずさる三匹の三つ目カエルモンスターに飛びかかった。
流石に瀕死の様だけど、簡単には倒せないな。
鉈で顔面をかち割れて血を流して倒れていた、擬態カエルモンスターに留めを刺す。
しばらくして変化した魔石を拾う。
三つ目カエルモンスターは特に擬態能力はなかったな。動きは速いが、直線的だし、カエルみたいに舌が伸びるわけでもなかったから、問題なく倒せた。けどやっぱり複数相手にするのは不味いな。危ない場面もあったからなあ。だからといって、モンスターが気を利かせて、1匹ずつ襲ってくることは無いだろうし。上手く立ち回るしかないのか。
それにしても、また新しい種類のモンスターか。そこまで探索も進まなかったな。
「は~。しんどいぜ」
ここまで戻ってきたし、一度基地に戻ってから楽園に行こうか。
流石にレベルアップしてるよな。次で15だ。能力解放含めて楽しみだぜ。
俺は感謝を込めて木製鳴子をチョンと触り、基地に向かった。




