第69話
ドリトスの腕に抱かれて、セルヴァンの獣化を見ていたさくら。
どこかの世紀末の人みたいに服を破ることもなく、全身が金色に光って輪郭がぼやけ、光が収束した時には体長2メートルほどの大きな茶色の犬が身を伏せていた。
伏せているのは、大きな身体でさくらを怖がらせないためだ。
ドリトスが、目を輝かせて見ているさくらを犬の横に座らせる。
「わぁーい!セルヴァンすっごーい!!」
大喜びして抱きつくさくらの身体を、セルヴァンは大きなシッポで覆う。
「これがさくらの見たがってた『獣化』だ」
「うん!すっごいねー!ありがとうセルヴァン!」
わーい!モフモフ天国だ〜!
さくらはセルヴァンのお腹に抱きついて喜んでいる。
そんなさくらだったが、しばらくすると静かな寝息が聞こえてきた。
セルヴァンがさくらを覆っていたシッポを離すと、セルヴァンの毛にしがみついて笑顔で眠るさくらがいた。
「やっぱり眠ったのう」
「ええ。思った通りですね」
ドリトスとセルヴァンの言葉に驚きの声をあげようとしたヒナリとヨルクだったが、前もって現れたハンドくんに口を塞がれていて声が出せなかった。
「どういう事かって?」
セルヴァンの小声に何度も頷く2人。
小声なのは、さくらが起きないようにという配慮からだ。
「簡単じゃよ。さくらはセルヴァン(のモフモフ)が一番好きじゃからな。初日は抱きついて離れなかった位じゃ」
ドリトスの言葉に目を丸くする2人。
しかし目の前には、さっきまで頑なに「寝ない」宣言していたさくらがセルヴァンに凭れて眠っている。
「ングー!ムグムグー!」
口を塞がれているから『声』にはなっていないが、ヨルクは文句を言っているようだ。
「ウ・・・ン・・・ふみぃー」
さくらが身動ぎしてグズり出す。
セルヴァンがシッポでさくらの身体を擦ると、すぐに固くしていた身体からチカラが抜ける。
腕を伸ばす形で身体を起こしていたさくらは、セルヴァンにポフンと埋もれるように凭れたが、それでもグスグスと泣き続けている。
「大丈夫だ。さくら」
「ん・・・モフモフ〜ぅ・・・」
しばらくシッポでさくらの顔を擦っていると泣き止んで、ふたたび穏やかな表情で眠りだした。




