第95話
さくらがいなくなって、もう何日経っただろうか・・・
ヒナリよりヨルクの方が焦燥感が激しい。
問い詰めたらやっと重い口を開いた。
「神が・・・さくらを『呪い』から守るために、記憶を封じて『閉鎖した世界』に閉じ込める計画をたててた」
きっと『いまさくらがいる場所』は『そこ』なんだと思う。
ヨルクの『告白』に俺たちは言葉が詰まった。
ヒナリは『呪い』のことを知らない。
だから『ヒナリのいる前』では何も言えなかったようだ。
それに、ヒナリが目の前にいる時は『ヒナリを支える』ために無理をしていたのだろう。
そのヒナリがいない今、ヨルクは『口に出せなかった思い』が堰を切ったように溢れ出す。
「絶対離さないって。相手が神だろうとさくらは渡さないって・・・さくらを絶対守るって・・・そう誓ったのに・・・」
ヨルクは繰り返し自責の念を口にする。
さくらやヒナリの前では決して見せない『痛々しい姿』。
それだけでも分かる。
ヨルクがどれほど弱っているのか・・・
ドリトスもセルヴァンも、ヨルクにかける言葉が見つからなかった。
そんな時だった。
さくらの寝室で、さくらを思いながら一日を過ごしているヒナリが悲鳴をあげた。
直後に寝室からポイッと文字通り放り出されたヒナリ。
「な・・・な・・・な・・・」
言葉になっていない。
ヨルクが駆け寄るが、床にペタンと座り込んでいるヒナリは全身をワナワナと震わせている。
「なんで放り出されなきゃいけないのよー!」
「ヒナリ落ち着けって。何があったんだよ」
「ハンドくんたちよ!ハンドくんたちが突然私を部屋から追い出したのよ!」
「なんじゃと!」
「ヒナリ!本当にハンドくんたちが『帰って来た』のか!」
「そうよ!・・・・・・え?」
ようやくヒナリにも『状況』が飲み込めたようだ。
寝室の扉に飛びついて開けようとノブを回すが開かない。
「ちょっ・・・ハンドくん!お願い!開けて!さくら!さくら!」
ヒナリが扉を泣きながら叩き続ける。
トントントンと聞き馴染んだ音に、全員・・・扉を叩き続けていたヒナリまでが動きを止めて座卓を見た。
そこには、ハンドくんたちとの『会話』で使っているホワイトボードがたてかけられていた。
『神様が直接お話したいそうです』
「望むところだ!」
「もちろん『さくらのこと』よね!」
ヨルクとヒナリは、ハンドくんの言葉に興奮気味だ。
「2人とも落ち着きなさい」
「大人しく出来ないなら部屋から追い出すぞ」
セルヴァンの言葉で、素早く畳の上に正座する2人を見てドリトスと苦笑する。
「こんな状態でも良ければお願い出来るかね?」
ドリトスの言葉と共に、部屋に結界が張られた。
そして『金色に輝く男神』が現れた。
その事に全員が目を丸くした。
・・・以前、『飛空船』事件で現れた神々は『金色に輝く人形』にしか見えなかったからだ。
金色の光が収束して、男神こと創造神はその場にいる4人を見遣る。
「キミたちには『さくら』のことを話そう。その上でどう判断するかはキミたちの自由だ」
ヨルクやヒナリは黙ってこの男神を見つめる。
2人はさくらのため『だけ』に大人しくしていた。
ここで男神の機嫌を損ねたら、二度とさくらに会えない気がしたからだ。




