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第94話 北ノ庄城


     ◇


 磯野員昌の次男である磯野政長の道案内を受けて、貞勝と光秀ら一行は無事に木の芽峠を越えることができた。

 この時季は当然残雪があり、移動には苦労したものの、政長や金ヶ崎城の朝倉景道がつけてくれた護衛の兵らの助けもあって、どうにか越えることができたのである。


「しかし……これは驚きましたな。以前いた時よりも街道が整備されており、雪が無ければ実に進みやすい道のりだったことでしょう」


 光秀の感想に、げにもと貞勝が頷く。


「これらは我が主が命じて早くから整備が行われたのです。物流や兵の移動に至るまで、以前とは比べ物になりません」


 そう答えるのは、道案内をする政長である。


「府中から北ノ庄までは馬もご用意できますので、すぐにも到着することができましょう」


 そんな政長の案内により道中問題も無く北ノ庄へと至った一行は、目の前の広がる光景に度肝を抜かれてしまうことになった。


「何だこれは……?」


 北ノ庄城下。

 城下は未だ整備中ではあったもの、新たに区画整理された結果、建物が整然と並んでおり、何よりその活気が凄まじい。


 特徴的なのは大きな道が何本も走り、建物と建物の間の間隔が広いことだ。

 それに加えてあちこちに水源や水路が確保されている。


「ずいぶんと勿体ない土地の利用をしていますな……」


 光秀の率直な感想に、いや、と貞勝は首を横に振る。


「これは火災対策であろう。万が一にも火災になった際に、延焼を食い止めるための策があちこちに仕掛けてある」

「なるほど……言われてみれば確かに」

「それだけではない。水害対策もしてあるな。堤防は高く、決壊しそうな場所にはそもそも住居をさほど構えさせていない。……それにしても、あれは何だ?」


 貞勝が指さしたのは、やはり光秀も気になっていたものだった。

 この距離からもはっきりと分かる高層建築物。

 いわゆる天守であろうが、その大きさや高さが尋常ではない。


「あれは……安土の天守にも匹敵しますな」


 その堂々たる構えに、光秀も感心する他無かった。

 これが噂に行く北ノ庄城だろう。


 安土城は安土山全体を城郭化した山城であり、その立体的な威容はこの北ノ庄城を凌ぐ。

 しかしこの北ノ庄城は純粋な平城のようで、その人工的な様式美が壮麗さを誇っていた。


 いったい誰が、このようなものを建てさせたのかと思うほどの出来である。


「これの普請には途方も無い銭がかかったことでしょうな……」


 景道の話によれば、越前一向一揆を駆逐してよりすぐ普請に取り掛かり、昨年ようやく完成をみたという。

 これに駆り出された人員は相当なものであったらしいが、朝倉家はこれを賦役としてではなく、給金を支払って人員を募集したため、周辺諸国からぞくぞくと人が集まったという。


 ひとが集まれば物も集まる。

 経済活動が活発化し、国内の税収も増え、投資した資本の回収には十分に目途がついているとか。


 それにそもそも元手となった銭は、越前の寺社勢力などが溜め込んでいたものを全て吐き出させたことにより捻出したという。

 当然反発は出たが、逆らう者はこれ幸いとばかりに全て叩き潰していったらしい。

 そのため国内統治は順調にいき、治安も向上したとのこと。


 話を聞けば強引すぎる手法にも思えたが、しかし越前一向一揆により国内が荒れに荒れた後だったことも手伝って、強引な改革は断行されたのだ。


 問題は、それを行った人物である。

 越前国に入って色々と話を聞いた結果、ほぼ確定している。


 朝倉色葉。

 その物凄い人気振りに、一行は面食らったほどである。

 ともあれその狐憑きの姫の仕業であることは、もはや間違いなかった。


 そして二月十四日。

 一行は北ノ庄城へと入ったのである。


     /色葉


 北ノ庄城。

 わたしが作らせた城ではあるものの、わたし自身が滞在することはあまりない城でもある。

 とことん華やかで壮麗に作らせており、その城下もかなりの賑わいになっていて、あと数年もすれば京にも負けないような一級の都市になるだろう。


 かつて第二の京といわれた一乗谷にも負けないように、その都市の一角には公家どもが居住するための屋敷群やそのための土地も用意してあり、準備は万端である。

 すでに京からちょこちょこと公家がやってきては、住み着いている者らもいるくらいだ。


 そしてわたしもこいつらのことは、大事に囲ってやっている。

 それはもちろん、朝廷との関係を重視して、である。

 わたしに勤皇の精神は欠片も無いが、その有用性はわきまえているつもりなので、無下にはしない、というわけだ。


 とはいえ扱い辛い連中でもあるので、公家との繋がりの深い姉小路頼綱が、もっぱらその対応にあたっていた。

 頼綱には越中国の経営も任せてあるので、行ったり来たりとご苦労なことである。

 まあわたしがさせているんだけど。


 それはともかく、わたしは北ノ庄に在住することは少なく、普段は一乗谷に引きこもっている。

 やはり静かなのがいいからだ。


 そんなお気に入りの一乗谷から這い出して、わざわざ北ノ庄城へと入っているのには事情がある。

 何でも織田家から外交の使者が来たとのことで、明日には一乗谷で評定が行われるという時間の無い中、こちらを優先させることにしたのだった。


 織田家は昨年、朝倉侵攻の準備を行っており、それは荒木村重らの謀反によって阻止できたものの、お次はわたしの番であると、先制攻撃を仕掛けるつもりでいたというのに、その機先を制するかのように、使者である。


 内容如何によっては計画を見直さなければならない。

 だからこそ、評定を後回しにしたのだが……。


「今から姫様の身支度を整えます。あなた方も手伝いをなさい」


 城の本丸御殿には、わたし専用の居室がある。

 あまり使うことは無いが、埃一つなく、毎日手入れがされているのだろう。

 外交の使者に会う以上、それなりの体裁も必要ということで、城についたわたしは早速着替えさせられることになった。


 その指示をしているのが、一緒にくっついてきた華渓だ。

 あれでもない、これでもないと着せ替えをされまくった結果、一乗谷から北ノ庄まで駆けてきた時間よりもかかったような気がする。


 わたしとしては何でも良かったのだけど、どうも雪葉に色々言い含められてついて来たようで、妙に気合が入っているんだよな……華渓のやつ。まあいいけど。


 そんなこんなでわたしが織田の使者と会見したのは、夜になってからのことだった。

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