第79話
「さくら!」
目を開けたら、心配そうに覗き込むヒナリとヨルクの顔が目の前にあった。
「大丈夫か?」
「突然意識を無くしたのよ」
「具合はどうだ?熱はないか?」
額に手をあてたり頬を撫でたりして心配する2人に、「『先にご飯を食べてなさい』って言ってたー」と言うさくら。
「え?誰が?」
「セルヴァン」
「・・・そっか。じゃあ先にご飯を食べような」
抱き抱えているさくらの頭を撫でながら、向かい側のヒナリに目で合図する。
ヒナリはさくらの言葉に困惑していたが、こういう時はセルヴァンに直接聞いた方が早いと分かっているヨルクに促されて、話を聞くのは止めた。
さくらを座椅子に座らせて横に座ったヨルクだったが、「ヨルクはあっち」とヒナリに引き摺り出された。
「反対側に座ればイイだろ」とヨルクは言ったが、「朝だってさくらの隣に座ってたじゃない!」とさくらを抱きしめて「今度は私!」と譲らない。
「あー。ハイハイ。分かった。分かった」
ヨルクはさくらの頭を撫でてから、向かい側の席に移る。
「今日のお昼はなんだろな〜♪」
身体を左右に揺らしながら楽しそうに歌うさくら。
目の前に出されたのは、太い麺の入った丼だった。
「わーい!今日のお昼はひっさしぶりのおっうど〜ん♪」
パチパチ〜と手を叩いて喜ぶさくら。
フーフーと息を吹きかけて食べるさくらをマネて食べ始めるヒナリとヨルク。
ちゅるんと麺を口に吸い込む度に笑顔になるさくら。
「美味しい?」
「うん!」
ヒナリが聞くと笑顔で返すさくら。
さくらの笑顔に、「もう!さくらったらカワイイんだから!」とメロメロになったヒナリがさくらを抱きしめる。
「ヒナリ。火傷するから食べてからにしろよ」
「なによ。イイじゃない。ねぇ。さくら」
「・・・ヒナリ。おうどんが熱いから火傷しちゃうよ?」
「あら。じゃあ先にご飯を食べちゃいましょ」
自分が言うと反発するのに、さくらの言葉には素直に聞くヒナリに一気に脱力感を味わったヨルク。
さくらの『箸さばき』を見ていると、決してチカラが戻った訳では無いが上手に使っている。
1回食べると箸を置いているのは、手が疲れるからだろう。
特に無理なく1人で食べきったさくらは、手を合わせて「ごちそうさまでした」と満足げ。
ハンドくんに『おしぼり』で手や口の周りを拭かれていたのは『ご愛嬌』だ。




