第67話
「そろそろ部屋へ戻るぞ」
セルヴァンにお姫様抱っこで抱き上げられた。
外は陽が落ちてきたのか、窓から見える空は『さくらんぼ色』に染まっている。
ヒナリがずっと抱きしめてくれていたけど・・・
「重かったでしょ?」と聞いたら「全然。また『膝だっこ』させてね」って笑って言われた。
「ねぇ。ヨルクは?」
また『いなくなっちゃった』の?
心配そうにセルヴァンを見上げるさくら。
バッチーン!
ドッターン!
「イッテェー!!」
大きな音と共にヨルクの叫び声が聞こえ、驚いたさくらがセルヴァンにしがみつく。
すると頭を押さえたヨルクが、奥のベンチからフラフラ〜と立ち上がった。
「もう!何やってるの!」
ヒナリがヨルクのそばに飛んで行き、引き摺って連れてくる。
「またハリセン食らったー。今度はベンチから突き落とされたー」
「『また』?」
ヨルクの言葉を、小首を傾げたさくらが繰り返す。
その原因が『さくらの寝言』だったのだが、当の本人が知るはずもない。
それは『寝言とは寝てる時にいうもの』だからだ。
ちなみに、アストラムたちのように起きた状態で言うのは『戯言』という。
「さくらが寝ている時にバカなことを言うてな。ハンドくんに『ハリセン攻撃』を受けたんじゃよ」
「じゃあ『今』はナゼ?」
「『何度起こしても起きなかったから』だろう」
「だからって!いちいちハリセン出さなくてもいいじゃないかー!」
「何言ってんのよ!さくらが『いなくなった』って心配してたのよ!」
ヒナリの言葉にハッとしてさくらを見る。
さくらは泣きそうな、不安そうな目をしていた。
「さくら。こっちおいで」
ヨルクが手を伸ばすと、さくらはセルヴァンの胸に顔を埋めて『イヤイヤ』と首を横に振る。
その姿にショックを受けるヨルク。
セルヴァンには「諦めろ」と切り捨てられ、ドリトスからは「さくらを泣かすほうが悪いんじゃ」とトドメを刺されてさらに落ち込む。
「ヒナリ〜」とヒナリに助けを求めるが、「置き手紙もしないで黙っていなくなって。今朝、さくらがどれだけ泣いていたと思ってるの?」と見捨てられて撃沈した・・・
さくらは目覚める直前に、『呪いを解除』された時の映像を創造神から見せてもらっていた。
ヨルクの様子が気になって使ったお得意の『鑑定』魔法で、魔力がかなり減っているのは気付いていた。
しかしそれは、『ヨルクたちの家がある《セリスロウ国にあるマヌイトア》まで往復したから』だと思ってた。
でも、実際は『呪いの解除』のために魔力を使い切っていた。
ヒナリが負担する分も大半をヨルクが引き受けて・・・
魔力を使い果たしたから、回復させるために眠いのだろう。
さくらは、そんなヨルクに『少しでも疲れさせるようなこと』はしたくなかった。
・・・ヨルクにとって、さくらを腕に抱く行為は『癒し』効果があったのだが。
『親鳥の心 雛知らず』だった。




