第84話
廊下に通じる扉を開けると、そこに居たのは予想通りに『聖なる乙女』たちだった。
結界が張られているため、中へは物音ひとつ届いていなかったが、ハンドくんたちが怒るくらいだ。
しつこく扉を叩き続けたのだろう。
彼女たちは一応『聖なる乙女』という立場のため、ハンドくんたちは手を出すのを躊躇ったのだろう。
「あ・・・さっきの」
短い髪の背が高い方の女が、セルヴァンを見上げて慌てる。
彼女よりは頭半分低い、肩までの髪の女が「此処は『さくらさんの部屋』だと聞いたんですが」と中を覗こうとする。
「言わなかったかな?『さくら殿は寝込んでいて会わせられない』と」
珍しくドリトス様が怒っている。
さくらを守るため。
この扉から中へは一歩も入れない。
そんな強い意思を背中からも感じた。
ドリトス様の威圧は『ウワサ通り』、セルヴァンより『上』だった。
「あ、あの・・・だから『見舞い』に」
「それは断ったはずじゃが」
「ですが!」
「私たちは『同じ世界』から来たんですよ!」
「そうです!さくらさんだって『同じ世界から来た』って知ったら『私たちに会いたい』って思うはずです!」
・・・ヤバイな。セルヴァンがブチ切れそうだ。
ブチ切れた獣人族は加減を知らない。
この程度の女どもなら一発で絶命だ。
流石に『聖なる乙女』を手にかけたらアウトだろう。
「アンタら、一体ナニ?」
オレが前に出ると女たちは口を噤んだ。
セルヴァンに小声で「ここでコイツら相手にキレたら『さくらが泣く』」と伝えたら、少しは冷静を取り戻したようだ。
さすが『さくらバカ五人衆』の1人だ。
「私たちは・・・」
「名前とか肩書きとかどーでもいい。寝ているさくらに一体何しに来た?」
「あの、『見舞い』に・・・」
「アンタらの世界では、寝込んでいる相手の部屋に押しかけて叩き起し、自分たちの相手をさせるのが『見舞い』というのか?」
歳の近いヨルクの言葉が効いたのか、さすがに2人の女は無言で俯いた。
「なあ。アンタらって『ナニサマ』?寝ている病人を『殺しにきた』のか?」
「50日も高熱を出し続けて、平熱になったのはごく最近の事だ。今でも1日の大半を寝て過ごしている。その事は下で話したはずだが?そんな『さくら殿』に会って何をする気だ?」
セルヴァンは怒りの冷気を漂わせている。
2人が青褪めて身体を大きく震わせたが、それは恐怖よりセルヴァンの怒りの冷気に『あてられた』からだろう。
・・・最低でも5日間は『寒気』がするだろうな。
別に『自業自得』で、間違っても『可哀想』とは思わないが。
「セルヴァン・・・だからソレ、さくらにはヤバいって」
・・・仕方がない。
リビングに顔だけ出して、ハンドくんに寝室に結界を張ってくれるように頼むと合図を出してくれた。
寝室側の壁が白く輝いて、すぐに光は消えた。
「ハンドくんが寝室に結界を張ってくれた」
セルヴァンに言うと「ああ。よくやった」と肩に手を置かれた。
同時にドリトス様も怒りを隠そうとしなくなった。




