第65話
「イッテェ・・・」
ヨルクが後頭部を押さえて芝生の上で寝転がっている。
さくらの寝言で2人からゲンコツを食らった直後。
突然現れたハンドくんに口を塞がれて、後頭部に『ハリセン攻撃』を一発受けたのだった。
そのそばで、同じく芝生に座っているセルヴァンとドリトス。
「ヨルク。重大な事を言い忘れていたが・・・神々以上に、さくらのことで一番『怖い』のは『ハンドくんたち』だからな」
「ジタンでさえ、何十発も『ハリセン攻撃』を食らっておったぞ」
「さくらが止めなければ、20人の『ハリセン一斉攻撃』を食らう所だったな」
「そんな大事なこと言い忘れるなー!」
「シィー!」
唇の前に人差し指をあてたヒナリに注意されて、慌てて口に手を当てて黙るヨルク。
今は揺り椅子にヒナリが座り、眠るさくらを膝だっこして揺れている。
ヨルクがハンドくんに『ハリセン』を受け、驚いたヒナリが声を張り上げた。
その声でさくらが身動ぎして目を覚ましてしまったのだ。
『呪い』が解けたからと言って、『ひと眠りしたから全体力復活!』なんて都合のいい話はない。
もちろん、さくらの体力も回復しているわけもなく。
レベルアップで『体力魔力ステータス異常すべて全回復』も、現実では起きなかった。
・・・もちろん「好きなゲームジャンルはRPG」というさくらは『実験』済みである。
だから、さくら自身は起きていようと頑張っていても、『少しでも眠って体力を回復させよう』キャンペーンを開催中のさくらの身体。
そこにドリトスとセルヴァンの『フカフカ毛皮攻撃』と『頭ナデナデ攻撃』のWコンボですぐに寝落ちした。
そんなさくらを起こしてしまった事で、ヒナリが深く落ち込んでしまった。
それに気付いたドリトスは、さくらが完全に眠りについたのを確認してからヒナリに交代するように言った。
揺り椅子に座っての『膝だっこ』なら、ヒナリにも大きな負担はないだろう。
はじめは『おっかなびっくり』でさくらを抱っこしていたが、緊張より母性愛の方が増したのだろう。
今は『母親』の顔をして、愛しそうにさくらを抱きしめてトントンと軽く一定のリズムで叩いている。
ヒナリが椅子を揺らしながら口ずさんでいるのは、翼族なら誰もが知っている『子守唄』だ。
幼くして母親と死別したヒナリにとって、子守唄は母親との数少ない『思い出』だ。
そんな彼女が、自らの『雛』に子守唄を歌っているのだった。
「あーあ。幸せそうな顔しちゃって」
「本当にな」
「まったくじゃ」
「・・・なに見てんだよ」
大人2人に呆れた表情で見下ろされたヨルクが不貞腐れる。
「自覚していないようじゃな」
「そのようですね」
さくらを見ているヒナリだけではない。
腹ばいになって2人を見ているヨルクも、幸せそうな表情をしているのだ。
もちろん。ドリトスとセルヴァンもさくらの事に関してなら、ヨルクやヒナリの事を笑えない位に猫っ可愛がりしている。




