18.実家と自分の電話番号しか憶えていない。スマホのデータが消えたらアウトだろう。
憂鬱な月曜日のほんのわずかな時間でも楽しんで頂けたなら幸いです。
銀色の鋭い爪が、俺に振り下ろされる!!
唖然とする俺は躱すことも出来ず、その爪の餌食となった………………。
「い、イタ! 痛い痛い」
突然の蜘蛛タブレットの反乱だぜ!
コンパス脚でカリカリツンツンしてくる。
い、一体何が起きたと言うんだ!?
チクチクするじゃねえか。
まあ、本当は痛くないんだけど、何がこの世話好きの蜘蛛タブレットを兇行に走らせたのだろうか?
俺が名前をつけようと提案した時はあんなにピョンピョンと喜んでいたのに。
くも作、タブ造、そしてナビ助とカッコいい系、強そう系、オシャレ系な名前を提案したんだが、突然チクチクしてきたらなあ。
最近のタブレットの考えることはわけわからん。
ナビ助なんかは、ツバキ科のわびすけと被っていて雅な感じなのだが。
あっ!
「なんだよ~。もしかして照れ隠しか?」
足元の蜘蛛タブレット持ち上げて話しかけると「うわ~、これマジもんや」と呆れた雰囲気が蜘蛛タブレットから伝わってくる。
心外だよ?
ま、まさかとは思うが名前が気に入らなかったのだろうか?
あっ!!
「もしかして、女性系の名前がいいのか」
蜘蛛タブレットの動きがぴたりと止まる。俺の次の言葉を待っているようだ。
だが………。
「………俺は女性キャラの名前には自信がないんだ」
ゲームでも、男性キャラは名前を付けるが、女性キャラはデフォルトでいくタイプなんだ!!
申し訳ない。男性名なら幾らでも素敵な名前を付けてやれるのに。
そっと床に蜘蛛タブレットを降ろしてやる。
「すまんな。名前をつけてやれそうにない。」
じっとナビ助(仮)見つめる。光沢のある黒の液晶に裏は液晶の黒とは異なる暗く深い青。
思いついたのは――――
「お前の色を見てクロか………」
「えー、女性関係ないよ」といた感じの蜘蛛タブレット。
「宝石だと、黒曜石江とかブラックダイヤモンド乃、花だと黒薔薇音……」
「長いし、名前じゃないよね」といった前足の動きをしている。
「う~ん、黒百合とか」
「おっ、近づいた!」といった真ん中脚の動きをしている。
「でも、臭いでハエがたかるらしいし」
しゅんと脚に力が入らなくなって動きを止めた。
「え~と、んん~。さよりとか。銀色の細い魚で美人って意味があるし」
「い、いいんじゃない?」といった後ろ脚の動きをし始めた。
「腹の中が黒色で腹黒って意味が……痛い痛い」
「上げて落とすな!!」といった脚全体でちくちくしてきた。
「カラス関係でーーーー」
悲しそうな表情をしている気がする。
やっぱりそうだよな。女性の名前だとは思ってなかったよ。
「もう、後は裏側の色から、紺とか葵とか藍とか瑠璃色とか……」
普通な感じしかない。無理だろう。強くなさそうだし、もっとオンリーワンな名前じゃないとナビ助(仮)に失礼だ。ロイヤルブルーサファイヤ子とかどうだろう。
いっそナビ助(仮)から(仮)を取ってしまうか?
「ん?」
じっと見つくる蜘蛛タブレット。
ぴょん。
え?
「いいの?」
ぴょんぴょん。
「ナビ助でいいの?」
サックと刺された。違うらしい。
「紺?」
無反応。
「葵?」
ぴょん。
「藍?」
ぴょんぴょん。
「瑠璃」
ぴょんぴょんぴょんぴょん。
瑠璃でいいらしい。
自分で言ってなんだが、くも子やタブ代、くろ美じゃなくていいんだろうか?
だが嬉しそうに足元を跳ねる蜘蛛タブレット、いやナビ助、でも無く瑠璃を見ていると、まあいいかと思えてくる。
瑠璃を抱えて俺の目線に掲げる。
「そんじゃ、これからもよろしくな。瑠璃」
瑠璃はくいっと前コンパス脚をあげて答えてくれた。
あ!!!
「あと、これを」
俺は瑠璃にハイゴブリン共の魔石を瑠璃の液晶上に置く。
前回は長居できなかったからな。
スッと消えてバリガリと音が響く。
タブレットPCに変形した瑠璃の液晶を見る。
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魔石にてナビポイント16ポイント獲得しました。
5ポイント達成
音声検索インタフェース解放。
10ポイント達成
楽園創生情報詳細検索機能獲得。
15ポイント達成
ナビゲーター知識吸収機能プラス
残りナビポイント2
次必要ポイントは20ポイント
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どんな機能だ?
詳細検索してみよう。
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ナビゲーター知識吸収機能プラス
データ媒体を吸収し知識として蓄える事が可能になる『ナビゲータ知識吸収機能』の容量が増える。
吸収可能な例
CD,DVD、ブルーレイ、パソコンのハードディスク、携帯電話、スマートフォン等
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なるほどね。こうやって瑠璃は賢くなっていくのか。
…………ん?
スマートフォン?
瑠璃を目線に合わせてジッと見る。
ぴょこっと一本だけ脚が飛び出て、液晶をカリカリ掻く。
お前か~!! スマホ無くなったと思ってたら、喰ったのか。
……まあ、いいや。
その後は食事をしながら、瑠璃と少し戯れて基地に戻った。
壁の時計は20時30分過ぎ。
四隅に設置してある、ランタンは薄っすらとオレンジの灯りで基地内を優しく照らしいる。
流石に疲れた。濃い一日だった。
俺のスマホは瑠璃が喰ったのか。
本当はバリケードとか強化したかんだけどなあ。
基地作りが楽しくて後回しになった。いかん、いかん。
明日はバリケードだな。
それにしてもハイゴブリンは強かったな。ゴブリン達の親玉ぽかったから、そう何匹もいるもんじゃないだろうが、今のままだと厳しいのかもしれない。
俺はこれからの事を考えながら、歯磨きをしてマウスウォッシュでうがいをする。へんな味だが我慢だ。
水は今のところ飲料以外には使わないと決めている。
ペットボトルや容器に、幾らかは貯水して女子トイレに保管している。
ゴロリと寝袋に横になる。
暖かいし柔らかい。
寝心地は悪くないな。
とりあえず、バリケード強化したら靴脱いで寝てもいいよな。
「はあ~あ」
欠伸を噛み殺し、ぼんやりと天井を見上げる。これまで暗かったから別の場所みたいだぜ。
へんな感じだ。
寝返りをうって今日の出来事をぼんやり思い返す。
思い出すのは………力なくダラリと重い子供の冷たくなった体の感触。
もし、もっと早く行けば助けられたのかなんて意味の無いことで悩むつもりはないが………やるせない気 持ちが頭のどこかで燻って……いる。
これまで小動物を殺した経験なんて、………釣った魚くらいだ。
ネズミ………………も無理だし………………やっぱり強く………なりた………………………。
時計を見ると朝の9時50分。
13時間近く寝た。
疲れ溜まってたんだろうな。
よし! それじゃあ今日はバリケード強化に励むとするか!!
瑠璃にも朝の挨拶して、飯食って歯磨いて………
おっと、その前に………トイレだぜ!!
俺は男子トイレに駆け込んだ。
さて、今日も頑張りますか!!!