第96話
『さくら』は、女神の不注意から『元の世界』に居られなくなり、この世界に『住居ごと』送られたそうだ。
そして『この世界で生きていけるように』という理由から、彼女の身体の細胞を『この世界に適応化』させた。
・・・細胞が『安定』するまでの数日間、さくらは高熱を出し続けていたらしい。
そして熱が下がった後は無人島を使って、この世界特有の『瘴気の混じった空気』に身体を慣れさせていった。
その時に使った無人島の『意思』が、さくらを『所有者』として認めたらしい。
そしてその無人島の一つに『別荘』が作られたそうだ。
以前さくらの言っていた『島持ち』『別荘持ち』は、このことを言っているのだろう。
「さくらは『精神的』には強い。・・・しかしそれを持続させ続けるのは難しい」
そして『ココロ』は、幼子より弱く脆い。
だからこそ、周囲の『気配』に敏感だ。
・・・特に『悪意』や『怒気』など負の気配に。
今回、さくら本人はそれを『見えない恐怖』という形で受け取ってしまった。
『以前の状態』なら問題はなかった。
しかし、アグラマニュイ国から受けた『呪い』のせいで弱っていた『精神』に、3人の『怒気』は『強すぎた』。
恐怖で混乱したさくらは精神に負荷が掛かってしまい、壊れる寸前までいっていた。
そんなさくらのココロを守るために『此処から引き離した』そうだ。
男神は『ヒナリが『呪い』のことを知らない』事に気付いているようで、呪いの部分を「悪意にあてられて続いていた高熱で弱っていた」と伏せてくれた。
「いま・・・さくらは眠り続けることで、ココロと身体を癒している」
いつ目を覚ますかは分からない。
今日明日目覚めるかもしれない。
何日も。何ヶ月も。何年も。
このまま一生涯。
ずっと目を覚まさない可能性だってある。
目を覚ましたとしても、筋力は落ちているから身体を動かすことも出来ない。
当分の間は『寝たきり』のままだ。
ひとりでは何も出来ない。
筋力だけを手っ取り早く回復させるには、『今いる場所』で休ませる方がいいのだが。
「『さくらのココロ』を癒すには、キミたちのそばが一番だと思っている。ただ、さっきも言った通り、目を覚ましても『寝たきり』状態が続く。もちろんキミたちにかかる負担もそれだけ大きくなる」
「それでも・・・それでもいいんです。さくらのそばに居られるなら。顔が見られるだけで・・・それだけで私は『シアワセ』なんです」
ヒナリは真っ直ぐに男神を見つめ、必死に自分の素直な思いを訴える。
一方、ヨルクは膝の上に固く握りしめた両手を置いて、男神を睨みつけたまま黙っている。
しかし、さくらを心から大切に思っているのは、『呪いを見破り解除した』ことで実証済みだ。
「ワシはさくらが『さくららしく』居られるのなら、何処で何をしていようと構わぬ。ただ、ワシらのことを『帰る場所』だと思ってくれればなお良い」
「俺は・・・さくらが『手の届く範囲』に居るなら、さくらを守るために何でもする。たとえ『賞罰欄』に『殺人』の二文字が付けられても、さくらのためなら構わない」
彼らの言葉に男神は目を細める。
「・・・さくらは本当に幸せだな。異世界に一人送られてもキミたちに出会い、これほど愛されているのだから」
「神よ。さくらを愛しておられるのは、貴方方も同じではないですか?」
ドリトスの指摘に苦笑する男神。
図星なだけに否定も出来ない。




