第80話
「ねえ。さくら。眠いんでしょ?」
「ほら。少し寝てろよ」
「やーあーよー!」
プクッと頬を膨らませて、プイッとソッポを向くさくら。
座卓を背に座椅子を回して畳に足を伸ばして座っている。
座椅子の背を半分の高さまで倒してあるのは、この角度だとさくらが寝やすいから。
今は、いつもなら食後で眠っている時間だ。
駄々を捏ねて寝ない時は、こうやって倒していると気付いたら眠っていることが多いようだ。
眠い目を擦りつつ、それでも必死に起きているのはセルヴァンたちが帰ってくるのを待っているからだろう。
現にさくらの目は応接室に通じる扉を気にしている。
「ねぇ、さくら。そういえばセルヴァン様とドリトス様を、時々違う呼び方で呼んでいるわね」
「・・・だぁめ?」
「大丈夫だろ」
あの2人なら、さくらがどう呼ぼうと喜ぶに決まっている。
『おじいちゃん』と呼ばれても喜んで返事をするだろう。
ヨルクの言葉にさくらは笑顔になる。
ちょうどその時、部屋の扉が開いてドリトスとセルヴァンが入ってきた。
「・・・・・・ドリぃ。セルぅ」
一瞬言葉に詰まったあと、涙目で2人に両手を伸ばすさくら。
セルヴァンはさくらに駆け寄り、力強く抱きしめる。
「さくら。大丈夫だ。もう大丈夫だ」
「もう大丈夫じゃよ。さくら。ワシらは居なくなったりせぬ」
「心配させて悪かったな」
セルヴァンに強く抱きしめられて、さくらも必死に抱きついて、ドリトスから頭を撫でられて。
やっと安心したさくらは、セルヴァンにしがみついたまま眠りについた。
初めて会った時よりはるかに弱々しい腕が、さくらの『今の脆さ』を物語っていた。
さくらを寝かそうにも、しがみついているさくらは離れない。
セルヴァンも無理矢理引き剥がす気はなく、そのまま膝だっこの状態で昼食を取ることにした。
セルヴァンとドリトスの昼食にはサンドウィッチが出された。
うどんの汁がさくらに掛かったら火傷をしてしまうからだった。




