第99話
ヘッドボードに畳まれて置かれている羽衣を手に、さくらを抱き上げる。
抱き上げると、さくらの体重が軽くなったことを実感する。
それは『弱っている』という事実を、改めて突きつけてくる。
その事実をさくらを抱き起こした時に気付いたヒナリは、その夜にベッドの中でさくらを抱きしめて泣きじゃくっていた。
リビングに入ってヒナリがさくらの腰に羽衣を結ぼうとしたと同時に、さくらが動き出した。
「うぉっ!ちょっ!ちょっと待て。さくら!」
すぐ畳の上にさくらを座らせて身体を支える。
両手を動かして何かを手探りで探しているようだ。
「ハンドくん?」
ヒナリが声をかけると、ホワイトボードに『現状』を教えてくれる。
『さくらの意識』が、『ジグソーパズル』というゲームを遊ぼうとして準備しているそうだ。
ハンドくん曰く『今日はリンクが強い』らしい。
「ねぇ。その『ゲーム』って『此処』でも出来るの?」
ヒナリの言葉に驚いたが、ハンドくんの話だと『リンクが強いから出来る』との事だった。
すぐにハンドくんが座卓上に用意をしてくれる。
けっこう大きい。
『1,000ピースですから』との事だが、イマイチ意味がよく分からない。
さくらを座椅子に座らせて身体を支える。
何をしているのか分からないが、『触らないように』と釘を刺されたから、オレもヒナリも手を出さないで見守る。
いま、さくらの意識は『本体の目』を通して『見ている』らしい。
残念ながら『声』は届いていないそうだ。
「おはよう。・・・さくらは何をしておるんじゃ?」
ドリトス様が部屋に『帰って』きた。
朝イチでセルヴァンと共に、ジタンに呼ばれて『仕事』に出ていたのだ。
「おはようございます。ドリトス様。『ジグソーパズル』というゲームだそうですよ」
「ああ。さくらから聞いたことがあったのう。『好きな遊び』らしいが」
「ハンドくんの話ですと『さくらの意識』が遊び出したそうです」
「今日は『リンク』が強いようじゃな」
「はい。そのため何か少しでも食べさせられたらと思っています」
さくらの準備が終わったようで、さくらの手にあわせてハンドくんたちが台紙の下に枠をはめて固定させていく。
「ああ。此処にいたのか」
「セルヴァン様。おはようございます」
「何かあったんか?」
さくらの身体を支えているヨルクが、顔をセルヴァンに向ける。
セルヴァンの『安心した声』に違和感を持ったのだ。
「連中が『屋上庭園』に入って行くのを見た」
セルヴァンの言う連中とは『聖なる乙女』たちだ。
まだ『さくらと偶然会う』つもりでいるらしい。
・・・懲りない奴らだ。