第88話
「さくら!しっかりして!」
頬に触れるヒナリの手が優しい。
でもダメ。
・・・怖い怖い怖い怖い。
なんか分からないけど、怖い。
みんなの『トゲトゲ』した気持ちが・・・・・・痛くて怖い。
涙が止まらない。
怖くて目を開けられない。
・・・助けて。
涙が止まらない・・・止められない・・・
『さくら!早く部屋へ!』
ムリだよ・・・身体が震えて動けないもん。
・・・ハンドくん。
ハンドくんたちはドコ?
『『ドア』を開けなさい。『風』が部屋に運ぶから』
創造神に言われて『メニュー』と思う。
目を閉じているのに、脳内イメージとして普通にメニュー画面が目の前に開く。
そこから久しぶりに『ドア』を選んだ。
マンションの防火扉が現れたんだと思う。
『風の女神』の気配を纏った風が吹いてきた。
『私の『名前』を呼んで』
エアリィ。・・・『エアリエル』。お願い。助けて。怖い。なんか分からないけど怖いよぉ。
『もう大丈夫よ。よく頑張ったわね』
心の中で風の女神の『真名』を呼んで助けを求める。
『真名』は相手を『使役』する。
それが分かっているのに、私はエアリィに救いを求めて『真名』を呼んでしまった。
目を閉じているけど、身体の周りに風が集まっているのが分かる。
まるで優しく抱きしめられた気がしてから、フワリと身体が浮かび上がった感覚がした。
セルヴァンたちが『お姫様抱っこ』してくれる時に似てる。
風の中は静かだ。
みんながどうしてるのかも分からない。
もう。目を開ける気力も出ない・・・
アレ?
『みんな』って誰だっけ・・・
もう何も考えられない。
考えが纏まらない。
『大丈夫よ。風が『さくらの怖いもの』から守っているだけよ』
・・・『怖いもの』?
何だっけ。
・・・・・・・・・思い出せない。
さくらは花の香りを纏った優しい風に包まれて癒やされたのか。
風がすべての音や気配を遮っている静かな空間に安心したのか。
青褪めた顔に恐怖の表情を貼り付けていたが、それでも今は安らいだ表情の欠片も浮かんでいた。
緊張が解れたのか。
全身を掻き抱いていた腕のチカラが抜けて、涙腺が壊れて流れ続けていた涙も止まったさくらは、眠ったまま『ドアの向こう』へと運ばれて行った。