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第8話



シャララーという涼やかな音が止むと、私は閉じていた目を開けた。

そこは今までいたマンションではなく、異国の宮殿のようだった。


「ここが『エルハイゼン』か~」


私は周りを見回す。

三方が石壁に覆われた無機質な10畳ほどの部屋。

特にみる物はない。

部屋の扉を開けたら誰もいない。


「アリスティアラ。王様どっち?」


私の問いにアリスティアラはチャットで、『右に進んで丁字路を左に。突き当たりの部屋に、他国の代表たちといますよ。扉の前に兵士がいます』と返事をしてくれた。


「分かった。見下してきたら遠慮なくぶっ潰す」


『ほどほどにして下さいね』と返されたのは、私の『言葉の意味』を理解したからだろう。


それにしても廊下に誰もいないよ。

不用心だよなー。

そう呟きながら、大理石みたいな床をスニーカーで歩く。

今の私は、ポロシャツとジーンズというラフな姿。

もちろん、着替えなどの荷物はアイテムボックスの中。

ドアをくぐって自室に戻ってもいいし。


手ぶらなのは、「武器を隠し持ってる」と誤解されないためだ。

メニュー画面からアイテムボックスを開いて取り出すことも可能なんだけど、人は『見た目重視』だからね。

元の世界の異国では、身分証を内ポケットから取り出そうとしたら『拳銃を出そうとした』と誤解されて射殺された人もいたくらいだ。

そして「誤解させる方が悪い」だもんね 。。。


勝手に誤解しといて殺されるなんてイヤじゃん。


そんなこと考えながら丁字路で左折する。

廊下の奥の部屋の大きな両開き扉に、牛頭馬頭(ごずめず)よろしくこちらにキツい視線を送って立っている兵士2人。


こういう威圧的なヤツが嫌いなんだよなー。


だいたいこの国は『聖なる乙女』を招く国だろ。

『異世界の服』を着てる私を『不審者』に位置付けて睨みつける前に、『召喚された』とか考えが及ばないのか?


『ごめんなさい』


いや。アリスティアラに怒ってるんじゃないからね。


そんなやりとりをしていたら、若い方が剣を抜きこちらに切っ先を向けて、「止まれ!曲者!ここを何処(どこ)だと思ってる!」と怒鳴りつけやがった。


『何処』もクソも『エルハイゼン』だろーが!


そう怒鳴ってやろうと思ったが、それ以上にムカついているのが『非武装の相手に武器()を突きつけて威嚇』してきたこと。

こういう相手は『武器こそすべて』なんだろうな。

ということで、鼻っ柱を蛇腹(じゃばら)にへし折って再起不能にしてやろう。



「剣を抜いたという事は、殺されても文句はないんだよな。『ハンドくん』!」


私の声に反応した白手袋の『右手のハンドくん』が、剣を持った兵士の手首を掴んで後ろへ捻り剣を落としたあと、同じ白手袋の『左手のハンドくん』が兵士の頭を床に叩きつける。

鼻の軟骨と歯が折れた音が、静かな廊下に大きく響いた。

回復魔法があるんだから、痛い目にあわせても問題ないだろう。


隣の兵士は目の前で起きたことが理解出来ないらしく、茫然自失で固まっていた。

それもそうだろう。

突然現れた一対の白い手袋が、若い兵士を一瞬で床に叩きつけたのだから。


ハンドくんたちはお互いでハイタッチしたあと、私の元へ戻って私ともハイタッチしてから、バイバイして『魔法世界』へ戻っていった。





アリスティアラの話だと、ハンドくんは私が(つく)った『召喚生物』のようなものらしい。

映画からイメージしたため、『魔法で創られた』のではなく『魔法で生まれた』存在らしい。

「じゃあ。ネコとかイメージして魔法を使ったら『召喚生物』になる?」と聞いたら首肯された。


召喚生物を含む召喚獣たちは『魔法世界』に住んでおり、ハンドくんもそこにいて、仲間を増やしつつあるらしい。

『右手のハンドくん』が『左手のハンドくん』と一緒に現れて、『筆記』で説明されたときは本当に驚いた。

ハンドくんが書いたのは『日本語』だったから。

私が創ったため、私の母国語でやりとり出来るそうだ。

日本語でのやりとりが出来ることが嬉しかった。



え?驚く所が違うって?

