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私の日曜日

作者: りびっと

世界を旅する青春ボーイが、誤解を恐れずストレートに書きました。旅先からエアメールで彼女に送った物語。

「お前ってさー、日曜日の昼下りって感じだよな」

一目で男の子の部屋と分かる無機質な風景の中、TVを見ている時だった。

「なによそれー。」

口を尖らせながら言った。

彼は今日、約束の時間に40分もオーバーしてきたのだ。

そのせいで、見るはずだった映画を見損ねてしまったのだ。

「で、その日曜日ってどんな日なわけ?夏?冬?晴れてんの?雨降ってんの?」

とは返事してみたものの、見損ねた映画のことなどどーでもよかった。

ただなんとなく、そんな口調になっていた。

「ぽかぽかしてて、時間がゆっくりで・・・でも夜が過ぎればまた月曜日で。だから夜が近づくとなんとなく悲しくなるっていうか…」

窓の外に映る、既に枝だけになった桜の木を眺めながら独り言のように彼は言った。

「人の話聞いてんの?どんな日曜日かって聞いてるの!」

そこで初めてこちらの態度に気付いたかのようにこちらに向き直って、

「そーだなー。季節は春かな。雨もいいけど、やっぱり晴れた日!」

「意味分かんないし。」


高校2年の春になった頃からこうして遊ぶようになり半年以上が経った。

学校では既に進路希望調査というものが始まっており、私の周りの友達はあの学校がどうだとか、この寮はこうだなど、未だに実感が持てないでいる私にとって、他国語を聞いているようなものだった。

私は地元の大学に行って、その間に真剣に考えたらいいやと思っていた。


「お前、高校卒業したらどーすんの?」

ある日、彼との電話の話題になった。

「んーそーだなー。お金持ちと結婚して、大きな家に住みながら優雅に暮らしたい♪」

半分期待を込めながら言ったつもりだが、彼は笑っていた。

私が同じことを聞き返すと、彼は

「んー。なら、上京しようかな。」

あまり深く考えずに言っている感じだった。

「なによそれー。上京ってことは私たちどーなるのよー?」

「分かんないや」

「え・・・・」

私のことはまるで選択肢になかったかのような感じがした。

「もういい!!」

私たちはどうなるのかという質問に対し、私は絶対的な自信を持っていた。

不意打ちを食らって返す言葉に困り、それを隠すためにあんな態度を取った自分に腹が立った。


いつも別れは突然である。

きっかけは些細なことである。


進路の一件以来、彼に対して気まずく思うようになり、学校で会っても目を逸し、電話やメールなどは返事できないでいた。

しかしある日に彼は、前を通り過ぎようとする私の腕を引っ張り、

「話がある。」

と言ってきたことがある。

その時の彼の目はとても印象的だった。

「上京するあなたに話なんかないわ」

と突き返した事を後悔した。


彼が上京すると言った時のこと、その事に対して自分ではどーすることもできないこと。

そこから逃げ出すことが一番楽なのだ。

就職や進学などで慌しさが増す学校生活も手伝って、彼とは関わることが無くなり、次第に学校でも見掛けることが少なくなっていった。

初めは、あれ?と思ったが、私には関係ない。と、自分をごまかした。


これといった将来像は無かったが、地元の大学に進学し、サークルに参加し、新たにアルバイトも始めた。

それまで胸にあった闇のようにポッカリと空いた穴も、加速し続ける時の中で薄れていくだけだった。


就職して2年が経ち、職場に慣れ後輩も出来て生活は充実していた。

そんな中、高校時代の友達と集まる機会があった。

食事は進み、みんなの顔も赤らんできた時だった。

彼のことはすっかり忘れているつもりだったが、友人のうちの一人が彼について話し出した。

「あいつ、どーしたのかねー」

アルコールで速くなった血流が、胸の中にあった闇にどんどん吸い込まれていく音がした。

そんな状況に耐え切れず、わざと嫌味な感じに、

「上京したんでしょ?」

「そーだな・・・」

いつの間にか、彼を話題にしているのは私たち二人だけになったようだ。

他の皆は当時担任だった教師の話題で盛り上がっていた。

「それにしてもあいつ、あんな形で東京に行くことになるなんて、上京にもいろいろあるよな」と言ったか言わないかのうちに、話し声は消え去り周りの視線は再びこちらに向けられていた。

言った本人は、バツの悪そうな顔をしてうつむいてしまっている。

「どーゆー、こと?」

うまく回らない口でようやく声を絞り出して、出たのがこの一言だった。

やがて、別の一人が重い口を開く。

「あいつの母親、病気だったんだ。それもかなり侵攻してたらしい」

「あいつ、父親いないだろ?それで、母親の看病してたんだけど、高校3年の春に亡くなられて、東京の親戚に引き取られたんだよ。それからは詳しくは知らないけど、あっちで働くんだって言ってた。」

