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2.初めて手にしたちゃんとした刃物は小刀だったかもしれない

楽しんで行ってね!!

「お、おいあんた。大丈夫ぶ――――――――」


 ではなかった。


 うっ……。


 胃から酸っぱいものがこみ上げてくる。


 ひ、ひでえ。


 まだ20代くらいの青年だと思う。


 ひゅうひゅうと息をしてる。喉はよくわからない状態になっていて、真っ赤に染まった胸元が頼りなく上下している。


 吐いてる場合じゃねえぞ俺!。


 なんとか、こみ上げてくるものを堪える。


「頑張れよ。すぐに救急車呼んでやるからな、き、傷は深くはないぞ!」


 俺は青年に声を掛け、震える手でスマホを操作して、なんとか119をコールするが……。


 はあ!?繋がらねえぞ。なんでだ……圏外?おいおい嘘だろ。


「ち、ちょっと待っとけよ。す、すぐ人を呼んでくるからな」


 とにかく、人を呼ばなきゃ話にならない。俺ひとりじゃどうしようもないぞ。


 くそ! 店員はどこだよ!


 記憶を頼りに、何度か転びそうになりながら暗い通路を走り、出入り口のレジがいくつも並ぶ、開けた場所に向かう。


「誰か!すみません!! 人がけが――――」


 俺は通路から顔を出して、レジが並ぶ広い場所に叫び、そして、途中でやめた。






 地獄が広がっていた。




 停電で薄暗いホールとは異なり、窓から外光が入り、明るいレジ周辺。


 そこでは男が女が、子供が老人が――――獣、いや化け物に襲われていた。


 血しぶきが床に壁に飛び散る。


 重なり合う悲痛な叫び声。


 子供の泣き声が突然止み、化け物の唸り声に変わる。


 阿鼻叫喚。


「一体、なんなんだよ……」


 なにが起きている?


 かすれた唖然とした俺の呟きは、あちらこちらで響く悲鳴でかき消された。


「うわっ!逃げろ!!」


「外はダメだ!!」


「いやあああ!」


「店内に早く!こっちだ!!急げ」



 ひときわ大きな悲鳴と叫び声に俺は我に返った。


 出入り口になる自動ドアがある方向、外から人が店内に駆け込んでくる。


 泣く子供を、抱える母親。


 今にも倒れそうな老人の手を引く男性。


 大声で逃げ惑う人を店内に誘導していたスーツ姿の男性は慌てて過ぎたのか転倒している。


 今度は何が――――。


 足を絡ませて転んでいた男が、ビクンと身体を跳ねさせて、ゆっくりと空中に浮かんでいく。


 はあ?人が空を飛んでいる……。


 不思議な光景だった。


 逆光に黒いシルエットが浮かぶ。空中に浮かぶ男の腹からは鋭利な何が突き出ていて、背中には細長い………………化け物の脚が現れた。


 見上げた。


 で、デカイ。


 何本あるのかわからない、鋭利な先端の細長い脚を器用に使い、次々と背を向け逃げ惑う人々を虐殺して歩く化け物は、高さだけでも5メートルは越えているんじゃないか。


 身体自体は平べったくて、サソリの様にも見える。


 デカイ化け物からなんとか逃げた人達は俺とは逆方向に駆けていく。


 けれど、巨大な化け物から逃げ延びても、別の化け物に襲われて引きづり倒されて、他の化け物も群がって姿が見えなくなっていった。


 やばい、やばい、やばい!


 ここにいたら自分もやばい。


 俺は震える脚で、身を引くしながら先ほど化け物を倒した場所まで戻った。


 俺は運が良かったのだと思う。


「はあ、はあ、はあ」


 息が切れる。苦しい。吐きそうだ。


 無事瀕死の状態だった青年と、倒れた化け物の場所まで、襲われることなく戻ることができたぞ。


 だが……。



 床に広がる血の池で青年は目を見開いたまま、亡くなっていた。


 …………すまんな。


 俺は青年の瞼を閉じると、棚にあった斧を手に取り、グリップのついた30センチ程の長さのバールをベルトに差し込んだ。


 くそ、くそ、くそ、くそ!!!


 とにかく、どこか安全な場所に避難しないといけない。


 自分の身の安全の確保をしなきゃ、次は俺が化け物の餌食だろう。




 キョロキョロと辺りを見回して、避難口の表示の灯りが目に入る。



 テンパり過ぎて今まで気がつかなかったぞ。


 とりあえず表示に従って移動すれば外に脱出できるかもしれない。


 だが……生憎と俺の運はそこまで良くは無かったようだ。





 避難口の灯りに照らされて、トカゲのような脚の生えた巨大なミミズの化け物が、商品棚の曲がり角からゆらりと現れやがった。


 マジかよ……クソが!


 化け物がぬるりとした頭を俺に向けると、パックリと大きな丸い口が開いた。


 高さは俺の太もも辺りまであり、身体の長さは多分175センチの俺よりあるだろう。


 目のような物はここからじゃ分からないが、こっちに気づいてるよなありゃ。


 こんな化け物とまともにやりやっても殺されるだけだぞ。


 俺は全速力で逃げの一手を打った。



 通路を走り、曲がり、そして、また走る。


 足が攣りそうだ。


 何より暗いし走りにくい。薄暗い店内の中では、俺のほかにも化け物に襲われている人とすれ違う。店内には悲鳴が木霊し、助けを求められる状況じゃなさそうだ。


 さ、さっきの化け物はどうなった?


 振り向いた俺は、身体をくねらせながら、俺を追いかけてくる脚長ミミズとの距離が縮まっていることに焦る。


 これがいけなかった。


 盛大に足絡ませて転んでしまったのだ。


 やっちまった!


 しかも転んだ拍子に斧を手放してしまう。


 斧は商品棚の下、暗闇の先に滑って行ってしまい見えなくなった。


 すぐそこまでミミズの化け物が気色悪い口を広げて迫る。


 咄嗟に腰のベルトに差し込んでいたバールを手にした。


 だがこんなものでどうこうなりそうな相手じゃねえだろう。


 何か他にねえか?


 少しでも隙ができれば!


 こ、これでも喰らえ。


 近くにあった何かの液体が入ったプラスチックの容器をミミズの化け物に向けて投げてやった。


 気をそらせればと、半ばやけっぱちで投げたわけだが、上手いこと、牙が幾つも並ぶ丸い口にスッポリと入ったぞ。


 もしかしたら、口を閉じれなくなったんじゃ!


 ビシャッ!


 だが、容器はいとも簡単に噛み砕かれた。


 あっ……死んだ……。



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