だって魔法の存在しない世界に生まれ育った私にしてみれば、ここは『摩訶不思議』が(まか)り通る世界だよ?

何が起きても、「そういう世界なんだな」って納得しちゃったんだ。


それに、『私の部屋』でアリスティアラと話してるときに現れたんだよ。

「アリステイドの存在って、このマンションに入れないんじゃなかったっけ?」って言ったら、アリスティアラも驚いていたけど。

メニューからハンドくんたちを確認したら『召喚生物』となってたのを知って、「創造主の貴女がいる場所ならどこでも現れる事が出来る」と教えてくれた。


「私が死んだらハンドくんたちはどうなるの?」と聞いたら、他の召喚獣や召喚生物たち同様『魔法世界』で生きていき死んでいくらしい。

そして創造主は生まれた召喚獣や召喚生物が悪用されないために、『召喚条件』を設けることが出来るそうだ。

ハンドくんたちには、「悪い人のいうこと聞いちゃダメだよ」と伝えたら「はーい!」って感じでピョーンと手のひらを見せた。

その姿が可愛くて、私もアリスティアラも笑ってしまった。


右手ハンドくんからは、『勝手に仲間を増やしたこと』を謝罪された。

創造主の私に許しもなく仲間を増やすのは、『全種族が消滅させられても文句は言えない』そうだ。


「ゴメンね。召喚だと気付かなくて。一人ぼっちは淋しいよね。これからも仲間や家族を増やして良いよ。だから私が()んだら、助けに来てね。喚んでなくても来て良いからね」


