第76話
「ヨルク。セルヴァン様たちと何を話してたの?」
リビングに戻ると、ヒナリがさくらの頭を撫でながら聞いてきた。
さくらはハンドくんに抱かせてもらったのだろう。
愛用の『抱きまくら』を抱きしめて、何事も無かったように寝息をたてて眠っている。
「さくらのこと。何が起きているか分からないから、『屋上庭園』に行かず、この部屋で大人しくしていろってさ」
「ヨルクが無茶するから」
「オレのせいかよ」
「だってそうでしょ?最近はさくらまで巻き込んで・・・」
「ハイハイ。さくらが起きたら『おやつ』を貰うか?それとも『早めのお昼』にするか?」
「セルヴァン様たちは?」
ヒナリの向かいに座り、さくらの頭を撫でる。
「先に食っててイイだろ。さくらにご飯を待たせている方が、絶対!間違いなく!2人に叱られる。・・・オレが!」
「それもそうね」
もしさくらが「待ってる」と言い張ったとしても、先に食べさせていないと説教を受けるのは確実だ。・・・ヨルクが。
「っくしゃん」
さくらが数度のクシャミと共に目を覚ました。
それと同時に、ハンドくんたちが水の入ったコップと袋に入った『何か』を持ってきた。
「それイヤー!そのまんま飲むのはイヤ!絶・対・ヤ!」
両手で口を塞いで、断固拒否の姿勢を見せるさくら。
あれがさくらのいう『こなこな』さんなんだろう。
そんなさくらの前に、丸い入れ物を持ったハンドくんが現れた。
それを見て「むぅー」と唸り出す。
でも口を塞いでいるため「ヴー」としか聞こえない。
ハンドくんたちが丸い入れ物から薄いペラペラしたものを出して、袋の中身をのせて包んで端を水で濡らしてとめる。
それをじっと見てたさくらが「お口直しはー?」と聞くとアイスが出てきた。
「ほら。さくら。起きましょ」
ヒナリに促されて、膨れっ面のさくらをヨルクが抱き起こす。
「アイスにキャラメルぅ」
さくらが最後の『抵抗』を見せるが、アイスにトロリとした何かをかけられて『ひと口目』を口に入れてもらうと笑みを浮かべる。
さくらがコップの水を口に含んだ状態で上向きになり、口を開けるとさっき包んだ『クスリ』をハンドくんが入れる。
ゴクンッと飲み込むと、両手で抱えていたコップの水を一気に飲み干していく。
アイスが近付くと口を開けて待っている姿は『鳥類の雛』の餌付けに近いだろう。
ヒナリが代わりたそうにしていたが、ハンドくんが最後まで食べさせていた。
最後のひと口が終わると、スプーンを皿に乗せたハンドくんがさくらの頭を撫でてからポンッと消えた。
「よく頑張ったな」
頭を撫でてやると嬉しそうに笑顔になる。
向かい側からもヒナリが「エラいわ〜」と誉めていた。