第71話
・・・懐かしい。
『元の世界』の夢を見た。
農家だった親戚の家で過ごした夏の日。
家族や親戚たちと行った海。
新鮮な野菜を食べて、果物も食べて・・・
そのおかげで、子供には多い『好き嫌い』はなかった。
たわいない『日常生活』も夢でみた。
・・・そして目覚めた時に『現実』を思い知らされる。
目を覚ました時にはみていた夢を覚えていないのに、『懐かしい』という感情だけは残っている。
涙を流しながら目を覚ますと、ハンドくんが汗とともに拭いとってくれていた。
そのうち、熱を出す時は『元の世界』の夢を見ることに気付いた。
『元の世界』の夢を見るから熱を出すのか、『熱を出す』から元の世界の夢を見るのか・・・
まるで『胡蝶の夢』だ。
「さくら・・・」
目を覚ますと、ヨルクが心配そうに覗きこんでいた。
周りを見回すとここは屋上庭園の芝生の上で、獣化したセルヴァンのモフモフに凭れて眠っていたようだ。
横ではヒナリがセルヴァンに凭れて寝てるし、ドリトスも一緒に寝ている。
「・・・ヨルク?」
ハッキリしない頭でヨルクを見ると、目の端を親指で擦られた。
寝ながら泣いていたからヨルクが心配したのだと、やっと理解出来た。