私の言葉にハンドくんたちはハイタッチし合ってから、私の両手をペチペチと叩いて喜んでくれた。


いい子たちで、マンションの部屋へ現れては私の世話を焼いてくれる。

でも生活のジャマはしなかった。

私がごはんを作ってたらそれを覚えたらしく、今では料理を作ってくれたり、部屋や風呂の掃除をしてくれるようになった。


一応ハンドくんたちはルールを作っているらしく、日常生活の手伝いに来るのは左右一対のみ。

最初のハンドくんは『一族の長』となり、左手のハンドくんが補佐役で二人(?)は白手袋をしてる。

これは、『私が分かるように』というハンドくんたちの配慮。


そして私から生まれたためか、『してほしいこと』は口にしなくても分かってくれる。

一応『痛めつけても良いけど殺しちゃダメ』と約束している。




さて。ハンドくんたちが大理石みたいな床に、顔面を叩きつけた兵士はピクリとも動かない。

もう一人の兵士は、私が歩を進め始めたら「ひぎゃあ!」とおかしな声を上げてブルブル震えだしたが逃げ去ることはなかった。

本人はこの場から逃げ出したかっただろう。

しかし足が(すく)んで動かないから、逃げられなかっただけかもしれない。

別に気絶しても良かったのに、それは『兵士』という立場から出来なかったのだろう。




「何を騒いでおる」


重厚な扉が開き、中から150センチ位のおじさんが出てきた。

見た目からドワーフだろう。


『ドワーフ族の長の一人です。『鑑定』がオート設定になってませんよ』


アリスティアラからチャットが届いた。

マンションには、アリスティアラとハンドくんしか来る相手がいないのに鑑定をオートにしてたから、現れる度に何度も表示されて鬱陶しかったんだ。

そのため、マンションにいる時はオフにしてたんだった。

こちらへくる前に、鑑定をオートにするのをすっかり忘れていたよ。

アリスティアラにお礼を言って、オート設定にしたら表示が出た。


種族:ドワーフ族

職種:ドワーフ族 部族長

名前:ドリトス

年齢:184

レベル:21


スキルとかも表示されていたが、石工や木工、鍛治など『ドワーフ』らしいものが多かった。

手先を使う『彫金』や『アクセサリー細工』もスキルに入っている。

そして商人スキルと言われた『算術』も持っている。



「オイオイ。アンタが『女神に愛されし娘っこ』か」


ニコニコした好々(こうこうや)が近付いて来ようとしたが、私の前に突然現れたハンドくんたちが『ストップ』という感じでドリトスの動きを止めた。

右手のハンドくんが床に倒れた兵士を指さすと、そのまま自分の左側に目をやり大きく嘆息した。


ドリトスの後ろから「女神に愛された娘だと!」など聞こえてドタバタと物音がしたが、ドリトスは「ちょっと待っててくれるかね?」と私に笑顔を向け、頷いた私に「すぐに終わらせるからのう」と言って扉を閉めた。


『盗み聞き』と思ったら、部屋の中の声がバッチリ聞こえるようになった。

まあ「私に会わせろ」的なことを口々に言ってるオッサン連中と、「じゃかあしい!落ち着かんかい!」と怒鳴る声。

怒鳴ったのはドリトスだろう。


ドリトスは兵士たちの様子をひと目見ただけで、『何があったか』を正しく判断していた。

さすが『ドワーフ族の長の一人』の肩書きは伊達ではない。


「知らぬとはいえ『無礼』を働いたのは間違いない。少なくとも『女神に愛されし娘』が3日後に来られると『御告げ』があったじゃろう!それなのに召喚部屋に誰も配置せず、この部屋の前でも礼を欠いた態度を取っておったようじゃ。それなのに『会わせろ』とは何事じゃ」


おお!静かになった。

なんか小声でモゴモゴと言ってるな。ドリトスには聞こえてないのかな?

ちょっと『覗き』たいな、とワクワクしてたら魔法を発動してたようで、部屋の壁が透明になった。

大きな長円型のテーブルに、色んな人たちが椅子に大人しく座ってる。

アレ?こちらを背に立っている大きな人がいる。

立ち方から壁に(もた)れ掛かっているっぽい。

犬に似た耳や尻尾が見えるから、この人が『獣人族』なんだな。


種族:獣人族(犬種(いぬしゅ)

職種:獣人族 族長

名前:セルヴァン

年齢:151

レベル:31


『(犬種)』とある事は、他にも色んな種類がいるんだな。なんか楽しみだ。


テーブルを囲んで座っている連中も鑑定で表示されているけど、なんか『つまらん連中』だ。

つまり『お偉方』なのに性格は『お子ちゃま』。


さっきの『会わせろ』も『珍しいモノみたさ』の子供。

ちょうど『学校に転入生が来た?ひと目みたい!』って職員室に集まるガキ同様。

そんなのが『各々の種族のトップ』?


「滅びに向かってるんか?」と呟いたら、アリスティアラから『申し訳御座いません』ってチャットがきた。

オイオイ。女神様に謝らせるなよ。


ハンドくんたちは、変わらず私を守ってそばにいてくれる。

床に座っている私の両脇に控えるような位置で上下に『屈伸運動』して、腰を抜かしている兵士に無言で圧をかけている。

ちなみに、私はそれを見ながら両手を合わせている。

うん。魔石精製中。

メニュー画面で確認したら1万超えていた。

これ全部渡したらエルハイゼン国が滅ぶよね。


『半分でも十分、間違いなく、確実に滅びますね』


滅ぼしちゃダメだよね。


『国民が『難民化』します』


国民に恨まれるのはお断りだわ。

じゃあ他国に『売りつける』のは?


『元々『乙女の魔石』はエルハイゼンが一手に担っています。他国に売れば『値崩れ』で暴落しますね』


・・・とりあえず常時100個だけ残して、残りはレベルアップにつぎ込むか。



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