第78話
セルヴァンが立ち上がると、「あの・・・」と部屋の前に立っている兵士が恐る恐る声をかけてきた。
「今のお方が『さくら様』でしょうか?」
「・・・そうだ」
実体ではないが『さくら』であることは間違いない。
しかし、兵士は「『神々しく』輝いていらっしゃって、お姿が拝見出来ませんでした!」と興奮している。
その言葉に、ドリトスと2人で顔を見合わせて苦笑する。
それは『神々』の姿を見た自分たちと同じ感想だったからだ。
その横の扉がドンドンと叩かれているが、興奮気味の兵士の耳には聞こえていないらしい。
どちらにしろ、扉はハンドくんたちが押さえて開かないようにしていたが。
ハンドくんたちに礼を言って、さくらのことを頼んでから扉を開ける。
同時に女性2人が倒れ込んできた。
1時間前に召喚されたばかりの『聖なる乙女』たちだ。
2人はさくらよりは年上で、共に24歳らしい。
「あ、あの・・・『さくらさん』は」
廊下に座り込みキョロキョロ見回してから、セルヴァンとドリトスに目を向ける。
「さくら殿なら部屋に戻った」
セルヴァンが答えると「えー」「会いたかったのにー」と残念そうな声を出す。
「話なら此処ではなく中でしようかね」
ドリトスに促されて慌てて立ち上がる2人。
その姿を見てさくらを思い出して心配するセルヴァン。
この2人とは今は会わせられない。
さくらがこの2人に振り回されるだろう。
彼の背を軽く叩き「早く『仕事』を片付けてさくらの下へ帰るぞ」とドリトスが先に部屋へ入る。
そう。早く帰ろう。
寂しくて身体から抜け出して、泣きながら探すくらい自分たちを『必要』としてくれている、大切なさくらの下へ。
早く顔を見せて安心させたい。
・・・何より自分自身が、早くさくらの顔を見て安心したかった。




