第63話
ヨルクから貰った『羽衣』は、身につけるだけで効果があるそうだ。
ヨルクに抱かれた状態でヒナリが腰に巻いてくれる。
高熱を出した頃から、なんとか手は動かせるが、足はほとんど、全然、まったく動かない。
仕方がないよね。
『これでもか!』っていうくらい寝てて、足を含めた身体の機能を十分に使っていなかったんだから。
『廃用症候群』の『廃用性筋萎縮』ってところかな?
これは『病気』ではなく『身体的症状』だから、リハビリで回復させるしか方法がないだろうけど・・・
体力も無くなっていたから、今まで無理は出来なかった。
ひとりでは自身の身体を支え続ける事すら出来ない。
セルヴァンやヨルクがすぐに『お姫様だっこ』に『膝だっこ』で抱えてくれるし、リビングには『私専用』のひじ掛け付き座椅子が用意されているから、座位は何とかなっている。
お昼ご飯も、サンドウィッチではなかったのは『握ることは出来る』けど『摘まめない』からだろう。
これが『私一人』か神々と一緒なら、いつも通りハンドくんが食べさせてくれただろうけどね。
でも『呪い』が消えた今、少しずつでも練習が出来る。
・・・当分、無理も無茶も出来ないが。
ぼんやりしていたら、ヨルクが私を抱えたまま日向へ歩いていく。
昨日の事があったから、ちょっと怖くてヨルクにしがみついて目を閉じる。
『元の世界』では『層』があったため、太陽光を直接受けていなかった。
しかし『この世界』には『層』がないそうで、太陽光を直接受けてしまう。
その結果が昨日の『日射病』だ。
1時間も『陽の光』を浴びていなかったのに・・・
「大丈夫よ。さくら」
「さくら。目を開けてみろ」
恐る恐る目を開けると、もう陽の下に出ていた。
でも身体は『陽の光』を感じていない。
空を見上げても、雲ひとつない青空なのに目は眩しさを感じない。
肌をさすような、チリチリと焼けるような感覚もない。
「あっれー?」と言いながら目を擦っていたら、ヒナリに手を握って止められた。
「大丈夫よ。衣が陽の光からさくらを守っているの」
「ちょうど、さくらの周りに『水の膜』を張ってるようなもんだ。だから『暑くない』だろ?」
ヨルクの言うとおり、暑いはずなのに『ひんやり』してて涼しい。
そういえば、私が魔法の練習をしてた無人島も、勝手に別荘まで作って私有地化した無人島も、『島の意思』が張っている結界は『水の膜』で、『初夏の気持ちいい温度と陽射し』の中で過ごしているようだった。
よくよく考えれば、昨日、初めてこの世界の陽の光を浴びたんだよね。
『無人島諸島』周辺は、広範囲で『薄曇り』だった。
エルハイゼンに来た当日は王城内で短時間だったし、『神の怒り』で翌日から曇天だったんだから。
これなら、いくらでも外を『出歩ける』ようになる・・・