第75話
「ン・・・だあれ?」
さくらが目を覚ましたのか。
でも目が虚ろだ。
「さくら?どうした?」
「・・・・・・『あなたたち』はだあれ?」
「オレたちが分からないのか?」
焦点の合わない目を見て、慌てて窓に近寄り外を確認するドリトス。
『魔物』が浄化を求めて現れた時を思い出したのだ。
あの時のさくらは『魔物の声』に反応して会話をしていたからだ。
続けてヨルクとヒナリも、テラスから外へ出て周囲を見回す。
2人には『魔物の浄化』の話をした時に『さくらの状態』も話してあった。
「どこにも『魔物』の気配とかないよな?」
「ええ」
【 『聖なる乙女』が召喚された 】
この世界の言語でホワイトボードに書かれていた。
それに気付いたドリトスとセルヴァンは顔を見合わせる。
ハンドくんはヒナリやヨルクが戻ってくる前に、ホワイトボードの文字をキレイに消した。
「2人ともしばらく離れるが・・・さくらを頼めるか?」
「何かあったのですか?」
「ジタンの所へ行ってくるだけじゃ」
以前にさくらが『虚ろな目』をした時は、このエルハイゼン国が受けていた『神の怒り』を赦された時だった。
またこの国に『何か』が起きた可能性も否定出来ない。
「分かった。ここで待ってる」
ヒナリがセルヴァンと交代する形で、さくらを『ひざまくら』する。
ヨルクは2人について隣の応接室に入っていく。
「『聖なる乙女』が召喚されたんだろ?」
ヨルクの言葉に驚く2人。
「前に神たちが寝てるさくらの様子を見に来た時に、『召喚が決まった』と言ってるのを聞いた」とバツが悪そうに話すと、セルヴァンがヨルクの頭に手を乗せて「そのようだ」と教える。
「ヨルク。さくらを『乙女』に会わせたいかね?」
ドリトスの言葉に「イヤだ」と即答する。
『乙女』がさくらをキズつけないか、現時点では分からないからだ。
この部屋なら神でもハンドくんでも『結界』が張れる。
結界を張っていても、ドリトスたちが戻ればハンドくんたちが開けてくれるだろう。
ハンドくんたちに守られているとはいえ、屋上庭園にいたら出くわす可能性がゼロではない。
「ワシらも、今はさくらと会わせるのは避けようと思っておる」
「少なくとも、さくらの体力がある程度回復するまでは、会わせるべきではないだろう」
3人の意見は一致している。
『さくらのことを最優先に』だ。
「分かった。とりあえずヒナリとさくらには黙っておく」
「ああ。留守の間、2人のことは任せたぞ」
2人とも『一族の代表』としてこの国に滞在している。
いくら『さくらが心配』でも、『職務』は全うしなくてはならないのだ。




