第91話
「ジタンがな。アイツらが此処に来た事を知って、慌てて飛んできたんだ。・・・ジタンもアイツらがさくらと会うのを危険視してる。アイツらは『聖なる乙女の館』の掃除が終わり次第、そっちに移ることになった」
「王城には『さくら信者』が多い。彼らが『聖なる乙女』に危害を加えないための対策らしい。現時点でも『聖なる乙女』の世話を拒否する者たちが殆どで、必要最低限の世話しかしていないようだ」
「ジタンの話では、居を移る前に『この世界のこと』『この国のこと』に加え、『さくらのこと』も教えるそうじゃ」
「それでも・・・話を聞いただけで、さくらのことを『知ったつもり』になっても、さくらが望まない限り絶対会わせない!」
たとえ、さくらが望んだとしても、『理由』をつけて私が絶対に会わせたりしない!
ヒナリの『宣言』に男たちは同意の意思を示して頷いた。
「・・・でもなぜ?どうして『さくら』の事を知ったの?」
「ヒナリ。俺たちがいない間に、さくらは『意識をなくした』らしいな」
「ええ。突然・・・でもすぐに目を覚ましました」
「その時『さくらの意識』は1階の廊下を彷徨っていた。・・・俺たちを探して泣きながらな」
「さくらの声が聞こえた時に、ジタンが思わずさくらの名を口走ったらしい。アイツらが『さくら』を知ったのはその時だろ」
「あの時、廊下に出たワシらのあとを追いかけて部屋から出ようとしたらしい。ハンドくんたちに扉を押さえつけられて出られなかったようじゃが・・・会えなかったからこそ『さくら』に執着しているのじゃろう」
「さくらは、俺たちが『聖なる乙女のため』に集まっていると思っていた。だから『聖なる乙女』が召喚されて俺たちが『いなくなる』と思ったようだ」
セルヴァンとドリトスは『エルハイゼン国駐在の外交官』だ。
そのため、ジタンと共に『聖なる乙女』に会ったのは『仕事』としてだ。
そして『さくらと共にいる』のは仕事ではなく『自らの意思』なのだ。
ヨルクが呆れたように口を挟む。
「さくらもバカだよな〜。オレたち以上にさくらと一緒にいて『さくらバカ』になってるセルヴァンたちが、さくらより『乙女』をとるわけないのにさー」
「誰が『さくらバカ』だ」
セルヴァンにポカリと頭にゲンコツを落とされて「イッテー!」と頭を押さえる。
「『誰が』って『オレたち全員』が『さくらバカ』だろーが!」
ヨルクの言葉に思わず全員が納得する。
『全員』の中に、神々やハンドくんたちも含まれているだろう。
「さくら・・・落ち着いたら帰ってきて」
さくらの座椅子に触れて語りかけるように呟く。
誰もヒナリにかける言葉を持ち合わせていなかった。




