第87話
さくらを抱き上げると、「ヒナリまだ寝てるよー」とベッドを指差す。
「お寝坊さんにはコショコショコショ」
「コチョコチョコチョ」
「きゃあ!」
寝ているヒナリをヨルクとさくらが一緒にくすぐると、ヒナリが飛び起きた。
「あ!ヒナリ起きた」
「行くぞ。さくら」
ヨルクが慌ててさくらを抱き抱えて寝室から飛び出す。
リビングを出たところにセルヴァンがいて、そのままさくらを抱き上げる。
それと同時にヒナリがヨルクに追いついて後ろから捕まえた。
「何で『余計な事』をさくらに教えるのよ!」
「何で『オレが教えた』って言えるんだよ!」
「さくら1人で『顔と足の裏』の両方をくすぐれないでしょ!」
ヒナリの怒りに怯えたさくらが、セルヴァンにしがみついて身体を小さくしていた。
セルヴァンは、寝室側にいるヒナリたちに背を向ける形で座卓近くの畳に座る。
ドリトスもセルヴァンの向かい側へ移動して、小さくなっているさくらの頭を撫でる。
「ヒナリに一体何をしたんだね?」
「ヨルクが『お寝坊さん』にコショコショコショ・・・」
「さくらも?」
「コチョコチョコチョ・・・」
「おやおや」
ドリトスは面白そうに笑う。
ふとドリトス、セルヴァン、ヨルクの順に見ていったさくらは「何かあったの?」と不思議そうな表情でドリトスの顔を見る。
「どうしたの?」とセルヴァンを見上げる。
「何かおかしいかね?」
ドリトスから逆に質問されて首を傾げる。
「・・・よく分かんない。けど、みんなどうしたの?気持ちが『トゲトゲ』してて怖い、よ?」
言いながらポロポロと涙が止まらなくなるさくら。
セルヴァンは「大丈夫だ」と繰り返しながら、さくらを抱きしめて宥める。
ドリトスは急いでヒナリたちの元へ向かい、諍いを止める。
2人はセルヴァンがどんなに宥めても、さくらの涙が止まらない様子を見て慌ててさくらに駆け寄る。
「さくら!」
「どうしたの?」
プルプルと首を左右に振るものの、涙が止まることはない。
そのうちに、ガクガクと身体が震えだした。
脂汗も出て止まらない。
自分の身体を強く抱きしめる。
それでも震えが止まらなかった。