その声は、慎重に言葉を選んでいるようだった。


ー「話がある」


知らなかったのは自分だけだった。


一人暗い部屋。それ以上に胸の中には闇が広がっていた。

今まで気付かないフリをして見過ごしてきた穴が、体全体を覆い支配されている気がした。

目を開けると射し込む光が見えた。

「朝か。。。」

職場へ連絡するつもりで手にした携帯電話。

日曜日だと告げていた。

そのまま床に投げ付けようかと思ったが、ふと一人の顔が浮かんだ。

電話帳を眺め名前を見つけた。

正直、繋がらないでほしかった。

電話帳にある名前の中で、唯一彼のことを詳しく知る存在だからである。

「もしもし。」眠そうな声

「もしもし。」震えた声

ー数秒ー

「何かあったのか?」

頭がよく回る。いつもすぐにこちらを察してくれる。

「、、、、、」

人の声を聞いた瞬間、涙が出てきた。

「あいつのこと、聞いたんだな?」

何も言わない。何も言えない。

「あいつ、一度はお前に言おうと思ったんだって。でも、結局言えなかったんだよ。」


ー「話がある」


何も考えられなかった。ただ、あの時の風景が何度も何度も繰り返し頭を掛け巡った。

やがて、脳よりも先に口が動いた。

「彼の連絡先。。。」

「悪いけど知らない」

突飛ばされた言葉は私に真っすぐ飛んできた。

「そんなはずない、教えて」

「悪いな、知らないんだ」二回目の謝罪を聞かないうちに私は声を出していた。

「教えて」

やがて察した声で

「わかった。後でメール送る。」

それを最後に電話を切った。


間もなく送られてきた内容。

見て、恐ろしいほどの眩暈を感じた。

しかし体は何かを求めているかのように動き出す。

化粧では隠し切れない顔の腫れ。

電車に乗り込む。

昼過ぎには着くだろう。

見知らぬ駅、見知らぬ電車。

降り立った駅も記憶にない。

タクシーに乗り、目的地を伝える。

あれ以来持ち続けてきた闇。それが今、目の前に大きく広がっている。しかし、驚くほどの行動力でその闇の中を駆け回る。

何を求め、何処にたどり着くのか。

ただそれだけが重い体を動かした。


タクシーが止まる。

独特の匂い。

明るい廊下。

入り口からかなり歩いた。

そしてやっと見つけた。

メールに書かれた部屋番号。

辺は静まり返り、陰陽の両面を見ることのできる不思議な雰囲気であった。

ノックをする。

返事はない。

ドアを開ける。

そこには、女性と見間違うほどの小柄な男性が、薄い色の布を身にまとい、起きたベッドの上で力のない目を窓の外にやっていた。

一瞬、何がなんだが分からなくなった。

とっさに口に出た言葉は

「ごめん」


「ごめんなさい」


「、、、、」


「久し振りだね」

「どこか悪いの?」

「いつ頃退院できそうなの?」

「私迷惑かな、、、] 」

「、、れよ」

「え、、、」

「帰れよ」

ただ謝る事だけを考えていた。

どんな対応が私を待ち構えているかなど、まるで考えなかった。

見た目からはまるで想像のつかないほどの鋭利な視線と口調だったため、返す言葉など見つけられなかった。


「帰ってくれ」


もう一度だけ彼は言った。

今度は心の底から懇願するかのように。


いつもの天井。

どのように帰ってきたのか覚えていない。

ただ、今こうして自分の部屋で、以前より更に深さを増した闇に支配されているのは分かる。

ただそうしていたかった。

そうするほか無かった。

いったいあれから何日経っただろう。

幾度となく着信を知らせた携帯電話。

今も光っている。

なんとなくディスプレイを見る。

見覚えのある名前。

「、、、、、」

何も言う気になれなかった。

「やぁ、、、」

「、、、、、」

「あの後あいつのとこ行ったんだろ?」

「、、、、、」

「あいつからは連絡先教えるなって言われてたんだ」

「悪かったな。」

彼は分かっているようだった。

「、、、、帰れって、、、」

「、、、だろうな。」

どれだけ無言が続いただろう。

5分。

10分。

いや、当てにならない。

「あいつ」

そう言われても何も期待するものはなかった。

受話器から聞こえる声が部分的に頭に残る。

「、、、、、」

「あいつ、もう働くことできないかもだって。」

「ばかだよな、この場に及んでまだそんなこといってやがる。」

「お袋さんと、同じ病気らしい」

「上京して働きに働いてたらしく、倒れて運ばれるまで医者に行かなかったらしいんだ」


ー「帰ってくれ」


「東京で金貯めて地元に帰るって言ってた。何するかは聞いてなかったけど、、、」


ー「帰ってくれ」





今まで心を縛り上げてきた糸が今、大きな音を立てて切れるのが分かった。


そして私は誓った。

彼が受けた6年前の苦しみを私は受け入れると。




電話を切り、ディスプレイを見る。

(日曜日)

「今から行けば、、、昼過ぎには着くかな」

過去や未来など、既に興味はなくなっていた。

ただ、彼と共に今を大切に生きると決めた。


病院の前には満開の桜が並んでいた。

そこを温かい風がのんびりと通り抜ける。

桜の花びらは不規則な動きをしてゆっくりと落ちている。

それと同じような時の流れの中を人々が通り過ぎる。

それを背中で見送り、歩き出す。


彼の病室には春の陽気が立込めていた。


「来たか」


さっきまで私のいた場所を眺めながら独り言のように彼は言った。


私は、まず何を言うか決めていた。

「日曜日の昼下りの女も悪くないわね」


「何だよそれ」

今度は彼が口を尖らせていた。


気が向いたらで結構です。何だか読み返していただく事をお勧めします。

作者も読む度に違う感想を持ちます。

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